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第一話
日本支部から、六年ぶりにニューヨーク支部へ。
仁禮シンは、車の助手席で窓の外を眺めていた。
ハンドルを握っているのは、アクセル・コルト・マーヴェイン。
幼なじみで、同じ孤児院の出身だ。
「相変わらず、景色は派手だな」
仁禮がそう言うと、アクセルはにやりと笑い、さらにアクセルを踏み込んだ。
名前に違わず、速度計は容赦なく跳ね上がる。
次の瞬間、車内に無機質な音声が響いた。
――速度超過を検知しました。
――違反記録を保存します。
「はいはい、また切符か」
アクセルは肩をすくめる。
この街では珍しいことではない。
AIによる監視と取り締まりは完璧だが、違反者は多すぎて、裁きはいつも後回しになる。
現地に到着してすぐ、仁禮は寄り道をした。
かつて自分たちを育てた孤児院――
そこで修道女をしていた、マザー・グレースに挨拶をするためだ。
玄関先で迎えたグレースは、修道女らしからぬ仕草でタバコを吸っていた。
白い息と煙が、同じように空へ溶けていく。
「戻ってきたのかい」
「ええ、しばらくはこちらで」
他愛もない言葉を交わし、昔話を少しだけして、別れる。
それだけで十分だった。
新しい自宅に戻り、荷解きもそこそこに、仁禮は眠りについた。
そして翌朝。
けたたましい電話の着信音が、眠りを引き裂いた。




