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仁礼一拍手  作者: 空蜂
10/18

第九話

翌朝。


エリナは、昨夜の皿をきれいに空にして、

いつもの無言に戻っていた。


「今日は仕事だ。昼には戻れない」


言っても、返事はない。

それでも仁禮は、どこか安心して家を出た。


ニューヨーク支部の総合医療センターは、

都市の中央区画にそびえている。


外壁には環境制御パネルが埋め込まれ、

ドローンが静かに離着陸を繰り返す。


受付を通ると、視線認証が一瞬で完了した。


――仁禮シン医師。所属変更を確認しました。


無機質な音声に迎えられ、

懐かしいようで、少しだけ他人行儀な空気を感じる。


院長室の扉をノックする。


「どうぞぉ」


柔らかな声だった。


入ると、窓辺に立つ男が振り向く。


サミュエル・ヴァーノン。


背は高く、肩甲骨のあたりにわずかに浮かぶ羽根の痕。

鋭い目元だが、表情は驚くほど穏やかだ。


鷹との混血。


だが、その印象は猛禽よりも春風に近い。


「おかえりなさい、仁禮くん」


ふわりと笑う。


その笑顔を見て、仁禮は少し肩の力が抜けた。


この人がいるから、

ニューヨーク支部への転勤を決めた。


名医でありながら、

誰よりも患者の声を聞く男。


「六年ぶりですね、院長」


「時間はあっという間ですぅ。


そういえば聞きましたよぉ、身元不明の女性を預かっていると、あなたも大人の男性になったんですねぇ」


なんて

冗談めかして言いながら、

サミュエルはタブレットを閉じた。


「こちらは相変わらず忙しい。

混血特有の症例も増えています」


その言葉に、仁禮はわずかに視線を落とす。


「……そうですか」


「ええ。でも、あなたが来てくれた。

それだけで、心強い」


優しい声。

だが、その瞳の奥には、鋭い観察者の光がある。


鷹の血は、確かにそこにあった。


「さあ、今日からまた一緒にやりましょう」


握手を交わす。


その瞬間、仁禮は思う。


この病院は、

秩序と理性の象徴だ。


だが自分の家には、

エリナという名前しかわからない説明のつかない

存在がいる。





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