第十一話
数日後。
病院の検査室に、狼族の一行がやってきた。
森とはまるで違う、白く整った空間。
それでも彼らは不思議と馴染んで見えた。
ライカ・ヴォルフレインは、入るなりきょろきょろと周囲を見回す。
「うわ、全部白。落ち着かないなぁ」
尻尾がゆらゆら揺れている。
「汚さないでくれよ」
仁禮が冗談めかして言うと、
「失礼だな!」
と即座に返ってきた。
すでに、距離は近い。
エリアスが苦笑する。
「姉ちゃんは注射が苦手なんだ」
「苦手じゃない!嫌いなだけ!」
強がる声に、クロエがくすっと笑う。
「大丈夫。ほんの一瞬よ」
サミュエルも穏やかに頷く。
「鷹の血でも、注射はあまり好きではありませんよぉ」
院長の一言に、場の空気がやわらぐ。
「院長も?」
「ええ、昔はよく逃げました」
その想像に、ライカが吹き出す。
「ほんとに?」
「ええ。今は立場上、逃げられませんけどねぇ」
検査室に小さな笑いが広がる。
そのとき、静かに一歩前へ出たのはイレーヌだった。
淡い色の髪を揺らし、控えめに微笑む。
「私から受けます」
そっと袖をまくる。
「改めて……
姉のライカ・ヴォルフレインと、
夫のエリアス・ルーヴェリスです」
丁寧に頭を下げる。
「検査を引き受けてくださって、本当にありがとうございます」
声は控えめだが、
そこには心からの感謝が滲んでいた。
仁禮は、少しだけ照れたように頷く。
「礼はいい。原因を見つけるのが先だ」
採血はすぐに終わった。
イレーヌは微動だにせず、
「大丈夫ですよ」と柔らかく笑う。
それを見て、ライカが腕を差し出す。
「……ほんとに一瞬?」
「一瞬」
「絶対?」
「絶対」
「約束だよ?」
「約束」
ぷすり。
「……あ、終わった」
「え、もう?」
ライカはきょとんとする。
エリアスが吹き出す。
「ほらな」
「……拍子抜け」
尻尾が、ほっとしたようにゆるむ。
検体が並ぶ。
狼族の血液が、透明な管の中で静かに揺れる。
重い空気はない。
ただ、家族が未来のために並んでいるだけだった。
サミュエルが優しく言う。
「必ず、手がかりを見つけましょう」
その言葉に、
イレーヌは小さく頷いた。
ライカも、珍しく素直に言う。
「……よろしくね、いしゃ」
仁禮は、ふっと笑った。
「任せろ」




