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第七話
洞窟の奥で、しばらく沈黙が落ちた。
仁禮は目を閉じ、ゆっくり息を整える。
医師としての倫理。
法律。
社会的立場。
そして――家で待つ少女。
目を開けると、老女と視線がぶつかった。
「……条件がある」
洞窟の空気がわずかに張り詰める。
エリアスが身を乗り出す。
「何でも言ってくれ」
仁禮は、淡々と告げた。
「まず、禁止されている肉と魚の安定供給。
量は指定する。品質も、俺が確認する」
ライカの尻尾がぴくりと揺れた。
老女は、目を細める。
「ほう」
「それと、血液検体の提供。
狼族全体のデータが欲しい。年齢別、性別別に」
エリアスが息を呑む。
「一族全体を診る気か?」
「原因が個体の問題でないなら、
集団としての異常を疑うしかない」
仁禮の声は冷静だった。
だが、最後の条件だけ、わずかに間を置いた。
「……俺がここに来たことは、外部に漏らさないこと」
洞窟の奥で風が鳴る。
老女はゆっくり杖を打った。
「肉も魚も、用意しよう。
血も好きに採るといい」
一歩、近づく。
「だが覚えておきな」
その目が鋭く光る。
「肉は対価だ。
だが真実を知ることは――保証しないよ」
仁禮は、視線を逸らさなかった。
「構わない」
それは医師の答えではなかった。
覚悟を決めた人間の声だった。




