8:はじめてのクエスト
ユカとララは、ルーク王国のモウグリから東南方向に徒歩で2、3日ほどの距離にある町、アイダホに着いた。
「ひとけがあまりないわね・・・」
「ルーク王国の国境を越えるとこんなもんだぞ」
「そうなのね・・・」
私は町の様子をざっと見渡したけれど、なんというか全体的にさびれているわね。
「ユッカ、まずは冒険者ギルドに行くか?クエスト探すついでに宿も紹介してもらおう」
「そうしましょう」
冒険者ギルドは目立っていたので、道に迷わずに辿り着けた。
建物の中に入ったけれど、活気もなく閑散としている。
建物の中に唯一いた初老くらいのギルドマスターらしき人が、私たちを見て声をかけてきた。
「おや?道にでも迷ったかい?」
「いえ、れっきとした冒険者です。クエストを探しにきました」
私は、ギルドカードを提示しながら答えた。
「これは失礼。ワシはアイダホでギルドマスターをやっているが、最近冒険者なんて来なかったからのう。勘違いしてしまった」
「人がいないのか?」
ララは純粋に疑問に思ったことを聞いたようね。
「そうじゃのう・・・。この町のことは知っているかい?」
「名前だけは聞いたことがある。それ以外は知らない」
「名前はまだ有名なんじゃな。かつては、鉄鉱石の産出地として栄えておった。じゃが、ルーク王国にとり尽くされ、鉄鉱石の無くなった鉱山も閉山となった今ではこの有様じゃ」
哀愁漂うギルドマスターの様子をみて、私はなんともいえない気持ちになっていると、ララは怒っているような声をだした。
「ここでもそうなのか!」
「ララ?」
「ルーク王国はハースト帝国の威光をかざして、この大陸で好き勝手やっている。あたしが前にいたこの大陸の北の方も、町は廃れ、ゴーストタウンばかりだった」
「怒ってくれるのはありがたいが、こればかりはどうしようもできないからのう・・・」
「けど!」
「気持ちだけ受け取っておくぞ、獣人のお嬢さん。それより、クエストを探しにきたんじゃろ?」
ララはまだ納得いってなかったようだけど、明確に話を逸らされてしまってはしょうがない。けれど、本当にどうしようもできないのかな?
「これなんかどうじゃ?岩が主要な道路を塞いでいる大岩の撤去じゃ。先ほどギルドカードを見せてもらったが、Fランクじゃろう?危険も少なく駆け出しにはちょうどいいじゃろう。鉱山の一部が崩れて発生したこの岩のせいで、他の街からの物資の供給も効率が下げっておる。だが、この町には力仕事に向かない老人しかおらん。引き受けてくれるとありがたいんじゃが」
私はララと目を合わせた。ララはDランクだから、私に合わせることになってしまうけれど、うなづいた様子を見るに不満はなさそうだった。
「「わかりました。引き受けます」」
クエストを引き受けた私たちは、現場には翌日行くことにしてギルドマスターに紹介してもらったこの町唯一の宿に泊まった。
ーーーーーーーーーー
私たちがクエストで指示された場所に着くと、2〜3メートルほどの大きい岩が道の真ん中に横たわっていた。
「私のはじめてのクエストの敵はこの大岩ね!結構大きいうえに11個もあるのね」
「ああ、もろに道を塞いでいるな。あの廃鉱山から転がってきたらしいな。直接の被害がなかったのはよかった」
「おおいわ ころりん ずっどんどん♪」
「急にどうした?」
「ごめん、なんでもない」
警察の時は清く正しく高潔にしなくちゃ、という思いがあったけれど、この世界にきてからは気ままにやっていたからか、ついつい歌い出してしまったわ。けれど、私はこっちの方があってるかもしれないわね。魔力で身体強化ができるからか、こちらの世界にきてから体の調子もいいようですし!
「無駄に歌がうまいな。それでどうする?」
いけない、思考が飛んでたわ。
「素手で移動させるには重すぎるわよね?」
「そうだな。11個もあるし、身体強化をしても大変だ」
「そうよね。うーん・・・」
そこで私は名案を思いついた。
「ララ、ちょっと下がっていてくれない?」
「?わかった」
ララが下がったのを確認してから、私は魔法の準備をした。ダイナマイトの主成分はニトログリセリンだったわね。ニトログリセリンの性質は、、、
「こんな感じかな?」
私は魔法でニトログリセリンを模した液体を作り出した。
一応岩の破片が飛び散らないように周りに結界を張って、
「えいっ!」
液体を岩に勢いよくぶつけた。
ドカーン!
ずごおおおおおん!
「なんだ!?どうした!?」
ララの方を見ると、尻尾がぶわっとなって目を見開いていた。
「運ぶのは大変だから爆発させてみたわ!」
「見たらわかる!急にやるな!」
「ごめんごめん!まだ少し残っているからもう一発いくわね!」
「ちょっとまっ」
「えいっ!」
ドカーン!
ずごおおおおおん!
私は額を拭いながら。
「ふう。これで大岩はなくなったわね」
「・・・」
「どうしたのララ?」
「終わったか?」
「終わったわ」
「手早く終わらせるにはいい手段だったと理解はしている。けど、いきなり爆発はびっくりする」
そう言ったララからジト目を向けられた。
「ごめん」
岩の残骸をどうしようかと考えていたら、ララが何か見つけたようだ。
「ユッカ、岩の残骸に中に黄色い塊が混じっているぞ」
「ほんとだ」
この岩は鉱山から転げ落ちてきたのよね?鉄鉱石が取れたということは、他の金属もとれるの可能性がある?黄色だから黄銅鉱の可能性がある?
「ララ、ちょっと確認したいことができたわ。少し離れてくれる?」
勢いよく離れたララに、つい苦笑いがもれた。
「今度は爆発じゃないから安心して」
私は土魔法で作業台を作って、その上に黄色の鉱物を置いた。
「電気は通るかな?」
電撃魔法を発動すると、鉱物を通電した感覚があった。
「次は温度をあげてっと、」
黄銅鉱の引火は何度だっけ?とりあえず、熱していけばいいか。
火魔法で火種をつくり、風魔法で金属が燃焼した空気がとどまらないようにしつつ、鉱物の温度をあげていった。
そして、
「炎色反応は緑色ね!やっぱり銅かしらね!鉱物に詳しいプロに確認する必要はあるけど、閉山になった鉱山を再活用することもできるかもしれないわね!」
ユカは機転が効く。今のように、本来の岩の除去というクエストから、町の再興の可能性を見出した。決まったことを決められたとおりにしかできず、お役所仕事の警察とはこういう面でも合っていなかった。本人は気付いていないようだが。
「ララ!」
鉱山の再調査も必要だしまだ可能性の段階であるとはいえ、町の産業を立て直すことができるかもしれないことにテンションがあがり、勢いのままララに話しかけた。
「ユッカ。何属性使いこなせるんだ?領主館の時はよく見えていなかったけど、さっきの爆発魔法といい、土や電撃、風、火、それに結界もか、を使っている。しかもどれも無詠唱だ」
しかし、私の目に映ったのは困惑した顔のララだった。
「えっと・・・?」
「普通の人はそこまで使いこなせない」
普通の人という単語にドキッとした。私そういえば魔王だったわね。
「魔法はイメージで発動するから属性に縛られないんじゃないの?」
「理屈の上ではそうだ。けど、例えば、剣士や魔法師、僧侶、狩人などもなろうとしたら誰でもなれるだろう?それでも人によって向き不向きがある。それと同じように、使いこなせる魔法の属性もある程度決まってくる。あたしの場合は身体強化と風だな」
かーくんここまで説明してくれなかったじゃない。私がかーくんに直接会った時に、言いたいこと聞きたいことリストの項目が増えたわね。
ちなみに、かーくんがユカに対してこのことを伝えていなかったのは、思い込みと決めつけによりユカが視野を狭めないように、という配慮からだった。説明し忘れていたわけではない。おそらく。
「ララ、その、まずいかしら・・・?」
「少なくとも、目立ちはするな」
「そっか・・・」
「まぁ天才魔術師ってことにして、ちょっと気をつければ大丈夫だろう。それより、さっき嬉しそうにしていたけど、どうしたんだ?」
ユカだけじゃなくて、ララもわりとゆるく、魔法属性の話が深刻に扱われることはなかった。
「あっ、そうなの!この鉱山って閉山したって話じゃない?けど、銅が取れる可能性があるのよ!鉄鉱石の採掘しかしていなかったようだし、銅があればアイダホも再興できるかもしれないわ!まだ可能性だから、鉱山のプロに相談しないといけないけど」
ララもあの町のことは気がかりだったようで、笑顔で反応してくれた。
「ほんとか!早速戻って相談するぞ!」




