第20話 長耳の邪神は「師匠キャラ」を演じたい
その日の東京の空は、抜けるような青空だった。
だが、皇居外苑に集まった日本政府の要人たち、そして「地球代表」真田誠の心の内は、鉛色の曇天よりも重く、澱んでいた。
「……来るぞ」
防衛大臣の轟が、乾いた唇を舐めた。
周囲には、完全武装した自衛隊の精鋭部隊ではなく、燕尾服を着た給仕や、着物を着た接待係が、ずらりと並んでいる。
作戦名『オペレーション・土下座』。
武力による抵抗を放棄し、全精力を「ご機嫌取り」に注ぐ、人類史上最も情けない防衛戦だ。
「メイ、準備は?」
誠は隣に控えるウィル(執事モード)と、その肩に止まっているメイ(球体モード)に尋ねた。
「万端です、マスター」
メイの声は硬い。
彼女のセンサーは、すでに空間の向こう側から迫りくる「規格外のエネルギー」を感知し、警告音を鳴らし続けている。
「来ます。……座標変動なし。
時間軸の歪み……計測不能。
物理的な移動ではありません。
『最初からそこにいた』という事実を書き込む形で、出現します」
「……意味がわからん」
誠が呟いた直後だった。
カラン……。
涼やかな鈴の音のようなものが響いた。
そして皇居外苑の砂利道の上に、唐突に「彼女」は立っていた。
長い金髪が、重力を無視して、ふわりと舞っている。
透き通るような白い肌。
宝石のエメラルドを溶かし込んだような瞳。
そして、何より特徴的な、尖った長い耳。
ファンタジーRPGに出てくる「ハイエルフ」そのものだ。
服装も、神話の女神が着るような優美な純白のドレスに、不可思議な紋様が刻まれた杖を持っている。
美しい。
だが、その美しさは、核爆発の閃光を見た時のような、本能的な恐怖を伴う美しさだった。
「……へえ」
彼女――時空の織り手、シルフィードは、興味なさそうに周囲を見回した。
「ここが『地球』ね」
彼女の声は、鼓膜ではなく、脳髄に直接響く「概念」の伝達だった。
「ふうん……。
第7銀河の辺境にある『惑星ル・ル』に似てるけど、文明レベルはえらい違いね。
あそこは住民が全員、念動力で空を飛んでたけど、ここの猿たちは、まだ地面を這いずってるの?」
シルフィードは、誠たちの背後に見える丸の内のビル群を見上げ、鼻で笑った。
「グキュルル……(人間には発音不能な高次元言語)」
彼女が何かを呟くと、周囲の空気がビリビリと震えた。
おそらく「汚い小屋ね」とか、「酸素が臭いわ」といった悪口なのだろう。
「よ、ようこそ、地球へ……!」
誠は震える足を叱咤し、一歩前に出た。
ここで怯んではいけない。
地球の命運がかかっているのだ。
「地球代表のサナダです。
遠路はるばるお越しいただき、光栄の極みです。
本日は、我が国の総力を挙げて、おもてなしを……」
「つまんない」
シルフィードは、誠の言葉を遮った。
彼女の視線は、誠を通り越し、虚空を見つめていた。
「挨拶とかいいから。
アリアから聞いてたけど、なんか地味ね、ここ。
もっとこう……派手なのないの?
文明の象徴みたいなやつ」
「は、派手なもの……ですか?」
誠が困惑していると、シルフィードは指をパチンと鳴らした。
「あ、そうだ。
こっちに来る前にスキャンしたデータにあったわ。
海を渡った向こう側にある、大きな大陸。
あそこになんか変な像が立ってたじゃない?」
「え……?」
「たいまつ持った、緑色の女の像よ。
『自由の女神』とか言ったかしら?
あれ、見に行きましょう」
彼女が杖を軽く振った。
ヒュンッ。
視界が暗転した。
移動の感覚すらない。
まばたきをした次の瞬間、誠たちの目の前にあったのは、皇居の松林ではなかった。
冷たい海風。
灰色に濁った海。
そして目の前にそびえ立つ、巨大な緑青色の巨像。
「……えええええっ!?」
誠は絶叫した。
周りを見渡せば、一緒にいた総理大臣も理会長も、そして数十人の接待係たちも、全員まるごと移動していた。
場所は、ニューヨーク・リバティ島。
「な、なんだここは!? アメリカか!?」
「パスポート持ってないぞ!」
「SPはどうした!? 警備がいない!」
日本政府の一団はパニックに陥った。
だがシルフィードは、我関せずといった様子で、空中に浮遊しながら自由の女神像を眺めていた。
「へー、あれが自由の女神ね」
彼女は、まるで土産物屋のキーホルダーを見るような目で、人類の自由の象徴を値踏みした。
「……あれ、いる?」
「は?」
誠が聞き返す間もなく、彼女は続けた。
「だって、ただ立ってるだけじゃない。
動かない彫像なんて、今の銀河じゃ流行らないわよ?
最新のトレンドは『可動式』よ」
彼女の瞳に、悪戯な光が宿った。
それは、子供が積木を崩す直前の目だった。
「とりあえず、あの像が動いたら、面白くなーい?」
「や、やめてください!」
誠が叫ぶのと、彼女が杖を振ったのは同時だった。
ズズズズズ……ッ!
地響きが鳴った。
台座に固定されていたはずの自由の女神が、ゆっくりと、しかし確実に、その巨大な足を上げたのだ。
「うわあああ! 動いたぁぁぁ!」
観光客たちの悲鳴が上がる。
女神像は、ギギギ……と不気味な岩石音を立てながら台座から降り立った。
そして手にした松明を、まるで棍棒のように振りかぶった。
「行けー! やっちゃえー!」
シルフィードが手を叩いて笑う。
女神像が松明を、マンハッタンの方角へ向けて一閃した。
松明の先端から、本物の「炎」ではなく、純粋な破壊エネルギーの奔流が放たれた。
ドォォォォォォン!!
対岸のマンハッタン島、バッテリーパーク周辺が炎に包まれる。
橋が落ちる。
ビルが崩れる。
サイレンの音。
爆発音。
人々の阿鼻叫喚。
「あはははは! すごいすごい!
やっぱり大きいものが動いて壊すのって、カタルシスあるわねー!
これぞ怪獣映画!
日本の文化でしょ?」
シルフィードは空中で転げ回って、ゲラゲラと笑っていた。
その下で、アメリカ合衆国の象徴が自国を攻撃するという悪夢が展開されている。
「……あああ……」
御堂筋総理は腰を抜かしていた。
これは国際問題とかいうレベルではない。
世界が終わる。
アメリカ軍が報復核攻撃に出るまで、あと数分だろう。
「やばー……」
誠は呆然と呟いた。
目の前の光景に、リアリティがない。
あまりにも圧倒的な暴力は、人の思考を停止させる。
だが。
「……あれ?」
シルフィードの笑い声が、ふと止まった。
彼女は廃墟と化しつつあるニューヨークを見下ろし、次に凍りついて絶句している日本政府の一団を見下ろした。
「……なんか、つまらない?」
彼女は首をかしげた。
「もっとこう『わーっ!』って盛り上がるかと思ったのに。
なんかみんな顔色が青いし、吐いてる人もいるし……。
そういう空気じゃない?」
「……」
誠は恐怖で乾いた喉を必死に動かし、言った。
「……そ、そういう空気じゃないです。
僕たちは……平和を愛しているので……」
「ふーん」
シルフィードはつまらなそうに、唇を尖らせた。
「せっかくサービスしてあげたのに。
破壊と殺戮は、未開文明の娯楽の基本でしょ?
ローマのコロッセオとか、知らないの?」
「……現代人は、もっとマイルドな娯楽が好きなんです」
「ちぇっ。わがままねぇ」
彼女はため息をついた。
そして壊れたおもちゃを捨てるように、手を振った。
「そう。じゃあ、なしで」
パチン。
指が鳴らされた。
キュルルルルルルルルッ!!
世界の音が逆再生された。
崩れ落ちたビルが、ビデオの巻き戻しのように再構築されていく。
爆炎が収束し、悲鳴が歓声に戻り、動き出した女神像が台座へと戻っていく。
そして誠たちの視界そのものが、高速で後ろへと流れていった。
――ッ。
気がつくと、誠は立っていた。
目の前には、皇居の松林。
心地よい風。
そして目の前に現れたばかりの、白ドレスのエルフ。
「……うぷっ」
誠は強烈な吐き気に襲われ、その場に膝をついた。
三半規管が狂っている。
今、何が起きた?
「大丈夫ですか、マスター」
メイが背中をさすってくれた(物理アームで)。
彼女のディスプレイには『警告:因果律連続不連続発生』の文字が、赤く点滅している。
「……メイ、今……」
「はい。時間が戻されましたね」
メイは目の前でつまらなそうにあくびをしているシルフィードを睨みつけながら、小声で言った。
「数分前、私たちはニューヨークへ転移し、大惨事を目撃しました。
ですが彼女が『気に入らない』という理由だけで、その事実を剪定し、ここへ戻したのです。
……何をしたかは不明ですが、世界の構造そのものを『リロード』したようですね」
「……バケモノめ」
誠は震えた。
アメリカが滅びかけた事実は、今や誠とメイ、そしてこの場にいる「時空移動に巻き込まれた」関係者の記憶の中にしか存在しない。
総理大臣も理会長も、何が起きたか分からず、ただ「強烈な既視感」と吐き気に青ざめている。
「ねえ、そこのガイドさん」
シルフィードが何事もなかったかのように(彼女にとっては『なかったこと』なのだが)話しかけてきた。
「とりあえず、アリアから聞いてたけどさ。
ここのおもてなしって、もっとこう……地味で滋味深いのが売りなんでしょ?
なんか色々な所に行きたいわ!」
彼女は空中に、ホログラムのリストを表示した。
「日本の情報は仕入れてるから。
とりあえず『京都』で古い木造建築を見て、『秋葉原』でサブカルチャーの狂気を浴びて、『箱根』で火山性ガスが含まれたお湯に浸かりたいわ。
散々贅沢させてよね?
私を満足させられなかったら……さっきの『アレ』、もう一回やるから」
彼女はニヤリと笑った。
その笑顔は、完全に「脅迫」だった。
「……は、はい! 喜んで!」
誠は直立不動で叫んだ。
やるしかない。
自由の女神が暴れまわる世界線よりは、温泉旅行の方がマシだ。
そこからの数日間は、地獄のような、しかし奇妙に豪勢な日々だった。
京都、金閣寺。
「へー、金箔貼っただけ?
エネルギーシールド貼れば劣化しないのに。……でもまあ、この無駄な輝きが悪くないわね」
秋葉原、メイドカフェ。
「『萌え』……?
なるほど、精神干渉魔法の一種ね。
オムライスに呪文をかけて味を変える……。
因果律操作の初歩としては、興味深いわ」
銀座、高級寿司店「すきやばし次郎」。
「生魚を体温と同じ温度の炭水化物に乗せる……。
野蛮だけど、この食感のハーモニーは計算されているわね。
レプリケーターの『完全食』にはない、不安定な旨味だわ」
シルフィードは文句を言いながらも、確実に楽しんでいた。
彼女のわがままは絶対だ。
「天気が悪い」と言えば、メイが雲を消し飛ばした。
「移動が面倒」と言えば、理会長が手配したヘリコプターで空輸した。
「退屈」と言い出しかけたら、総理大臣が一発芸(腹踊り)をして場を繋いだ。
そして最終日。
箱根の高級旅館「強羅花壇」。
貸し切りの露天風呂で月見酒を楽しみながら、シルフィードは上機嫌だった。
「うーん、悪くないわね」
彼女は日本酒(純米大吟醸)を、ちびりと飲んだ。
「こうやって原始的なもてなしを受けるのも、悪くないわ。
時間の流れが遅くて、一つ一つの行為に意味がある。
……まあ全て、私の永遠の生における、ほんの数秒の暇つぶしなんだけど」
「楽しんでいただけて、何よりです」
誠は浴衣姿で酌をしながら、心底ホッとしていた。
なんとか地球は、滅ぼされずに済みそうだ。
「ニホンね……。気に入ったわ!」
シルフィードは杯を置いた。
「ここ、私の別荘にしてあげてもいいわよ?」
「え、別荘ですか?」
「ええ。銀河の喧騒から離れて、アナログな生活を楽しむ隠れ家。
……でも、ただ遊びに来るだけじゃ、すぐに飽きちゃいそうね」
彼女の目が、ふと誠を見据えた。
その瞳の奥で、数億年の時を生きる超越者の「退屈」という名の闇が渦巻いていた。
「ねえ、あなたたち。
因果律改変も使えない未開の民族なんでしょ?
不便よね?
一度死んだら生き返れないし、失敗したらやり直せないなんて」
「まあ、それが人生ですから」
「つまんない答え」
シルフィードは立ち上がった。
月光を背に、彼女の影が巨大に伸びる。
「決めたわ。
私が『先生』になってあげる!!!!!」
「……はい?」
誠が聞き返す。
「興が乗ってきたわ! 弟子を取るの!
私は『異世界から来た旅の魔法使い』!
そして、この辺境の地ニホンで、才能ある若者を導く師匠になるの!」
彼女は、どこからともなく取り出した杖を掲げた。
完全に自分の中の「物語」に入り込んでいる。
「弟子は3人ね。
勇気ある少年、知恵ある少女、そして闇を抱えたライバルキャラ!
この3人に、私が直々に『因果律改変(魔法)』の基礎を叩き込むの!」
「えええと……それは光栄なことですが……」
誠は嫌な予感がした。
この女神の気まぐれが、ロクな結末になるわけがない。
「そして!」
シルフィードは恍惚とした表情で叫んだ。
「その弟子達は、やがて成長して、私を殺しにくるの!」
「……は?」
「なんて素晴らしいんでしょう!
師匠殺し! 恩を仇で返す悲劇!
育ての親であり、圧倒的な力を持つ師匠を、弟子たちが力を合わせて乗り越える!
これぞ物語の王道!
銀河最高のエンターテインメントよ!」
彼女はクルクルと踊った。
「私が悪役になってもいいし、世界を守るために犠牲になる聖女役でもいいわ!
彼らがどんな手を使って、私(という絶対的な理不尽)に挑んでくるか……想像するだけでゾクゾクするわ!」
「……決定、決定!!! 採用!」
彼女は勝手に自己完結した。
その夜の緊急会議。
旅館の大広間に集められた日本政府首脳陣は、全員が幽霊を見たような顔をしていた。
「……それは、どういうことですか? 真田さん」
総理大臣が震える声で尋ねた。
「そうね……」
答えたのは、上座に座るシルフィードだった。
「弟子を取って、私の持つ『権能』の一部……因果律改変コードをインストールするの。
ようは、思っただけで現実を書き換えられる超能力者を3人作るってこと。
そして、彼らへの最終試験(卒業課題)は……『私を殺すこと』!!!!!」
シーン……。
畳の目が数えられるほどの静寂。
「……殺すとは?」
「文字通りよ。
私の存在を、時空連続体から消滅させること。
まあ、私を殺すなんて、銀河一つ消し飛ばすくらいのエネルギーがないと無理だけど。
彼らがそこまで成長する過程を、楽しみたいのよ」
日本政府は青ざめた。
意味がわかった。
彼女は日本人の子供3人に「核兵器のスイッチ」どころか「現実改変スイッチ」を持たせ、それを育て上げ、最終的に「地球が戦場になる神々の戦争」を引き起こそうとしているのだ。
失敗すれば、地球消滅。
成功しても、その余波で太陽系くらいは消し飛ぶだろう。
「無限に時間があっても足りないけど(笑)。
まあ私が時間を操作して、育成をスキップさせてもいいし。
よし、決定! 決定!!」
シルフィードは楽しそうに拍手をした。
「総理大臣! 候補者を用意しなさい!
才能があって、ドラマチックな運命を背負った子供たちをね!」
「……」
総理は深いため息をついた。
あまりにも理不尽。
あまりにもスケール違いの災厄。
だが、拒否すれば「自由の女神」の二の舞いだ。
「……とりあえず。検討させて下さい……」
総理は時間を稼ぐしかなかった。
日本の官僚芸「検討」である。
「検討? ああ、準備期間ってことね」
シルフィードは意外にも、あっさりと頷いた。
「良いわよ。
焦って適当な弟子を選ばれても興ざめだし。
最高の素材を、見繕ってちょうだい」
彼女は指を立てた。
「じゃあ、1000年以内に返事をちょうだい!」
「……せ、1000年?」
総理が耳を疑った。
「ええ。短いけど、待ってあげるわ。
私にとっては一瞬の昼寝みたいなものだけど、あなた達にとっては結構な時間なんでしょ?
その間に遺伝子操作でも、品種改良でもして、優秀な『勇者候補』を作っておきなさい」
1000年。
人類にとっては永遠に近い未来だが、エルフにとっては「ちょっと待つ」感覚らしい。
「あっ、でも気が変わって、それより早く来るかも?」
彼女は悪魔的に付け加えた。
「100年後かもしれないし、来週かもしれない。
私が『暇だなぁ』って思い出したら、すぐに来るから。
次の来訪までに、用意しておいてね!!!!!」
「は、はい……善処します……」
総理は力なく答えた。
とりあえず、自分の代での破滅は回避された。
あとは未来の子孫たちに丸投げだ。
ごめんよ、未来の日本人。
「交渉成立ね!」
シルフィードは満面の笑みで立ち上がった。
「じゃあ、堅苦しい話は終わり!
おもてなしを続けましょう!
さっきの旅館の『カラオケ』ってやつ、興味あるのよね。
音波兵器による精神攻撃なんでしょ?
受けて立ってあげるわ!」
「……はい、行きましょう。
アニソン縛りでお願いします」
誠は立ち上がった。
胃は痛い。未来は暗い。
だが今、この瞬間だけは地球は平和だ。
このあと一行は、朝までめちゃくちゃもてなした。
総理大臣が「マツケンサンバ」を踊り、理会長が「ウィ・アー・ザ・ワールド」を熱唱し、誠がタンバリンを叩き続けた。
シルフィードは「残酷な天使のテーゼ」を完璧に歌い上げ(因果律操作で音程を強制補正した)、ご満悦で帰っていった。
翌朝。
嵐が去った旅館のロビーで、誠は朝日を見つめていた。
「……行ったか」
「はい、マスター。次元の裂け目の彼方へ」
メイが答えた。
彼女もまた、この数日間、常にシルフィードの殺気(遊び心)に晒され続け、消耗していた。
「1000年の猶予か……。
俺たちが生きてる間は、大丈夫そうだな」
「そうですね。……ですが彼女が残していった『宿題(弟子育成)』は、日本政府のトップシークレットとして、代々引き継がれていくことになるでしょう」
「『対邪神用勇者育成計画』か……。
SF小説みたいだな」
「現実は、小説より奇なりです」
誠は伸びをした。
体中の関節が鳴る。
D-Cellのおかげで疲れはないはずだが、精神的な疲労は骨の髄まで染み込んでいた。
「……帰ろう、メイ。
家に帰って、普通の週末を過ごそう」
「はい、マスター。
今夜はシンプルなお茶漬けにしましょうか」
「最高だ」
二人は、まだ誰もいない朝の箱根を歩き出した。
1000年後の未来なんて知らない。
大事なのは、来週の「週休3日」が守られたという事実だけだ。
1週間後、またシルフィードが来訪することは、また別の話。




