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第1話 戦争終結

 人類が謎の宇宙生物との戦争を始めてもう20年以上がたった。今日はその最後の一日になって欲しいと人々が願った日だ。


『国連宇宙軍はルビコン作戦発令!ルビコン作戦発令!総員は持ち場につき作戦を遂行せよ!』


 俺はエージス(A)ミーレス(M)という人型機動兵器のコクピットの中で最終調整を行っていた。俺に与えられたのは最新鋭機であるバトラズというピーキーすぎる機体である。これで宇宙から来た敵生物であるHostes caeli alieni 通称ホーカ、あるいはハリエンと呼ばれる宇宙人共の巣穴に飛び込んで死んでくるのが仕事だ。


「従軍20年目としてはまあ出来のいいジョークだ。年金も払わずに済むだろうしな」


 俺は孤児だ。戦争の初期で両親と兄弟を失った。天蓋孤独のまま15歳で徴兵されて、任期を過ぎてもダラダラと軍に残り続けてしまった。俺にやりたいことはない。この戦争を終わらせること以外は。


『志賀上級曹長。あけてください!』


 ハンガーの方から俺のコクピットを叩く人の姿がモニターに見える。無重力の中で髪を広げて輝かせる金髪碧眼のとても美しい女。グラマラスながらも清楚で厳粛な雰囲気を持った女軍人。俺はコックピットを開ける。


「何か用ですか?アールトネン中尉」


「こんな時に他人行儀はやめてください!」


 アールトネン中尉は俺のコクピットの中に飛び込んでくる。そして俺の首に抱き着いてくる。


了雅(りょうが)さん。こんな作戦無茶だよ。逃げましょう。混戦状態になったら誰も私たちのことなんて気にしなくなる。だからどさくさに紛れて逃げましょう。二人で何処かへ」


 俺は彼女の頭を撫でてやる。俺はこの女と付き合っている。だから彼女の願いを叶えてやりたい。そんな男の気持ちも浮かぶ。だけどそれは出来ない。


「ごめんなラウハ。それでも逃げることは俺には出来ないんだよ。もういない戦友たちがきっと見てる」


「死んだ人たちは何にも考えられないよ!」


「いいや見てるよ。俺のことをいつだって」


 徴兵されてから20年間。戦友、部下、上官、目の前で死んでいった民間人たち。すべての人々が俺を見ている。お前の番はいつなんだと俺に問いかけてくる。


「ラウハ。すまない。名残惜しいけど。俺はもう行くよ」


 俺はラウハの身体をそっと押す。彼女の身体は無重力の中で宙を舞ってハンガーの渡り廊下に辿り着いた。近くにいた兵士たちがラウハの手を掴んで気密室に放り込む。これからここは空気が抜かれて順次発進シークエンスに移る。


「愛されてただけ。きっとましなんだよ。ラウハ。ありがとう」


 俺は発進手続きを続ける。そしてカタパルトに立って管制の指示のもとで宇宙に向かって飛び立った。


















 ルビコン作戦はしっちゃかめっちゃかだった。敵の主力とこちらの主力が大混戦となり、被害は無尽蔵に広がっていく。そんな中で俺の率いる部隊は主戦場から離れて敵宇宙生物の巣の傍を飛んでいた。時折護衛のモンスターが出てくるが雑魚だったので舞台に損耗はない。


『隊長!見つかりました!情報部め!たまにはやるじゃないか!』


 モニターにターゲットサイトが現れる。巣の一部に脆弱性があることは以前から指摘されていた。それをとうとう人類は暴いたのだ。俺以外の部隊も似たように各地の巣の脆い部分目指して進攻しているはずだ。


「全員バズーカ用意。核ミサイルのシャワーを浴びせてやれ!」


 俺たちの部隊はその弱点に一斉に核ミサイルをぶち込んでやった。そして見事に巣に大穴が空いた。俺たちはその中へ一斉に飛び込む。ここからは未知のエリアだ。


『隊長。次の十字路で左右から挟撃の可能性がAIで予測されました』


「わかった。デルタ3,デルタ4」


『わかってますよ』


『憧れてたんですよ。捨てがまりってやつ!』


 デルタ3とデルタ4は俺の機体よりも先行して進み十字路の左右にそれぞれ飛び込む。激しい閃光が散る。残りのメンバーは二人を無視して十字路を突っ切る。きっと彼らは帰ってこれない。俺が死ねと命じた。俺の番はまだ来ない。








 そしていよいよ敵の巣の中央部に近いところまでやってきた。開閉式と思われる門があった。そしてその前に二体のAMによく似た敵モンスターがいた。宇宙生命体はこちら側をよく学習した。そしてとうとうこちらの主戦力であるAMによく似た存在まで作り出すようになったのだ。


「全機、門に向かってバズーカを撃て。その後デルタ6,デルタ2はここに残ってあいつらを駆除しろ」


『了解隊長。あいつを倒したら勲章もんだろうな!』


『隊長、あんたとここまで来れてたのしかったぜ』


 門を核ミサイルで吹っ飛ばして、俺は門を通り抜ける。残った部下たちが敵モンスターたちと戦う姿がモニターにちらりと映った。だけど俺は振り向かない。そんな資格はない。そしていよいよ俺の番がやってくる。







 門を超えたところは巨大な球状の空間になっていた。ほのかに輝く発光体のお陰で暗視モードは必要なさそうだ。中央部分に反応がある。俺は背中のブースターで一気に先へと進む。


『こ…ちら…コ……2……他に……誰か』


 俺は少し驚いた。通信が入ったのだ。ジャミングでとぎれとぎれだが、他にもここに突入することに成功したチームがいたのだ。


「こちらデルタ1。よく聞こえない。応答できるか?」


『デルタ1?了雅さん?了雅さんなの?!ああ!こんなことって!』


「まさかラウハか?!」


 俺は背中からビームソードを抜いて、通信の先まで飛ぶ。そこにはラウハの愛機であるアイノがオタマジャクシのようなモンスターたちと戦っているのが見えた。すぐに俺はそこに飛び込み、敵モンスターを斬り捨てていく。


「ラウハ!無事か?!」


「了雅さん!ええ!無事!でももう機体が……」


 ラウハの機体であるアイノはもうボロボロだった。右手と左足は吹き飛び、頭も半分吹き飛んでいる。兵装のほぼすべてを失っていた。


「こっちに乗り移れ!」


 俺はアイノのコクピットを無理やり開けて、中からラウハを掴んで俺のコクピットの中に入れる。ラウハは俺に泣きながら抱き着いてきた。


「みんな。みんな死んじゃった。ここに私を送り込むために死んじゃった。なのに何もできなかった。私は何もできなかったんです。ううぁあ」


 俺はラウハの背中を撫でつつ、ラウハの機体に核爆弾をセットして、その場から離れる。そしてアイノは周囲の敵を巻き込んで爆発した。


「ここに来れたのは俺たちだけか。あはは。ラウハ。逃げなくても一緒だったな俺たち」


「ぐすぅ。うん。そうでしたね」


 俺は中心部に急ぐ。最低限の動きだけで敵を回避しながら目標まで向かう。そして辿り着いた。


「これがハリエンのコア……」


「綺麗……」


 それは虹色に輝くまるで真珠のような球だった。思わず見とれそうになる。だがこれが全ての元凶なのだ。人類の半分の命を奪った元凶。すべての仇。俺は背中のラックから一本の槍を取り出して構える。


「反応弾の槍……」


 ラウハが槍の穂先を見ている。この槍の先は反物質で固めてある。今は安全装置がついているが、敵に突き刺してリリースすれば、この世界に存在する物質ならばすべて崩壊させることができる。俺は大きく息を吸い、相手を見据える。すぐ近くにモンスター共が迫っている気配は感じている。急がなければいけない。狙いを定めてモニター上でもロックがかかった時だった。


『待っていました』


 声が聞こえた。


「ラウハ。今何か言ったか?」


「いいえ。なにも」


『幾億年もの時をずうっとずうっと』


 まだ聞こえる。ラウハは俺の顔を心配そうに見ている。


『さあ来て』


 俺の心臓がいやな音を立てていく。このままこの槍を挿してもいいのか?そんな疑問が頭をよぎる。だが他に武器はない。ここまで来ることが俺の唯一の義務。それを裏切るわけにはいかない。


『さあ。ぎゅって抱きしめて。痛くてもいいから』


「うっせんだよぉおおおおおおおおおお!!!!」


 俺は一気に加速して敵のコアに向かって飛び込む。そして槍を突き刺した。そしてコアは虹色から真っ黒になり、ボロボロと自壊を始めていく。


「やった!やったんですね!了雅さん!」


 ラウハが俺に抱き着いてくる。俺も嬉しかった。20年以上続いた戦争はこれで終わる。そして巣自体が揺れ始める。自壊を始めたのだろう。俺は来た道を超高速で戻っていく。途中仲間の朽ちた機体を見かけて失ったものの重さを感じた。そして巣の外に出た。


『敵モンスターたちが自壊を始めました!』


『見ろぉ!巣がボロボロになっていく!』


『勝った!人類が勝ったんだ!』


 歓声が通信網から流れてくる。俺はヘルメットを脱いで栄養ドリンクのチューブに口をつける。


「汗いっぱいかいてますね」


 ラウハが俺の顔をタオルで拭う。そして唇を重ねてきた。


「終わったんだな戦争は」


「ええ。終わったんです。そして始まるんです。新しい世界が」


 俺とラウハは抱き合って戦場の光を見詰めていた。終わった。俺の番が来ることなく戦争は終わってしまったのだった。









★★★★★がほしい!星だけに!

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