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Break a low  作者: 秋宮聡一
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二章 その3

「では作戦の説明を」

「作戦なんか立てる必要あるの~?」

「……ま、まぁ一応……とりあえず念頭には入れておいてほしいのですが……」

「備えあれば憂いなし、って言うしね」

「ふ~ん。わかった」

「という事だ。説明してくれ、レイ」

「わかりました。まぁ、作戦とは名ばかりで厳密に言いますと『緊急時にどう行動するか』についての取り決めですがね」


 レイが「こほん」と咳払いをする。

「私は後衛、千晶は遊撃、そして貴方は――前衛というところですかね。千晶は主に私を護衛しつつ隙あらば敵陣に潜入し、敵を攪乱していただきます。一方貴方は敵に斬りこみながら、千晶の潜入ルートを確保していただきます」

 僕が囮ってことか…?

 と、いうことは、

「僕の行動がその後の展開を左右するのか……責任重大だな」

「上手く立ち回ってくれないと私もやり辛いからね。頑張って、アレリア」

 にこっ、と太陽のような笑顔を向けてくる千晶。

「ははは……頑張るよ……」

 苦笑いしかできないアレリアであった。

「さて、では始まりますよ。準備はいいですか?」

「三班、早く来なさい!!」

 試験官が吼えている。急がないと、

「そうよそうよ!! 二人とも早く!!」

「え!? なんで千晶が!?」

「これが千晶クオリティよ」

 どどん、と胸を張って言う千晶。千晶クオリティ?

「気にしたら負けですよ? 彼女はそういう存在です」

 レイがため息をつきながら意味深な事を言ってくる。しかしアレリアは、

「はあ」

 とyesともnoとも言える中途半端な返事しかできないのであった。

 そして三人が試験官の前に立ったところで、

「まったく、お前たちは……まあいい。試験を開始するぞ」

 試験官が呆れながら告げる。 

「注意として言っておくが、会場の要所要所に監視の為に上級生が配置されている。彼らが試験続行不可能と判断した場合、その時点で試験は終了になるから、気をつけたまえ。まあ、お前らは問題ないだろうがな」

「三人とも特待生だろ?」と付け加え、

「さて、では開始だ。健闘を祈る」

 試験開始の合図を告げた。


      ○


「前方に敵を視認!! 数は三!! 先行するわ!!」

 千晶の声が森に響き渡る。

 三人は木々に囲まれている道なき道を進んでいく。

 千晶が先行し、アレリアがレイを守るように付き添って走っている。

 森を始めとする視界が悪い地形の場合、最も怖いのが奇襲だ。木々や物陰に身を隠し、虎視眈々と獲物を狙っているのだ。奇襲をされたとしても、前衛―つまり近接戦闘用の装備をしている者ならば、ある程度は対応できる。しかし、レイは後衛、つまり敵に近づかれる事を想定していない。その装備は前衛のそれと比べれば紙同然だろう。

 だからそれに対応するために護衛をつけるという意でアレリアが隣についているのだ。

 千晶は遊撃ということで今はレイの護衛をアレリアに任せ、前方の敵に向かっている。 

 アレリアは敵を見る。千晶が敵に気付かれないよう接近しているので、台無しにしないように少し距離を置いてはいるが、充分にその姿は確認できた。

 その姿は……虫……のようだった。

 頭部は小さく、細く短い触覚を持っている。胸部、腹部共に長く、前足は発達して鎌形になっている――カマキリのようだ。

 普通のカマキリの何ら変わらない――違うのは、大きさだけだった。

 その大きさは、アレリアたちのそれと大差ない、気がする。

 近づくのは危険そうな相手だが、幸いなことに今はお食事中らしく、こちらの存在は気付いてない。

 喰われているのは同じ様な、大きさが規格外の虫だった。

 一匹の骸に三匹の巨大カマキリが纏わりついて、その身を貪り食っている。

 千晶が音もなく近づいていく。

 まるで這うように、滑るように敵に寄って行く。

 その手には二振りの小太刀が握られていた

 千晶はその足を緩めることなく巨大カマキリの後ろに回りこみ、音もなく飛び上がる。

「合図です」

 レイの声が聞こえてくる。

 瞬間、アレリアはその速度を上げ、巨大カマキリに向かっていく。

 大きな足音、隠すことない気配と共に。

「何事か?」とでも言うかのように巨大カマキリ共が、その頭を上げる。

 その視線、注意は全てアレリアに向いている。

 これでいい。アレリアは心の中で呟く。

 

 キシャアアアアアアアアアアアア……


 カマキリたちが揃って咆哮をあげる。

 その咆哮は「食事を邪魔された事による恨み」と、「新たな栄養を見つけたことへの喜び」の二つを意味しているのだろう。

 巨大カマキリはこちらへ向かおうとする。しかし、

 ―直後―

 三匹の中の一匹、その頭部が音を立てて吹き飛んだ。

 ブシュと体液が飛び散る。

 そして頭部を失った体は、まるで糸の切れた人形のように、ストンと地面に崩れ落ちた。

 新たな気配の発生により、暫時停止する残りの巨大カマキリ。その隙を逃すまいと抜剣、そして二匹のうち一匹に突進する。

 標的をアレリアに絞った巨大カマキリは、捕まえるためであろう、その鎌状の前足をすばやく振ってくる。

 しかし、アレリアの方が早かった。

 掴む対象がなく、虚しく空を切る前足。

 カマキリの視線が下へ動く。

 そこにはアレリアがいた。隙をついたのが功を奏し、間一髪で懐に入り込むことができたのだ。

 アレリアは突進の勢いを殺すことなく、その剣を後ろへ引く。

 アレリアの目はカマキリの、長く、発達している胸部へと向いていた。

「ふっ」

 という、息遣いと共に放たれる攻撃。

 突き出された剣は、見事に、カマキリの胴体に突き刺さった。

 体液が飛び散り、苦悶に満ちた咆哮が聞こえてくる。

 しかしアレリアの攻撃はこれだけでは終わらない。

 アレリアは体を捻る。その動きに連動して剣が巨大カマキリの肉を抉っていく。

 その動きのまま剣を両手に持ち、横に薙いだ。

 剣がカマキリから離れる。同時にアレリアは足を踏み出し、距離を開ける。

 距離を開けたアレリアは振り返り、様子を見る。

 その姿は凄惨なものだった。

 敵の胸部には穴が開き、切り傷が横へと広がっている。

 支えることができなくなった首の部分が、その重さに負け、地面へと落ちた。同時にその胴体も力を失い、倒れる。

 剣を振り、付着した体液を払う。

 千晶の方に視線を向けるが、丁度、最後の一匹を始末したようだ。

 一匹目と同じように頭部がなくなり地面に横たわる。

「おやすみ」

 アレリアはそう言いながら剣を剣帯に納める。

 周囲に静寂が訪れる。

 戦闘は勝利という結果で終了したのだった。


「すばらしい戦いでしたね。見惚れてましたよ」

 レイがこちらへ向かってくる。

「知り合って二日目にしちゃ上出来でしょ?」

 小太刀を納めた千晶がこちらへ歩いてくる。

 巨大カマキリ二匹を相手にしていたはずなのに、疲労の色は見えない。

 疲労を感じさせぬ笑顔を振りまきながら二人と合流する千晶。

「あれって倒したことで何かメリットあるの?」

 合流するや否やそんなことを聞いてくる千晶。

 レイは「開始前に説明してましたけどね」と呟きながらため息をこぼし、

「あの巨大カマキリは大体3点位でしょうね。聞いてないようなので説明しますが、巨大カマキリを始めとする肉食の虫状生物は一匹につき3点。草食は1点。駆除するたびに加算されていきます。動物型もいるようですが、新入生では危険、ということなので今回の範囲では巣の密集地帯は含まれていないようです。

 対人戦も許可されています。対人戦では、相手グループを倒すことでボーナスとしていくらか加算されるようです。その加算具合は、それまで彼らが稼いだ点に関係するようです。

 なお、対人戦の場合、両者が傷つかないための特別処置として『守護魔法』は発動されます。

これのおかげで、たとえ斬りあったとしても死ぬことはありません。しかし、守護の範囲はあくまでも『肉体的損傷に限る』らしいので、痛みなどは遮断されないようです。

 勝敗の判断は監視作業中の上級生の方がやってくれるようです。保護も同様に、です」

「肉体的な損傷の遮断か……これなら安心だね」

「同学生間のみ適応される、という制約付きのようですがね。だから上級生が配置されているんでしょう。万が一の事は起こらないとおもいますよ。恐らく監視は万全のはずです」

「そっか。わかったわ。ありがとっ」

 千晶必殺(?)太陽の笑顔。

「どういたしまして」

 しかしレイはたじろぐことなく対応する。効果はない様だ。

「じゃあ敵を探すね」

 千晶は走り出そうとする。

「あ、待ってください」

 がレイが呼び止めた。

「どったの?」

 疑問を口にしながら千晶は戻ってくる。

 レイは腰のポーチから一冊の本を取り出す。

「効率を上げるために彼らの力を借りることにしましょう」

 彼らの力を借りる。つまりなんらかの召喚術を行使するということか。

 では、一般的に考えて、レイの持っている本が何なのか、恐らくはその手法とかが書かれた魔術書の類なのだろうということは容易に想像がつく。

「詠唱とかするのか?」

「多少の例外はありますが普通は行います。そもそも詠唱というのは術式を組み立てるための方法です。詠唱することなく組み立てることも可能ですが、『召喚』に関してはその術式が普通の魔術よりも複雑なために詠唱を行わなければならないのでしょうね」

「説明はいいからさっさとやってよ」

 千晶が口を開く。痺れがきれたのだろう。

 索敵に行こうとするのを止められたのだ。無理もないのかもしれない。

「分かりました。ではいきます」

 レイは承諾し、本を開く。

 レイは深呼吸をし、本を構える。


 空気が変わる。

 あたりに魔力が満ちていく。

 今まで召喚術を見たことがないアレリアは、一言で言ってわくわくしていた。

 ただの魔術なら今まで何度も見たことはある。

 王立の訓練でも魔術が飛び交うのが普通だった。

 しかし、王立でも召喚術師サモナーは特別視されており、通常とは違う、別プログラムの授業だったために、アレリアは会った事がないのだ。

 

    ――来い――


 レイの詠唱が始まる。

 風で本のページが捲られていく。均一の速さで、一ページずつ。

 そしてある時それが止まった。

 不可思議な光景だ。

 レイの呼びかけに本が呼応しているとでも言うのか。

それは、彼の体の一部にでもなったかのような錯覚を生み出させる。


  ――我が名はレイ・シュバルツハイム――

                          ――我と契約せし者よ――

      ――我が呼びかけに応じ、今ここに顕現せよ――


 本が光を発しだす。

 神秘的な光だ。強く、優しい。様々な何かが内包されたような光。

 それが本より溢れ出し、辺りを包む。

 よく見ると描かれている文字が発光しているようだ。

 

      ――風を統べる者よ――

                  ――偉大なる風の霊よ――


 この言葉で判った。レイが召喚しようとしているのは風精霊だ。風精霊は四大元素の一つである「風」操ることのできる精霊だ。

 周囲に風が吹き荒れる。

 反射的に目を細める。

 普段、方向性も何もないように思われる風だが、このときはそうではなかった。

 明らかにその方向性を持っている。

 風が、一箇所に集まっている。レイの目の前、そこに風の球みたいなものが形成されていた。

 風の球の中に何かが蹲っているような、そんなシルエットが浮かび上がる。


「来てください―――アリエル!!」


 レイが唱える。直後、風球は飛散し、暴風が吹き荒れた。

 暴風のせいで舞い上がった砂埃から避けるために、腕で目を覆う。しかし、外へ行くように風が吹いてくれたので、幸いながらすぐに目を開けることができた。

 目の前に何かがいた。

 尖った耳、亜麻色の髪、そして透明な羽。

 大きさは人の頭よりちょっと大きいぐらい――が宙に浮いている。

 俗に言う「妖精」という奴だろう。

「レイ……これは……?」

 感激のあまり、声が漏れる。疑問形で。

 その質問に対して、レイはその妖精を肩に乗せ、昔からの親友を紹介するかのような口調で、

「ああ、彼女は風精霊――シルフのアリエルです」

 と言うのだった。

ついに戦闘シーンが!!  戦闘シーンを書くときは、なぜか分かりませんが筆がどんどん進みます。

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