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第四話
名前を教えてはくれたものの、
それ以外は一言も発しないエリナを、仁禮シンは引き取ることになった。
自宅に戻り、冷蔵庫を開けてすぐに気づく。
中は、ほとんど空だった。
――まずいな。
仁禮はエリナを家に残し、扉を施錠する。
念のためだ。
彼女が何をするか、まだ分からない。
近くのマーケットで、野菜を山のように買い込んだ。
根菜、葉物、豆類。
さらに大豆肉も、必要以上にカゴへ放り込む。
気がつけば、腕に抱えた袋で前がほとんど見えなくなっていた。
そのまま歩いて――
ドン、と衝撃が走る。
「あっ……!」
何か、いや、誰かとぶつかった。
袋が揺れ、足元で野菜が転がる。
視界の先で、小さな影が尻餅をついていた。
「ご、ごめんなさい!!
大丈夫ですか!?」
慌てて手を伸ばそうとするが、両手は荷物で塞がっている。
もどかしさに舌打ちしそうになった、その時。
「いててー……」
間延びした声。
どこか、妙に男っぽい。
仁禮は、はっとして少女を見た。
――尻尾。
腰の後ろから、
立派な灰色の狼の尻尾が、ぴんと立っていた。
少女は何事もなかったかのように起き上がり、
土を払って仁禮を見上げる。
「前、見えてなかったでしょ」
その言い方も、
その存在そのものも――
この社会では、決して“普通”ではなかった。




