第二話
電話の相手は、警察だった。
「身内の方が亡くなられまして」
淡々とした声に、仁禮はすぐに言い返した。
身内などいない。そう伝えようとした瞬間、言葉を遮られる。
「詳細は現場で説明します。外科医として、死後検査にも立ち会っていただきたい」
拒否の余地はなかった。
命令口調で、早く来いとだけ告げられ、通信は切れた。
現場へ向かう車中、
仁禮は指定された住所を耳にした瞬間、背中に嫌な汗が滲むのを感じた。
あり得ない。
そう思いながらも、胸の奥で何かが沈んでいく。
到着して、それは確定した。
――マザー・グレースの家だった。
警察の説明は簡潔だった。
この家で、禁止されている牛肉が調理された形跡が確認されたこと。
そして、住人である女性が行方不明になっていること。
代わりに発見されたのは、
朝方、家の中で見つかった一人の若い女性だった。
不法侵入。
身元不明。
IDカードなし、指紋データなし。
全身は血にまみれていたが、外傷は確認されていない。
引受人もおらず、記録上は“存在しない人物”。
「――というわけで」
警察官は仁禮を見た。
「半ば強制ですが、あなたに引き取っていただきたい」
医師であること。
最後にこの家を訪れていたこと。
それだけで、理由としては十分らしかった。
視線を向けると、
その女性は部屋の隅に座らされていた。
不機嫌そうに、警察官を睨みつけている。
口元が、わずかに動いていた。
どうやら――
食事の途中だったらしい。




