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Break a low  作者: 秋宮聡一
15/16

間章

 同刻、酒盛りをしていた数人の男たちがある報告によって会を中止せざる得なくなった。その報告は彼らの酔を覚ますに十分なものだった。


「大変だ。あの剣が祭壇から持ち出されてしまった!!」

「何を言っているんだ? まだ壁は解除されていないだろう。冗談が過ぎるぞ」

「そうですとも、まだ剣には触れられぬはず。その冗談は笑えませんぞ」

「冗談ではない……本当に、剣が持ち出された……」

 この一言で朱に染まっていた男達の顔が青に転色する。

「な……信じられん。か、壁は……壁はどうなったのだ? あの異界へ繋がっている壁はどうなったのだ!?」

「消失した……」

「馬鹿な!? 消失しただと!? 考えられん……」

「ああ、信じられん……まさか、鷲鼻の手の者か!?」

 鷲鼻、と言う言葉に辺りがざわつき始める。

「確かに、鷲鼻なら考えられる。しかしそうなると、もう――」

「いや、鷲鼻ではない。恐らくは王国だ」

「王国? 馬鹿言いなさい。今の王国にそれを成すだけの術者など存在するわけなかろう」

「だが、事実なのだ。あの服装は王国の教育機関のもの。そうでなければ説明できない」

 周りに動揺が走る。

「し、しかし、だとすると王国が保有する剣は三本ということに……」

「うむ、それにそのうちの一つがあれとなると……」

「これでは我が国は滅びてしまうではないか!?」

 一人が叫び声にも似た声を発した。

 それがはじまりのように喧騒の和が広がっていく。

「そんなことは許されない!!

 あの剣は、我が国が最初に見つけたのだ!! あれの獲得のために一体どれだけの犠牲を払ったと思っている!!

 こんな結果、許されるはずがない!! 」

 そうだそうだと周りが揺れる中、一人の男が静かに発言した。

「……こうなれば道はひとつだ」

 この一言が周りを凍りつかせることになる。

 そこにいた皆が息を呑みながらその男の発言を待っている。

「クローラ卿。それはどういう……」

「あ奴を殺して剣を奪う」

 男の簡潔な答えに周りは更に凍りつく。

「しかし、それでは我々の存在が――」

「構わん。成功さえすればどうとでも言い訳がつく」

「しかし……」

「……私も、その意見に賛成ですな」

「ベクター卿!? 何を――」

「私も、賛成だ。道は、それしかあるまい」

「バイアス卿まで……」

「決を取る必要もありますまい。では、我々はこれより行動を開始する。指揮は、クローラ卿に任せる」

「承知しました。では早急に――」

『悪いが、その計画は実行させないよ』

 どこからか聞こえてくる声。周りに緊張が走る。

「誰だ!!」

「どこにいいる!?」

 男たちから発せられる誰何。

 男たちのピリピリとした態度と裏腹に、声の主の態度は対照的なものだった。

『お前ら、あいつ殺して剣奪うんだってな』

 声の質から察するに声の主は若い男だろう。若人特有の軽い物言いが彼らの機嫌を逆なでする。

「それがどうした!!」

「貴様には関係ないだろう!!」

 揃って男たちは抜剣する。どれもこれもが装飾に富んだものだが、彼らは素人ではなかった。構えの全てが様になっている。

『いやー、まぁ、関係あるんだな、それが』

 男たちの怒りに声の主はまったく動じる様子はない。

『お前たちがあの壁を解けないようなら今夜中にでも回収するつもりだったんだが、回収する前に操者そうしゃが現れてくれたんでね。必要がなくなったんだよ』

回収という言葉に男たちは揃って頭上に疑問符を浮かべる。

「回収? 貴様、何者だ!?」

『そんなことより、お前らにひとつ聞きたい。剣を取ろうとして壁に吸い込まれた奴ら、ありゃ平民か?』

「……だったらどうなのだ!?」

『いーや、やっぱりか。やっぱお前ら俺が思ってる典型的なダメ貴族だな』

 ダメ貴族、という言葉に男たちが激昂する。

 同時に男たちと向かい合う形で気配が現れる。

 男たちは皆同時にそちらを向き、数人が気配に向かって走り出した。

「貴様!!  我々を愚弄するか!!」

「その不敬、万死に値する!! そこになおれ!!」

 その強気な発言は自らの身分の高さからくるものか。

 だがその強気な発言も歩みも、次の現象で止まることとなる

『やっぱそうか……まともなら帰してやってもよかったんだが……仕方がない』

 そう呟いた途端、急激に男たちの居る場所の位相がずれていく。

 歪んで、歪んで、歪んで、歪む。

 まるでそこがそこでないかのように、現実と虚構が入れ替わるように。

「こ、これは……」

「無詠唱発動だと!? こんなことが可能なのか!?」

「馬鹿な!! こんな魔術、見た事も聞いた事もない!?」

 男達に表れた感情は共通して、恐怖。

 しかし、それからの反応は様々だった。

 呆然に立ち尽くす者、逃げ惑う者、声の主がやったことに疑問を覚える者、そして、

「ふざけるなっ!! こんなところでは死ねぬのだ!! こんなところで――」

 懸命に活路を見出そうとする者。

 しかし別々の行動をしたところで、結末は同じ。

 彼らがどう足掻こうと、これからは逃げ切れない。

『お前らも、消えていった平民やつらと同じように永遠の箱庭で、永遠にさ迷え』

 男がこうつぶやいた瞬間、地面に穴が開く。

 割れたのではない。開いたのだ。

 まるで何もない空間に何もかもが落ちていくように。

 男たちの顔がとてつもない恐怖に歪む。

 もう彼らには何も考えられないだろう。

 誰も彼もが重力に従い、開いた虚空へと落ちていく。


 そして誰も居なくなった。

 音も無く穴は狭まっていき、そして、閉じた。

 声の主は誰もいない中で一人呟く。

『俺はあいつみたいに甘くはねぇぞ』

 と。


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