鉄の受付嬢の盾
私は冒険者ギルドの受付嬢です。
嬢とはいっても、かなりベテランです(笑)
伝説になった七人のパーティーに憧れて、会いたくて冒険者ギルドに入ったミーハーです。
でも、ミスなく騒がず、正確に仕事をしないと受付けから外されてしまいますので、真面目に仕事はしていますよ。
陰で「鉄の受付嬢」と呼ばれるくらい。
もう、あの伝説のパーティーが解散してから十年が経ちました。
若い子たちには、「なんか、おじさん達が語ってる昔の冒険者」みたいな存在です。
盾役の彼が、時々、はにかんだ笑みを見せるのが至高だったのです。
人気の高いメンバーがインタビューを受けている後ろで、わちゃわちゃイチャイチャしているのを見られるのは、職員の役得でした。
たぶん「もう、やめろよぉ」とか言っていたのでしょう。メンバーにつつかれて、いじられていましたね。
ふいにインタビューが飛んできて、揃ってビシッと直立の姿勢になるのが、おかしかった。
教会の読み書き教室で、牧師さんに叱られる男の子たちのようでした。
不仲説が流れることがありましたが、どこのパーティーでも出る話なので、気にしていられません。
それなのに、突然、解散の手続きを代理人が提出に来ました。
震える手で受理し、その日の夜は食事も喉を通らず、泣き明かしました。
それでも、容赦なく陽は昇り、仕事をしなければなりません。
メンバーはどんな気持ちでいるのでしょう。
気になっても、私に知る術はありませんでした。
解散からしばらくして、前衛三人が派手な喧嘩をしたそうです。
解散の経緯を勝手に暴露したとか、それは嘘だと反論したとか。
真相は本人たちしか知り得ないのでしょうし、それぞれが「自分から見た、自分にとっての真実」を語っているんだろうなと思います。
何十年かして、和解してくれたらいいなと思っていたら……盾役の彼が死亡したという速報が入ってきました。
彼のお葬式で、残りのメンバーは二手に分かれ、一言も交わさなかったという情報もありました。
「彼に免じて水に流そう」と言い出す人は、いなかったのでしょうか。
……いなかったでしょうね。
言う人がいたとしたら、それこそ「彼」だったと思います……。
今でも「盾役の彼が生きていたら、仲裁してくれたかもしれないのに」と思うことがあります。
解散したパーティーが何十年も経って、人間が円くなって仲直りすることもあるので。
つい先日も、「戦って散りたい」というおじいちゃんたちを、説得するのが大変でした。
二回言います。ほっんとうに、大変でした。
あなたたち、殴り合って解散したんですよね?(先輩がそう言っていました)
Sランクだったのは、遙か昔。
お孫さんに尊敬されたいとか、正気ですか。はっきり言って、迷惑です。
「依頼達成できないかも~、できなかったら許してね」なんて、ただの自己満足。
未達成案件は、紹介したギルドにもペナルティがつく。マジ、許さん。
失礼。話が脱線しました。こほん。
ぽややんとして、口数が少なく、みんなの後ろでニコニコしていた彼。
ひとりだけ「○○殺し」というタイトルを持っていませんでした。
功績を人に譲って、「守備していただけだから」と頭をかいていました。
もう、もう、もう!
奥ゆかしくて、謙遜しすぎで……もうぉぉ……バカじゃないですか?
集合写真も、他のメンバーの頭で見切れていたり、したじゃないですか。
友達は別のメンバーのファンで、スクラップブックは何冊にもなっていたのに、私のスクラップブックは一冊のままですよ。
……それでも、心の支えになりますけど。
緊張した無表情が多くて、笑顔の写真なんか数枚しかありません。
私のようにファンがいたこと、知っていたのかなぁ。
知らないから、無頓着だった気もするな。
――お墓参りに行く勇気もない、いちファンです。




