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銀河最強のAIを拾いましたが、僕はただの会社員です  作者: パラレル・ゲーマー


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24/24

第24話 総理大臣は真顔で、「魔法」を公言する

 冬の柔らかな日差しが差し込むリビングで、真田誠は「人間をダメにするクッション」に深く沈み込んでいた。


 今日は金曜日。


 週休3日制という、人類史上もっとも偉大な発明(と誠は信じて疑わない)のおかげで、平日の昼間から自宅でダラダラするという背徳的な悦びに浸ることができる。


「……あー、疲れた」


 誠は誰に言うともなく呟き、ポテトチップスの袋に手を突っ込んだ。


 昨日は会社で年末調整の書類整理に追われ、その前日は銀河の破壊神シルフィードへの貢ぎ物選びに奔走させられた。


 肉体的にも精神的にも、彼のHPはイエローゾーンだった。

 だからこそ今日の休日は、何もしない。

 絶対に何もしないぞ、という固い決意があった。


 テレビではワイドショーが流れている。


 話題は相変わらず、ドラゴンバンクの株価高騰と、各地で目撃される「謎の飛行物体(シルフィードが移動に使った魔法の光)」についてだ。


「そろそろ記者会見ですよ、マスター」


 キッチンからエプロン姿のメイが顔を出した。


 手には、淹れたてのコーヒーと焼き立てのスコーン(異次元の美味しさ)が乗ったトレイを持っている。


「記者会見?」


 誠は眠たげな目をこすった。


「ああ、あれか。……ついにやるのか」


「はい。日本政府と理会長が、清水の舞台から飛び降りる覚悟で決定した、『世界一シュールなカミングアウト』の時間です」


 メイはテーブルにトレイを置きながら、リモコンを操作した。


「おっ、じゃあテレビ、記者会見に変えてくれ」


「承知いたしました」


 画面が切り替わる。


 映し出されたのは首相官邸の会見室。


 金屏風……ではなく、日の丸と内閣の旗を背に、黒いスーツに身を包んだ御堂筋総理大臣が、緊張した面持ちで演台に向かって歩いてくる姿だった。


 その横には、なぜかドラゴンバンクの理 正義会長も同席している。

 一企業のトップが総理会見に並ぶという時点で、すでに異常事態だ。


 カメラのフラッシュが嵐のように焚かれている。


 パシャパシャパシャパシャ……!


 無数のシャッター音が、まるで銃撃戦のように響き渡る。


「……ふぅ」


 総理がマイクの前で一息ついた。


 その額には、脂汗が滲んでいるのがハイビジョン映像でも見て取れた。


 無理もない。

 これから彼が口にするのは、一国のリーダーが発言すれば、即座に「ご乱心」と判断されてもおかしくない内容なのだから。


「えー、本日は国民の皆様、ならびに国際社会に向けて、極めて重要な事項を発表いたします」


 総理の声は、震えを押し殺して低く響いた。


「この度、我が国は……歴史的な接触を果たしました」


 会場の記者たちが息を飲む。


 ついにUFOの公表か?

 プロキシマ・ケンタウリとの交信の詳細か?


「先日……『異世界』から、『魔女』と呼ばれる存在が我が国を訪れました」


 シーン……。


 一瞬、会場の時が止まった。


 記者たちはペンを走らせる手を止め、カメラマンはファインダーから目を離し、全員がポカンと口を開けた。


 いま総理大臣は、なんと言った?


 異世界?


 魔女?


「……日本政府としましては、この来訪者を国賓級のゲストとして歓迎し、現在、極めて友好的に交流を続けております」


 総理は、用意された原稿(時田室長が胃薬を飲みながら徹夜で書いたもの)を淡々と読み上げた。


「『魔女』と呼称しましたが、これは比喩表現ではありません。


 彼女は物理法則を超越した現象――すなわち『魔法』を行使することが可能です」


 ざわ……ざわ……。


 会場に、さざ波のような動揺が広がる。


 「魔法?」

 「総理、大丈夫か?」

 「エイプリルフールはまだ先だぞ」


 だが総理は止まらない。

 一度走り出した暴走列車は、終点(発表終了)まで突っ走るしかないのだ。


「我が国は、この未知のテクノロジー……いや『秘儀』に着目しました。


 これを我が国の国防および産業に応用できないか。


 そう考え、技術協力パートナーであるドラゴンバンク社と協議を重ねてまいりました」


 隣に座る理会長が、自信満々に頷く。


 その顔には、「やってやりましたよ」というドヤ顔が張り付いている。


「その結果、ドラゴンバンク社のAI解析と政府の選抜プログラムにより、国内から3名の候補者を選び出し……」


 総理はここで一度言葉を切り、会場を見渡した。


「彼らによる『魔法習得』に成功いたしました」


 ドッ!!


 会場が爆発したような騒ぎになった。


 記者が一斉に手を挙げる。

 怒号のような質問が飛ぶ。


 カメラのフラッシュがホワイトアウトするほど激しく明滅する。


 パシャパシャパシャパシャパシャ!!


「し、質問を! 総理! 質問をお願いします!」


 司会進行役の官房長官が、「静粛に! 順に指名します!」と叫ぶが、興奮は収まらない。


「どうぞ、そちらの方。……帝都テレビさん」


 指名された記者が、マイクをひったくるようにして立ち上がった。


「帝都テレビの佐藤です!


 すみません、耳を疑うような発表なのですが……。


 『異世界から魔女が来た』というのは、比喩や暗号ではなく、文字通りの意味なのですか?


 映画の宣伝や、ドラゴンバンクの新作ゲームの発表会ではないのですか!?」


 もっともな質問だ。


 テレビの前の誠も、「普通はそう思うよな」と頷きながらポテチを齧る。


「本当です」


 総理は真顔で即答した。


「政府として、科学者、物理学者、そしてドラゴンバンクの技術チームを交え、複数回の検証を行いました。


 その結果、現代科学では説明がつかない、質量保存の法則やエネルギー保存の法則を無視した現象を確認しました。


 ……日本政府は、これを『魔法』と認定しました」


 「認定しました」のパワーワードに、記者がよろめく。


 政府公認の魔法。


 もはや「ムー」の世界である。


「す、すみません! 関連して!」


 別の記者が叫ぶ。


「はい、どうぞ。……毎朝テレビさん」


「毎朝テレビです!


 それはつまり、地球外の知的生命体と接触したということですか!?


 NASAが発表したプロキシマ・ケンタウリの件とは別なのですか!?」


「はい、そうですね」


 総理は冷静に答える。


「NASAが接触したのは、我々と同じ宇宙に住む『隣人』です。


 しかし今回来訪された魔女(シルフィード氏)は、正確には『別次元』の知的生命体です。


 この宇宙生まれではありませんが、広義の意味では『異星人』とも言えるでしょう」


 「この宇宙生まれではない」という説明に、記者のペンが止まる。


 スケールが大きすぎて、理解が追いつかないのだ。


「す、すみません、良いですか!」


 鋭い声が響いた。


 最前列に陣取っていたベテランの社会部記者だ。


「はい、どうぞ。……東洋新聞さん」


「東洋新聞です!


 ドラゴンバンクと協力して3名の候補者を選定し、魔法を習得させたとのことですが……。


 その『選定条件』は何だったのでしょうか?


 IQですか? 身体能力ですか? それとも特定の遺伝子マーカーですか?」


 テレビの前の誠が、思わず吹き出した。


「ぶふっ! ……そこ突っ込むか」


 メイも口元を手で隠して笑っている。


「厨二病です、とは言えませんからね」


 画面の中の総理は一瞬だけ言葉に詰まったが、すぐにポーカーフェイスを取り戻した。


「……現時点で、条件の詳細を全面公開する予定はありません」


 総理は慎重に言葉を選んだ。


「ただ一つ申し上げられるのは……。


 彼らには『魔法適正』、すなわち常識に囚われない柔軟な精神構造と、強固な世界観を構築する能力があったということです」


 上手い言い回しだ。


 「常識に囚われない精神構造」=「痛い妄想力」

 「強固な世界観」=「自分設定」


 嘘は言っていない。


「精神構造……ですか? 特殊な訓練が必要なのですか?」


「ええ。ドラゴンバンクが開発した特殊なプログラム(黒歴史ノートの朗読会など)を経て、能力を開花させました」


「すみません、良いですか?」


 軍事評論家あがりの記者が手を挙げた。


「はい、どうぞ。……産経新聞さん」


「産経新聞です!


 先日からネット上で話題になっている、静岡県の東富士演習場付近での『謎の光』や『轟音』の目撃情報……。


 あれは今回の件と関係があるのでしょうか?


 一部では、新型ミサイルの実験ではないかと噂されていますが」


「はい」


 総理は頷いた。


「ご指摘の光や音については、その3名の候補者と、陸上自衛隊特殊作戦群との『合同演習』で発生したものです」


「演習……ですか? 生身の人間3人が、特殊部隊と?」


「その通りです」


 総理は胸を張った。

 ここが一番のアピールポイントだ。


「現在も演習を継続中ですが……報告によれば、全て『魔法』で制圧出来ています」


 会場がどよめいた。


 特殊作戦群といえば、日本が誇る最強の精鋭部隊だ。

 それを、たった3人の民間人が制圧した?


「魔法の圧倒的制圧能力に、現場の指揮官も驚嘆している所であります。


 銃火器は無力化され、戦車は停止し、隊員たちは戦意を喪失させられました。


 ……すべて、指一本触れずにです」


 パシャパシャパシャ!!


 フラッシュの嵐が再燃する。


 これは国防のパラダイムシフトだ。


 核兵器もミサイルもいらない。

 魔法使いがいればいい。


「最後に、今後の展望について申し上げます」


 総理はカメラを真っ直ぐに見据えた。


「日本政府としては、この『魔法』を新たな国防のかなめと位置づけ、次期国会に『魔法運用基本法案』、通称『魔法法案』を提出する予定です。


 法整備を進め、安全管理を徹底しつつ、平和利用も含めて魔法の利用を進めていく所存であります」


 隣の理会長がマイクを引き取った。


「ドラゴンバンクも全力でバックアップします!


 魔法は石油や電気に次ぐ、『第三のエネルギー革命』です!


 日本から世界へ。

 魔法立国ニッポンの幕開けです!」


 理会長がガッツポーズを決める。


 総理が一礼する。


「記者会見は以上で終了します。本日はありがとうございました」


 パシャパシャパシャパシャ……!!


 鳴り止まないシャッター音。


 記者の怒号。


 「待ってください、総理!」

 「魔女はどこにいるんですか!」

 「候補者に会わせてください!」


 混乱の極みの中、中継はスタジオへと戻った。


 スタジオのキャスターもコメンテーターも、全員が狐につままれたような顔をして、言葉を失っていた。


「……」


 誠は空になったポテチの袋を置いた。


「……言っちゃったよ」


「言っちゃいましたね」


 メイがお茶を注ぎ足してくれた。


「これで後戻りはできません。


 日本は世界で唯一の『魔法保有国』として、国際社会にデビューしました」


「X(旧Twitter)見てもいいか?

 多分、爆発してると思うけど」


「どうぞ。サーバーがダウンしないよう、ウィルに補強させておきましたから」


 誠はスマホを取り出し、Xのアイコンをタップした。


 予想通り、トレンド欄は地獄のような様相を呈していた。


 トレンド1位: #魔法

 トレンド2位: #日本政府ご乱心

 トレンド3位: #異世界からの魔女

 トレンド4位: #ドラゴンバンク

 トレンド5位: #厨二病(なぜか勘のいいユーザーがランクインさせている)


 タイムラインをスクロールする。


 そこには、全人類の混乱と興奮が凝縮されていた。


 ユーザーA(一般人)


 「総理会見見た?

 魔法って何?

 エイプリルフール?

 今12月だぞ?

 日本始まったな(終わったのか?)」


 ユーザーBミリタリーオタク


 「特殊作戦群が3人に制圧されたってマジかよ……。

 魔法ってなんだよ。

 光学迷彩とか音響兵器の比喩か?

 それともガチのファイアボールとか撃ったの?」


 ユーザーCアニメアイコン


 「政府公認で『異世界から魔女』『魔法習得』って、ラノベの設定が現実に追いついたwww

 俺も魔法使いになりたいんだけど、ハローワークで募集してる?」


 ユーザーD(投資家)


 「ドラゴンバンクのPTS(夜間取引)がストップ高張り付きwww

 魔法関連銘柄ってなんだよwww

 とりま理会長についていくわ」


 ユーザーE(陰謀論者)


 「これは政府のダミーだ。

 本当は宇宙人からの技術供与を隠すために、『魔法』というファンタジーな言葉を使っているんだ。

 騙されるな!

 裏にはイルミナティがいる!」


 (※誠:半分正解で、半分間違いだな……)


 ユーザーF(海外勢の翻訳)


 「【速報】JAPANがMAGICを開発。

 SAMURAI、NINJA、そしてWIZARDへ。

 日本人はどこへ向かおうとしているのか?(BBC)」


 理 正義(公式)


 「魔法はあります!

 そして、それはドラゴンバンクが管理します!

 夢のエネルギー、夢の技術。

 世界を変えるのは、常に『非・常識』です。

 #魔法 #イノベーション」


 剣崎海人(特定されかけているアカウント)


 「ククク……ついに世界が俺に追いついたか。

 右腕が疼く……。

 政府の犬になるつもりはないが、力を貸してやるのも一興」


 (※リプライ欄:「お前か?」「本物?」「痛いwww」「いやマジならすげえ」と大混乱)


「……カオスだ」


 誠はスマホを置いた。


 画面の向こうでは、世界中の人々が「魔法」という新しい現実に直面し、笑い、疑い、そして熱狂している。


「でもまあ、意外と受け入れられてるな」


「そうですね」


 メイがスコーンを一口かじった。


「現代人はフィクションへの耐性が高いですから。


 『科学技術の進歩』と言われるより、『魔法です』と言われた方が、

 『ああ、日本ならやりそう』と納得してしまう土壌があるのかもしれません」


「平和ボケとも言うけどな」


 誠は苦笑した。


 その時、インターホンが鳴った。


 宅配便ではない。


 モニターを見ると、そこにはサングラスをかけた黒服の男――内閣情報調査室の時田室長が立っていた。


 彼はカメラに向かって深々と頭を下げた。


「……何しに来たんだ?」


「おそらく、会見の成功報告と、今後の『魔法使い(厨二病患者)』たちの管理についての相談でしょう」


 メイが玄関のロックを解除する。


「やれやれ。休日だってのに」


 誠は立ち上がった。


 テレビの中の大騒ぎは、まだ終わらない。


 だが、誠の平穏な午後は、ここからまた忙しくなりそうだった。


「メイ、お茶淹れてあげて。


 あと、時田さんに胃薬も」


「承知いたしました。


 ……魔法で『胃薬』を生成しておきましょうか?」


「いや、普通のやつでいいよ。


 魔法はもう、お腹いっぱいだ」


 扉が開く。


 外の冷たい空気と共に、熱狂する世界の情報が流れ込んでくる。


 それでも、この部屋の中だけは、おでんの出汁の香りと、変わらぬ日常が守られていた。


 世界が魔法に驚こうと、銀河が動こうと。


 真田誠は今日も今日とて、ただの「管理者」として、お茶を飲むだけである。

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― 新着の感想 ―
この世界線では魔法使いは初期のメンバーだけしか使えないのでしょうか?あの残念エルフ耳娘が愉悦欲しさにばら蒔きそうでなりません(笑)
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