二章 その1
『あー、えー、これから試験を始めたいと思いますが、皆さん、準備はよろしいですか?』
先生の声が聞こえてくる。この間延びしていてやる気の無い感じ、うちのクラスの担任だな。
『えー今回はですね。実践を想定した戦闘試験です――』
眠い。それにしても眠い。
ピリッとした雰囲気の中、僕だけが欠伸をして、ボーっとしている状況だ。
この二日間、睡眠時間など、無いと言っても良いのではないか?
睡魔が僕を夢の世界に誘っている。しかし、寝てはいけない。寝てはいけない理由があるのだ。
辺りを見回してみる。
一応出席番号順に並んでいるので、後ろには千晶が立っている。
千晶は前が見えないのか、その場でジャンプしている。
その際に僕の肩に手を置いて跳ねるのはやめていただきたい。
レイは後ろのほうに立っているが、近くの女子にまた言い寄られている。
しかもレイは全く嫌がる様子をすることは無く、笑顔で対応している。
絶賛人気上昇中、と。
まぁ男子は反対の反応をレイに示しているが。
ほら、妬みとかいうやつだ。
羨ましいんだろうね。
因みに僕の場合なんだが、僕はレイと千晶とチームを結成したわけだが、
どうもそれが女子の怒りに触れたらしい。
心なしか視線が痛い。
千晶も同種の視線が向けられているはずなのだが、本人は全く気にしていないようだ。
「なあ、千晶」
僕は前を向いたまま、千晶に話しかける。
「ん?」
千晶は飛び跳ねながら応答する。
「視線気にならないの?」
「全然。慣れてるし」
いや、慣れてるって…
「ん、なに~。もしかしてアレリア、この程度でびびってるの~?」
千晶が口をωにしている。
「……まさか」
僕も苦手ではあるが、耐性が無いわけではない。王立は常にそういうプレッシャーに晒されていたからね。
「ふ~ん」
何気ない反応だが、その言葉の中には疑問が内包されている。
「そういえばさ、アレリア」
「ん?」
「あんたって、特待生だったわよね」
「…一応ね」
「じゃあさ、どこの出身なわけ?」
……は?
「いや、何の基礎もできない初心者を特待生にするわけないでしょ。特待生になるぐらいならどこかでその技術を身につけたんでしょ。じゃあどこで身につけたの?」
「い、いや……それは……」
言えない、言える訳ないだろ。千晶は首都出身だ。ならもちろん「除外者」の事だって知っているはずだ。
王立出身だと言ってみろ。間違いなく三年間、暗い学校生活を送らなければならない。
「どうしたの?」
「いや……」
しどろもどろになりながらも必死に言葉を捜す。
「昔、少し齧ったことがある程度だよ。」
どうだ…こんな感じの答えで…
「ふ~ん。そんなもんなのかぁ~」
千晶はそう言って追求をやめた。危ない危ない。
『――では、解散して各自準備に取り掛かってください』
千晶とそうこうやり取りをしている間に説明が終わってしまったようだ。
レイがこちらへ向かってくる。
その歩いている姿はまるでどこかの貴公子かのように凛々しい。
女子の前を通り過ぎる毎に黄色い声援があがっている。
「お二人とも、準備は?」
僕たちの前に立ったレイは開口一番、そんなことを聞いてきた。
「問題なっしんぐ。いつでもいけるよ~」
千晶が陽気な声で返事をする。
腰には二本の小剣が差してあり、肩には数本のナイフが差してある。苦無というやつだろうか。
まぁ、どちらにせよ準備万端ってことか。
「僕も大丈夫。何時でもいけるよ」
腰に差してある剣を軽く叩きながら言う。
因みにこの剣は王立にいた頃の支給品で、本当なら変換義務があるのだが、教官の厚意で今手元にある。
中等部にいた頃から使っていた物なのでそれなりに愛着がある。
「そうですか。もうすぐ試験開始なので」
「わかった」
短いやり取りの後、レイは人ごみの中へ消えていった。
「もうすぐ試験なんでしょ? じゃあ固まってた方が――」
千晶はそう言ってレイを追いかけるが、言葉を全て紡ぐことはなかった。なぜなら――
「邪魔よ」
という声と共に突き飛ばされてしまったからだ。
「きゃっ」
千晶は声をあげて尻餅をついた。そしてそんな千晶を嘲笑うかのように、
「あら、ごめんなさい。小さすぎて見えなかったわ」
という声が聞こえてくる。さっき邪魔って言ったのは誰なのやら。
千晶を突き飛ばしたのは女性だ。背は高く(千晶に比べれば)整った顔立ちで、どことなく豪華な感じがする。
「そう」
千晶は立ち上がり服を叩いている。その物言いから判断出来るが相手にする気はなさそうだ。
「あらあなた、もしかして鳳さん?」
「……そうだけど」
「へぇ~、あなたが……」
まるで汚いものを見るような視線が突き刺さる。
千晶を突き飛ばした女性は嘲笑うような態度を変えない。
……気に食わないな。
「千晶、体は?」
千晶の側に寄る。
「大丈夫よ、アレリア」
千晶は軽く答えるが、様子から、注意は女性に向いているようだった。
「そこの男子、あなたが彼女のチームメイト?」
その様子を見て、女性が話かけてくる。
「……そうだけど」
「へぇ、あなたが、ねぇ」
まるで品定めをするようにじろじろと女性は僕を見てくる。
「ねぇ、あなた。私と一緒に来ません?」
……。
「は?」
今何て言った?
「理解できていないようですから言い直しましょう。私たちとチームを組みなさい。今からでも遅くはありません」
……。
「どうですか?」
「ごめん、君と組むことはできない」
「…それは、どうして?」
女性は問う。
「僕は、彼女―千晶たちと組むことを決めたから。そんな勝手な考えで違える訳にはいかない。だから、僕は君と組むことはできない」
「…そう」
女性は笑う。
しかし目は笑っていなかった。
女性は僕を千晶を見るときと同じような視線を向けてくる。
「あなたは、私ではなく、その穢れた日本人を選ぶのですか…」
「……何を言っている?」
「……そうですか。ならいいでしょう」
女性は振り返り、
「私はメルティア・アルベーン。私は、あなたたちを認めない」
と言い、そして、
――でも、もし、気が変わったら、何時でもいい。私のところへ――
そう付け加えてどこかへ行ってしまった。
呆然とする僕のそばにレイが歩み寄る。
「アルベーン、ですか…。厄介な家に目を付けられましたね」
そんな言葉が僕の頭に響いたのだった。
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