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Break a low  作者: 秋宮聡一
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一章 その2

「日本系移民?」

「うん。私はそう呼ばれた一族の末裔よ」

 アレリアたちは廊下を歩いていた。アレリアとレイが横に並び、千晶がその前をこちらを向いて歩いている。

 校舎は中世風な造りをしているが、生徒が着ている近代的な制服の対比がなんとも言えない雰囲気をかもし出している。

「私の目の色や髪の毛とかから判るだろうけどね」

 千晶は癖の無い黒色の長い髪をしていて、茶褐色の目をしている。どれも日本人に見られる特徴だ。

 大和撫子…か弱いながらも、凛々しい所が有るという意味の日本女性の美称。らしいが、千晶の場合は背が低く、童顔という事から凛々しいというよりも、可愛らしいという表現が合っていると思う。

「…アレリア…」

 レイが耳打ちしてくる。

「…彼女に小さい、やそれと同義の言葉は禁句です。言わないほうが身のためですよ? 気をつけてください…」

「…わかった。気をつける…」

 何故こうも念押しされるのだろうか。もし言ったら何が起こるのだろうか? ……やめておこう。これ以上の詮索はいろいろとヤバイ事に巻き込まれそうだ。

「んで、アレリアだっけ?」

 千晶が口を開く。

「ん、そうだけど」

「あなたって前衛? それとも後衛?」

「? 何のこと?」

「授業のことよ。どっち取ったの?」

 授業。この学校には他の一般的な教育機関と違い「戦闘技術」という授業がある。この授業は大まかに前衛用と後衛用の二種類に分かれていて、それぞれ入学時に選択する必要がある。

 そしてこのときの選択が将来的な自分の戦闘スタイルを決めることになる。

「ああその事か、僕は前衛を取ったよ」

「そうなの、私も前衛よ」

 千晶がこちらに笑顔を向ける。まるで太陽みたいな、見ていて幸せな気分にさせてくれそうな笑顔だ。

「前衛ってことは演武があるわね。アレリア、そのときは一緒にやりましょう」

「機会があれば…ね」

 あの身のこなしから判断するに勝てそうにないのだが…

 あんな奇天烈な動きに対応できるのか、いやできまい。と反語風に自問自答してみる。

「レイはどうなのよ? 前衛? 後衛?」

「私が前衛をすると思いますか?」

「だよね~」

 レイは後衛なのか。

「後衛って事はレイは弓を使うのか?」

 弓の後方支援が無ければ前衛は前に出ることができない。相手を牽制し、相手が警戒して前に出てこなくなる。その結果、戦線を上げることができる。必要な職だ。

「いいえ、私はどちらかといえば弓よりも魔術を使います。しかし、後方支援という点で言うのならば、役割は一緒ですがね」

「魔術!? 君は魔術師なのか??」

「ええ、広義ではそのような扱いになるのでしょうか。厳密に言うと召喚術師(サモナー)と呼ばれる職です」

 召喚術師、通常の魔術師とは違い、精霊を召喚し、その精霊の力を借りて魔術を行使する異端の魔術師と聞いている。

「そう驚くことでも無い気がしますが…」

 驚きっぱなしの僕を見てレイは疑問に思っている。

 この世界には魔力マナというものが存在する。

 人間は通常、空気中に漂う魔力を自身の魔力に変換、又は自身の魔力で魔術を行使する。

 前衛だって、肉体強化と言われている魔術を使う。

 しかし、それはあくまでも自身の肉体を強化するだけであり、現実世界の物理的法則の枠を超えて発現させるものではない。

 一般的な、火の玉を作り出したりするような魔術は違う。

 これらは物理法則を歪め、世界に発現させるが、

 人々はなぜ、発現させることができるのか、なぜ、物理法則を歪めることができるのかということを知らないのだ。

 全くのブラックボックス。

 人々はそんな原理が分からない力を使っている。

 そのためか、魔術を使う際、歪める法則の程度によって消費される魔力が変わってくるといわれている。

 そして、人の持つ魔力には個人差がある。さらに、体外の魔力を自身の魔力に変換する能力も才能が関わってくる。

 極めつけは、その双方を兼ね備えた者はほとんどいないという。

 故にその力を自由に使えることができる魔術師は希少な存在とされている。

「いや、驚くだろ……普通」

 王立でも適正があった人はほとんどいなかった気がする。

「それって魔術師の適性があるってことだろ……、参考に聞くが、適性審査のランクはどうだったんだ?」

 この国の国民は魔術師適性の検査を受ける義務がある。そして、その適性はA~Fで判定される。ちなみにCからが『魔術師の適性あり』とされている

「Aでしたよ――――ってどうかしましたか? アレリア?」

「なんか心が折れたよ……」

 がっくりとうなだれる。

 すると、千晶が

「そんな落ち込む必要はないと思うよ? 私はFだし」

 という言葉をかけてきた。

 ちなみに僕の適性はDだ。

 魔術師の才能はないと言う千晶だが、その体術でその低い適性をカバーしているとしか思えない。

カバーできることがあるっていいよね。

「なんでこんなに落ち込んでるの?」

「……もう放っておいてくれ……」

 テンションが違う三人。高い順から千晶、レイ、そしてアレリア。

「あのー二人とも…」

 レイが声を上げる。

「……なんだ?」「なに?」

 僕と千晶は同時に返事をする。

「教室はそこなのですが…」

「………」

 どうやら通り過ぎていたようだ。戻って少し行った所僕たちの教室のものと思われる標識がある。

「あれ~、すっかり見落としてたよ。ありがとっ、レイ」

 テンションが低く何も言わなくなっている僕の代わりに千晶が礼を言った。

 そして「じゃあ、入りましょ」と千晶は一足先に教室に入っていった。

「……入りますか」

「そうですね」

 男二人はそんな千晶の行動につられて教室へと入っていった。 


         ○


「えー、では、これからHRホームルームを始めます」

 担任がHRを淡々と進めている。

 自己紹介、学校の理念、そして、このクラスに求めるもの、と順に語っている。

 学校の理念に関しては、ルベリエが話していたような内容ではなく、ただ、王立の真似事のようなもの、つまり、表向きの理念を語っていた。

 僕の席は窓際の列の前から二番目、窓から暖かな陽光が降り注ぎ、眠気を誘っている。

 千晶は僕の後ろの席だ。僕の視線に気づいたのか、こっちに向かって小さく手を振ってきている。

 レイは僕たちと結構離れた所に座っている。風が吹き込み、ブロンドの髪が揺れる。そして、前髪を掻き揚げるような仕草をするが、その行為が妙に高貴さを漂わし、周辺の女子の視線が集まる。

 さながらアイドル、と言った感じか。

「では、各々自己紹介をしてもらいましょう。では出席番号順で、お願いします」

 先生が話を進めている。それにしても腰の低い先生だ。王立だったらほぼ確実に命令形なのに、この先生の言葉にはそんな強制力は無い。

「はい、私は――――――――」

 自己紹介が始まる。

 緊張している人もいるが、僕はそのようなことは無く、ただ、機械的に自己紹介を済ませる。

「アレリア・ヴォルグです。首都から来ました。よろしくお願いします」

 周りからどよめきが起こる。一体僕のどの言葉に反応したのしたのだろうか?

 疑問に思いながらも席に着く。

おおとり千晶です。私も首都から来ました。よろしくお願いします」

 またどよめきが起こる……なるほど、彼らは「首都」に反応しているのか。

 どこか聞いたことの無い地名を答える人もいた。

 しかし、首都のような大都市を答える人は殆どいない。

 レイの番が来る。

「レイと言います。皆さん、よろしくお願いします」

 キラン。

「「「「「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」」

 レイの時だけ反応がおかしくないか? 特に女子。

 先生がおろおろしながら「し、静かにしてください!!」と言っているが、女子は聞き入れる様子は無い。

「レ、レイさん。好きな食べ物は――」「今度一緒に食事でも――」「あっ、ずるい。私も――」

 ………。

 それどころかレイは質問攻めにされている。

 これは収拾するのに少し時間がかかりそうだ。


 自己紹介が終わる。

 結局、首都出身者は僕とレイと千晶だけだった。

 その他は、行ったことがあるどころか、名前すら聞いたことの無い町の出身の人までいる。

 田舎は都会を夢見ると言うが、その通りなのかも知れない。

(初々しいな……)

 そう思ってしまう。僕はそんな初々しい、未来を夢見る事などやめてしまったから。

 無意識にため息が漏れる。

 何もかもが王立と違う。教師も、生徒も、全て。

 こんなことを思っているとつくづく自分が形はどうあれ、王立の出身者なのだと感じてしまう。

 真新しい制服、真新しい武器。

 全ての光景を王立と対比してしまう。

 そんなことを考えてぼーっとしていると、

「アレリア、アレリア…」

 千晶が後ろから肩をつついきた。

 どうやら考え込んでいたらしい。

「悪い…」

 僕は短く答え、意識をこちら側へ呼び戻す。

 えーっと、何々……

 黒板を見る。

 黒板には短く「戦闘試験」と書いてある。

 え?

「急なようですが二日後、試験を行います。と言いましても試験会場はすぐそこにある山でですけどね」

 まじで?

「成績はこれからの指導の参考になりますので、皆さん、頑張ってくださいね」

 ……。

「言い忘れていましたが、試験は最高五人のチームを組んで、受けてもらいますから」

 「では」と先生は教室から出て行ってしまった。

 当然の事のように辺りがざわつく。

 最高五人のチームか……、最高って事は別に五人じゃなくてもいいんだよね?

「千晶、組む?」

 何も考えず当然のように千晶を誘う。

「ん? いいよ」

 快く了承してくれた。

 とりあえず一人目ゲット。

 次は後衛でも誘うか。

 後衛と言ったら、今現在、レイとしか面識がないのだが……

 まぁ、一部女子から熱烈なアプローチを受けている訳であって……

「ねぇ、レイ君、私と組まない?」「えーっと「違うわよ、レイさんは私と組むの」ですね、私「何勝手なことを!!組むのは私よ!!」は――って、話聞いてますか?」

 聞いてない。と変わりに言っておく。

 名づけて「レイ争奪戦」ってとこか。どんどんぱふぱふーっと。

「こ、困ります。落ち着いて――」

「レイ、先行ってるからねーっと」

 今の状態でレイを誘おうとすると周りの女子に殺されかねないので、レイには自力で抜け出てもらうということで。

「アレリアっ、千晶っ――」

「ごめん、レイ。私まだ死にたくない」

 千晶も同意見のようだ。

 僕と千晶は教室を出た。

 そういえばこの学校には特待生の為の部屋が用意されている。

 下見を兼ねて見に行こう、っと。

「レイには既に伝えてあるから大丈夫よ」

 千晶もそう言っているので大丈夫だろう。


      ○


 結論から言うと、ちゃんとレイは部屋に来た。

 体力バーがあるならば残り三十パーセントデッドラインぐらいにはなってそうなぐらい疲れているように見えるが気にしない。

「疲れました」

 レイの一言。声からはそんなに疲れを感じさせないが、よく見ると制服が変な感じになっている。

 無理矢理逃げてきたのだろうと容易に想像できる。

 とりあえず僕と千晶は揃って「お疲れ」と声をかけておく。

 レイは重たそうな足取りで席に着く。

「んで、どうなったの?」

 千晶が話しかける。

「何の話ですか?」

「ほら、女子に絡まれてたじゃない? 一緒に組もうとかどうとかって」

 「そのことですか…」とレイ。

 どうやら軽いトラウマにでもなっているらしい。思い出したくないのかもしれない。

「断りました。あそこで選んでいたならば選ばれなかった皆さんに申し訳ありませんからね」

「ふーん、じゃあ今フリーなんだ……」

 ふふふ―と千晶が不敵な笑みを浮かべる。

「じゃあこの三人で組みましょ」

「まぁ、もとよりそのつもりです」

 レイ、快諾。

「決定、かな?」

「はい、決定です」

「決定ね」

「じゃあ、この三人で申請するとして……」

 僕は言葉を止めた。

 なぜならば………

『レイ君、私と組んで~』『レイ様~~~~』『ワタシと組むといいことあるかもっ、ふふ』『わわわわ――』『邪魔よあなた。レイさん、私と組んでいただけ――って邪魔って言ってるでしょ、下がりなさい――』

「………」

 こんな感じで女子が押しかけているわけで。

「レイ、つけられた?」

「……すいません。そのようです」

 ……はぁ。

「お先にっ」

 千晶が窓を開けて外に飛び出す。

 そしてその手には申請書類が握られている。

「アレリア~、レイ~、あとはよろしく~~」

 そういってどこかへと走り去ってしまった。

 僕とレイは互いに顔を見合わせる。

「逃げますか」

 と僕。

「逃げましょう」

 とレイ。

 そして二人は外に飛び出した。

 そしてそのまま逃走を開始する。

 

 まだ、日は高い。

 長い一日になりそうだ。

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