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怪物  作者: 都下くすむ
1/1

対峙

 いつからだろう…何も手がつかなくなったのは


 高校を卒業してからもう二年、大学もいかずにバイトに明け暮れている。就職もせずにコンビニの夜勤で生計を立てている。大学受験を失敗したショックで何も手がつかなくなり、やっとの思いでバイトを始めた。今ではそのバイトが生活の大半を埋めるようになっていた。


 「三波くん!また、ボーってしてるよ…何回も注意させないで」

 「すいません。」


 阿部三波。両親からもらったこの名前をとても気に入っている。特に深い意味はない。なんとなくだ。


 今日から店長と二人で夜勤だった。店長は自分より10歳と年上。身長も高くスタイルも良い。テレビで見る女優なんかよりもお世辞抜きで美人だった。なんでコンビニの店長をしているのかわからなかった。


 「三波くん。これ陳列しといて。それ終わったら今日は上がっていいから」

 

 今日発売の新作お菓子の段ボールを渡された俺は棚のほうへ向かった。


 正直店長は苦手だ。怖いとにかく怖い。面接の時からその威圧感は半端なかった。研修期間僕はこっぴどくお叱りを受けていた。それが嫌で一人で作業する夜勤移動したのに本部からの命令で夜勤が二人体制に変更された。


 「はあ、明日もあの人と過ごすのか」


 夜勤は暇な時間が多い。その時間普段はスマホをいじって時間をつぶすのだが店長が同じだと話が違う。店長と二人で時間を過ごすのはとても気まずい。何かしらの圧を感じる


 そんなことを思いながらマンションにつく。レンジで廃棄の弁当を温めてる間にお風呂に入り、シャワーを浴びてお風呂から上がり弁当を食べて寝る。バイトを始めてからこの生活を永遠に続けている。


 いつまでこの生活が続くのかわからない。そんな悩みが毎晩毎晩襲ってきた自分は一度悩んだら深く考え込んでしまう。そんな性格だ。いつも悩みながら眠りにつく。


 ピピピピピピ… 


 アラームが鳴った。仕事に行く時間だ。すぐに用意を済ませ急いで家を出た。


 コンビニにつくと店長がすでに働いていた。レジ前には列ができていたのですぐに制服に着替えてレジへ向かった。


 お客さんが全員帰ると店長が


 「助かったよ。素早く行動できるじゃん」


 店長に怒られるのが怖かったからなんて口が裂けても言えない

 

 「夕勤の子たちが設置物取り付けてくれたから今日は恐ろしいほど暇だよ」


 最悪だ。ただでさえ今日はできるだけ仕事をして店長と二人でいる時間をなくしたかったのに。これでは計画が丸つぶれだ。 


 「三波くん…三波!おい聞いてるか?」

 「え、ふぁい!なんでしょう」

 「なんだその返事は…またいつもの三波に戻ったのか」


 もう帰りたかった


 「ここらで最近起きている行方不明事件についてお前はどう思っている?」

 「行方不明事件ですか…」


 赤烏町連続行方不明事件・・・そのように名付けられたこの事件はこの赤烏町、いや全国で話題に上がらない日はない行方不明事件だ。行方が分からなくなっている人はさまざまで警察はこの事件を同一犯の犯行である可能性が高いとして捜査を進めている。


 「まあ、怖いですよ。なんせこの町なんですから」

 「お前なあもうちょっと危機感を持てよ…いつ襲われるかわかんないだぞ。」

 「そういう店長はどうなんですか」

 「ん?私か?私なら犯人を見つけてボコボコするな」


 『そういやこんな性格だったな。この人』と思い出した。以前夕勤の人と交代するときに店長がお客さんと口論になって危うく手を出しそうになったと聞いたことがあった。店長を怖がっている理由の一つだ。


 「タバコ吸ってくるからしばらく任せるぞ」

 

 『この人タバコ吸うのかよ』と思いつつ腑抜けた声で「はい」と返事した。


 「がんばれよ」

 「?へ、?何がですか?」


 答えを聞く前に店長は外にタバコを吸いに行った。

 

 何を言ってるかわからなかった。でもすぐに業務のことだろうと理解した。でも今更レジ打ちに「がんばれよ」は理解できなかったが悪い気分ではなかった。こんなことを言われたのはあの日いらいd…


 プツン…突然コンビニの電気が消えた。

 

 「て、停電?なんでいきなり…」

 

 そう思ったつかの間、突然商品の棚がすべてドロドロに溶けた。

 

 「な、なんだこれ」

 

 自分が状況を理解しようとする前に現実はさらに難解になっていく。ドロドロに溶けた棚は合体してどんどん人の形になっていく。


 「うん、やっぱり思ったとおり、ここにいたんだね」


 人?というにはあまりにも不可解な点が多すぎた。頭に生えている二本の角、一つしかない目、異様にデカい右腕。それは人間にと呼ぶには難しかった。何か表現するのなら…

 

 「怪物…」


 自然とそんな言葉が出た。


 「あんまり時間をかけたくないんだ。だからもう終わらせるね。」


 怪物は右腕を自分に向かって振りかざしてきた。

 

 「あ、あ、」

 「今の食らっても真っ二つにならないんだ…侵攻はどんどん進んでいるんだね」

 

 し、んこう?何を言っているかわからなかった。今わかることは意識がだんだん無くなっていっていることだけだった。


 「酸を使うまでもないね…さようなら」


 怪物はもう一度右手を振りかざした。


 『死ぬ』そう直感した。阿部三波はここで死ぬんだ。そう思った。あの時から自分に人生はぐちゃぐちゃだった…


 阿部三波には素晴らしい両親がいた。決してお金持ちだったわけでも頭がよかったわけでもない。でも両親は三波のことを機にかけ、寄り添い、応援してくれた。周りからの評価も高かった。友達も「三波の家の父ちゃんと母ちゃんがうらやましい。」「お前の家に生まれたかった」そう言ってくれた。いつしか両親は三波の心の支えになっていた。三波はこの両親からつけてもらった名前を誇らしく思った。


 それは高校三年生の時に起きた。


 教室で授業を受けていた時、三波は突然職員室に呼ばれた。そこで先生からこう告げられた。

 

 「お前の両親が亡くなった。」


 三波はただ泣くしかなかった。泣くこと以外自分にはできなかった。何かが壊れた音がしたのはその時だった。


 それから三波は何も手がつかなくなった。受験も失敗し、就職もしなかった。しかし両親が天国で自分を見てると言い聞かせ何とか社会復帰をしようとアルバイトを始めた。


 「父さん、母さん今からそっちにいくよ…」


 そう思いながら三波は静かに眠った。


 怪物は三波が動かなくなると、すぐにこの場を離れようとした。しかし体が動かない。何かものが引っかかっているわけでもない。引っかかっていたら能力で溶かしているからだ。


 「わっはっは、ホラ引っかかったで(笑)やっぱり幼体を見たら食いに来るんやな(笑)」


 怪物は目の前に現れた女の方に目をやった。自分より数段格上だ。怪物はすぐさま逃げようとしたが体は動かないままだった。


 「無理無理。お前じゃ私の罠は解けへんよ。あ。溶けへんよかな(笑)お前さんには」

 「ほな、私もお前じゃなくてその倒れてる男に興味があるからさようならしようか」


 【蟻地獄】


 怪物の足元に渦が現れた。怪物は必死に渦から逃れようとしたが数秒後にはその渦に飲まれていった。


 「おい、三波。起きろ三波」


 三波は目を開けた。しかし三波の目に映ったのは違う化け物の姿だった。


 「まだ、三波は変身しきれてないな」


 三波はすぐに怪物から距離をとった。逃げようとした。


 「まて!逃げたらめんどくさい」


 聞いたことのある声だった。自分が怪物に恐怖する前に恐れていた人の声。


 「店長?」

 「お、気づいたか。やっぱりお前もこっち側やったか」


 何を言っているかわからなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ここから阿部三波の人生は思わぬ方向へ進んでいくことを三波自身は知らなかった。


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