第十六話
地下研究室。
静かな機械音の中、解析が完了する。
モニターに表示されたのは、
比較結果の数値だった。
サミュエルが、ゆっくりと読み上げる。
「対象検体……エリナ」
一拍。
「クラーク家保存配列との一致率――」
仁禮の喉が鳴る。
数値が確定する。
100.00%
空気が止まった。
仁禮が画面を見つめる。
「……誤差じゃないのか」
サミュエルは首を振る。
「再計算します」
再解析。
同じ結果。
100%。
トーマス・エルリック・クラーク。
クラーク家の保存DNAと――
完全一致。
仁禮は、ゆっくりと顔を上げた。
「……クラーク家?」
静かな問い。
サミュエルは視線をモニターから外さない。
「あなたは知らなかったのですね」
「名前は資料で見た。でも――」
仁禮は言葉を探す。
「“家”ってなんだ。
ただの一族じゃないのか?」
サミュエルは端末を操作し、
古いデータベースを呼び出す。
画面に、封印済みの印がついたファイル群。
「クラーク家は、血統です」
穏やかな声。
「トーマス・エルリック・クラークを起点とする、
管理指定血統」
仁禮の眉がわずかに寄る。
「管理?」
「ええ」
サミュエルは続ける。
「表向きは歴史上の“進化事例”。
ですが実際には――」
一瞬、言葉を選ぶ。
「国家が保存してきた血です」
地下室の空気が重くなる。
「保存?」
「トーマスのDNAは特別でした。
その直系子孫は、監視対象であり、同時に研究対象でもある」
仁禮の視線が、ゆっくりとエリナへ向く。
エリナは、足をぶらぶらと揺らしている。
まるで、自分の話ではないかのように。
「つまり」
仁禮の声が低くなる。
「エリナは、その“保存血統”の一人だと?」
サミュエルは頷いた。
「直系です」
再び、モニターの数字を見る。
100%。
誤差なし。
「……そんな家系が、今も?」
「公には存在しません」
静かな答え。
「だが記録は消えていない」
仁禮は一歩後ろに下がる。
「じゃあ彼女は、生まれたときから――」
「把握されています」
その言葉に、空気が止まる。
エリナが、ふと顔を上げる。
「……く、らーく?」
ゆっくりと、その言葉を口にする。
「それ、しってる」
仁禮が息を止める。
「知ってる?」
エリナは、しばらく考える。
だが、それ以上は言わない。
「……べつに」
目を逸らす。
読者だけが気づく。
彼女は知っている。
クラーク家が何かを。
そして。
自分がその血であることを。
地下研究室の灯りが、
数字を白く照らしていた。




