第六話
エリアスは、少し照れたように狼少女を見た。
「……ライカ姉ちゃんだ」
紹介され、ライカと呼ばれた狼少女は胸を張る。
彼女はエリアスの姉であり、
この一族に残る、純度の高い狼族の末裔だった。
エリアスは言葉を選びながら、事情を説明する。
自分と妻の間に、なかなか子どもができないこと。
検査では異常は見つからず、病気でもないこと。
それでも、何年も結果が出ないこと。
「だから……診てほしい。
人間の医者として」
仁禮は、即座に首を振った。
「それは、病院で診てもらうべきだ。
俺には……」
言いかけて、言葉を切る。
――エリナ。
「家で待ってる子がいる。
ご飯も、あげなきゃいけないんだ」
はっきりと断った、その瞬間だった。
洞窟の奥から、
しゃがれたが芯のある声が響く。
「……肉が、欲しいのかい?」
現れたのは、
白い毛に包まれた、年老いた狼族の女性だった。
背は低いが、視線は鋭い。
その一言に、
仁禮の身体が、思わず反応してしまう。
「……あるんですか!?」
声が、少し上ずった。
老女――おばあちゃんは、にやりと笑う。
「ないことは、ないよ」
軽い口調とは裏腹に、その目は本気だった。
「私たち狼族はね、
それぐらい真剣に悩んでるんだよ」
杖を床に突き、続ける。
「解決してくれるまで、
こっちのコネで野菜も、魚も……肉も、用意してやろう」
「ホッホッホ」
笑い声が洞窟に反響する。
そして、追い打ちのように告げた。
「この一族だけじゃない。
狼族全体が、子を産めなくなってきている」
その言葉は、
交渉ではなく――警告だった。
仁禮は、息を呑む。
肉。
血。
繁殖不能。
すべてが、
今朝の事件と、家で待つ少女へと、一本の線でつながっていく。




