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鉄の受付嬢の盾

作者: 紡里
掲載日:2025/10/25

 私は冒険者ギルドの受付嬢です。

 嬢とはいっても、かなりベテランです(笑)


 伝説になった七人のパーティーに憧れて、会いたくて冒険者ギルドに入ったミーハーです。

 でも、ミスなく騒がず、正確に仕事をしないと受付けから外されてしまいますので、真面目に仕事はしていますよ。

 陰で「鉄の受付嬢」と呼ばれるくらい。



 もう、あの伝説のパーティーが解散してから十年が経ちました。

 若い子たちには、「なんか、おじさん達が語ってる昔の冒険者」みたいな存在です。




 盾役の彼が、時々、はにかんだ笑みを見せるのが至高だったのです。

 人気の高いメンバーがインタビューを受けている後ろで、わちゃわちゃイチャイチャしているのを見られるのは、職員の役得でした。


 たぶん「もう、やめろよぉ」とか言っていたのでしょう。メンバーにつつかれて、いじられていましたね。

 ふいにインタビューが飛んできて、揃ってビシッと直立の姿勢になるのが、おかしかった。

 教会の読み書き教室で、牧師さんに叱られる男の子たちのようでした。




 不仲説が流れることがありましたが、どこのパーティーでも出る話なので、気にしていられません。



 それなのに、突然、解散の手続きを代理人が提出に来ました。


 震える手で受理し、その日の夜は食事も喉を通らず、泣き明かしました。

 それでも、容赦なく陽は昇り、仕事をしなければなりません。


 メンバーはどんな気持ちでいるのでしょう。

 気になっても、私に知る術はありませんでした。




 解散からしばらくして、前衛三人が派手な喧嘩をしたそうです。

 解散の経緯を勝手に暴露したとか、それは嘘だと反論したとか。



 真相は本人たちしか知り得ないのでしょうし、それぞれが「自分から見た、自分にとっての真実」を語っているんだろうなと思います。


 何十年かして、和解してくれたらいいなと思っていたら……盾役の彼が死亡したという速報が入ってきました。

 彼のお葬式で、残りのメンバーは二手に分かれ、一言も交わさなかったという情報もありました。



「彼に免じて水に流そう」と言い出す人は、いなかったのでしょうか。

 ……いなかったでしょうね。

 言う人がいたとしたら、それこそ「彼」だったと思います……。




 今でも「盾役の彼が生きていたら、仲裁してくれたかもしれないのに」と思うことがあります。


 解散したパーティーが何十年も経って、人間が円くなって仲直りすることもあるので。


 つい先日も、「戦って散りたい」というおじいちゃんたちを、説得するのが大変でした。

 二回言います。ほっんとうに、大変でした。

 あなたたち、殴り合って解散したんですよね?(先輩がそう言っていました)

 Sランクだったのは、遙か昔。

 お孫さんに尊敬されたいとか、正気ですか。はっきり言って、迷惑です。


「依頼達成できないかも~、できなかったら許してね」なんて、ただの自己満足。

 未達成案件は、紹介したギルドにもペナルティがつく。マジ、許さん。




 失礼。話が脱線しました。こほん。


 ぽややんとして、口数が少なく、みんなの後ろでニコニコしていた彼。

 ひとりだけ「○○殺し」というタイトルを持っていませんでした。

 功績を人に譲って、「守備していただけだから」と頭をかいていました。


 もう、もう、もう!

 奥ゆかしくて、謙遜しすぎで……もうぉぉ……バカじゃないですか?


 集合写真も、他のメンバーの頭で見切れていたり、したじゃないですか。

 友達は別のメンバーのファンで、スクラップブックは何冊にもなっていたのに、私のスクラップブックは一冊のままですよ。


 ……それでも、心の支えになりますけど。

 緊張した無表情が多くて、笑顔の写真なんか数枚しかありません。




 私のようにファンがいたこと、知っていたのかなぁ。

 知らないから、無頓着だった気もするな。


 ――お墓参りに行く勇気もない、いちファンです。


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― 新着の感想 ―
某格子柄一味のドラマーさんが亡くなったときのファンの人の「もう再結成はないんだな…」という呟きを思い出しました。 解散時「髭が悪い」と息巻く彼女をなだめたのは良い?思い出……。 正直格子柄衣装どハマり…
読んでいて、チェックの服の7人組のグループを思い浮かべました。ナイフみたいに尖って触るものをみんな傷つけちゃったり、涙でリクエストしたりしてた、あのグループです。
 推しがあまり注目されていない人だと、こういう哀しみを覚えることもありますよね。こちらは異世界のお話ですが、現実世界でもよくある話で、私も『三国志』での推しの扱いにしみじみ泣きたくなった覚えがあります…
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