スパチャチャチャチャ :約2500文字 :コメディー :会話劇
とある劇場。お笑いライブにて――。
「どうもー」
「どうもー!」
「ダブルライスです」
「名前だけでも覚えて帰ってくださいねー!」
「さっそくなんですけど、僕、この前ね」
「お、なになに」
「うどん屋さんに行ったんですよ」
「お、ええね。たまに無性に食いたなるんよなあ」
「そうそう。なぜだか無性に蕎麦が食べたくなりましてね」
「そらほんまになんで。蕎麦屋行ったらええがな」
「いやー、うどん屋に入った瞬間、急に蕎麦の口になってしまいましてね。あ、ひーみんさん、スパチャありがとうございます」
「お? おん……んで?」
「まあ、正確には席に座って、店員さんに注文しようとした瞬間なんですけどね」
「いや、そこまでいってなんで変わんねん」
「もっと言うと、『うどん』って口から出かかった瞬間なんですけどね。あ、トトロロイモさん、スパチャありがとうございます」
「おお? おん……」
「あ、『うどん』が口から出かかったといっても、うどんを食べていたわけじゃありませんよ。あ、ケンスケさん、スパチャありがとうございます」
「いや、そこ誰も勘違いせえへんわ。……いや、何?」
「でね、あ、スパチャありがとうございます」
「いや、何なん!?」
「ん? 何が?」
「何がやあれへんわ。お前、さっきからスパチャスパチャって、何言うてんの?」
「スーパーチャットのことやけど」
「そら知っとるわ。あれやろ。ネット配信で視聴者がお金投げる、おひねりみたいなやつやろ。ここ劇場やぞ。何の関係があんねん」
「いや、あるで。ほら、あっこ見てみ。カメラとモニターあるやろ」
「んー? ……あ、ほんまや。コメントと金額みたいなんも流れとるわ」
「せや。最近導入されたんや。劇場まで来られへん遠くのお客さんにも楽しんでもらえるようにってな。配信チケット買うた人はこうしてリアルタイムで見られるようになってんねん」
「おー、そらええ取り組みやと思うけど……」
「何? なんか不満そうやな。あ、チョボ太郎さん、スパチャありがとうございます」
「それー」
「それ?」
「その『スパチャありがとうございます』や! いちいち言わんでええやろ! 気ぃ散んねん!」
「お前……それはさすがに引くわ。お客さんへの感謝の気持ちとかないんか? 死んだほうがええわ」
「言いすぎやろ。いや、そういう意味ちゃうねん。漫才の途中で挟むなって――」
「スパチャありがとうございます。スパチャありがとうございます。スパチャありがとうございます」
「いや、『よう言うた!』みたいな流れになっとるやん! せやからそういう意味ちゃうくて、あとでSNSとか動画でまとめてお礼言うたらええやろ。なんでネタ止めてまで言うねん」
「いや、その場ですぐ言うべきやろ。後回しとか感じ悪いわ」
「劇場まで来てくれたお客さんはどないすんねん! そっちは後回しか!」
「あのなあ、近くの細客より遠くの太客や。お、ダイモンさん、スパチャありがとうございます。五千円も! いやー、ほんまありがとうございますねええ! こんなにねえ!」
「客席見渡しながら言うなや。めっちゃ感じ悪いやん。あと細客ってなんやねん」
「ほんまネットのお客さんたちは太い人が多くてねえ。……ま、劇場のお客さんもちらほら太い人はおるか。二席分払うたほうがええんやないの」
「お前、どんどん感じ悪うなっとんな」
「スパチャありがとうございます。スパチャありがとうございます。スパチャありがとうございます」
「それ怖いからやめろや! 卑しいし、ほんまあかんて」
「いや、スパ何がチャあアカりがンとうございますの?」
「紛れ込まさんといて。いや、全然できてへんわ」
「スパアァァァチャア! ありがとぅ! アイ!」
「うわ、急になんやねん! びっくりしたあ……」
「たまに動きつけたり、読み方変えたりするんがウケええんや。工夫や、工夫。ネットやと、どないしても距離感あるしな」
「現地のお客さんとはもっと距離できとるがな……。あのな、太客以外もちゃんと大事に――あ、物販!」
「おん?」
「いや、劇場のお客さんかて現地でおれたちのグッズ買うてくれてるやん。十分太客やろ。ねえ皆さん、今日グッズ買うてくれましたか? ……おお、ほらほら、おるやん。アクリルキーホルダーご購入のお客様ー。お、ありがとうございます。タオルご購入のお客様ー。ああ、ありがとうございます。お、Tシャツも。えっ、そちらは全買い? ありがとうございますぅ!」
「お前も卑しい感じになっとるやん」
「んー……せやけど、あれか。自分で言うててなんやけど、グッズってネットでも買えるからなあ。ネットのお客さんも結局みんな買うてるか」
「いや、この人らは買わへんよ。スパチャだけや」
「なんでやねん。おかしいやろ。グッズのほうが形に残るし、思い出にもなるやん」
「スパチャのほうが直接気持ち伝えられるんや。物なんか挟まんでもええからな。ほんま、ありがとうございます」
「いや、モニター挟んどるやん。ほな結局、現地のお客さんのほうを大事にせなあかんやろ」
「プロ緑さん、スパチャありがとうございます。ほんま……愛してるで」
「気色悪っ。さぶいぼ出たわ」
「せやけどネットは大盛り上がりやで」
「現地との温度差えげつないわ」
「ああ、温度言うたらな、頼んだうどんが来たんやけど」
「おお、話に戻るんかい。てか、蕎麦は!」
「そのうどんがな、尋常やあれへんくらい熱うてな。つい、こっちまで熱うなってしもて店員さんに怒鳴ってもうたんや」
「うわー、そらあかんぞ。店員さんにはちゃんと敬意を持って接さな」
「おい、こら店員! こっちは現地の客やぞ! もっと大事にせえや!」
「それ、おれやないかい!」
「おおこら、おん。あ、コウタさん、スパチャありがとうございます。洋平さん、スパチャありがとうございます。こちとら現地様やぞお。お芋男爵さん、スパチャありがとうございます。ラングロフ兄貴、スパチャありがとうございます。現地人やあ。プロ緑さん、スパチャありがとうございます。スパチャありがとうございます」
「ネット受け狙うな!」
「スパチャチャチャチャアア! アチャア! ありがチャア!」
「ネット特化すな! お前、どんどんおもんなくなっとるぞ!」
「なーにがタオルじゃ……ん? プロ緑さん、『生で見るダブルライス最高!』……?」
「え……プロ緑さーん? あ、そこに。おお、さっきのグッズ全買いの方……」
「お、お、お、な、何、劇場でスマホいじっとるんじゃ、ありがとうございますなあ!」
「距離感わからんようなっとるやん」




