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3:可愛い子には旅をさせよ

ユカがこの世界に召喚されてから1ヶ月ほど経過した。

ユカとかーくんは魔法の練習や戦闘訓練をしていた。


「うむ。だいぶ魔法の腕も上がってきたな」

「私としてはまだまだ成長の余地があると思うけど」

「当たり前が。驕らずに精進せよ。剣もそれなりに使えるのだな」

「一応、全日本学生剣道大会の優勝者だから」


竹刀と本物の剣という違いはあるけど、本質的には同じ剣だし、すんなり使えたのよね。

かーくんが土魔法で作った全自動ゴーレムも倒せるようにもなったし。

魔法も魔法で、かーくんからは万能な素粒子を意のままに操るイメージで大体なんでもできる、と説明を受けた通り、大体なんでもできそう。


「お前が使っている魔法剣というのもいいな。さまざまな属性を剣に付与して、汎用性が高い。相手に合わせて機転をきかせた戦いもできるだろう」

「そんなに褒めてどうしたの?」

「事実を確認しただけだ」


かーくんが思案顔をした。

「そろそろ旅に出てみないか?」

「旅に?」

「冒険はワクワクしないか?この世界の様子も気にならないか?」

(せっかく異世界転移したし、この世界を見てまわりたい気持ちはあるわ。けど、魔王の私がそんなフラフラしてていいの?)


「魔王であることが気がかりか?1000年も待ったんだ。数年くらい変わらない」

「ほんとに?」

「ほんとだ。それにこの1ヶ月魔王らしいことは何一つとして行っていないだろう」

(痛いところついてくるわね!)


「それで、行くのか行かないのか?」


私は改めてかーくんに向き合った。

「私は自分の目でこの世界を見てみたいわ」

「わかった。魔王バレするのは今はまだ避けたい。鑑定魔法対策に偽装魔法をかける」

「そういうもの?偽装魔法は私も使えるけど?」

「まだ未熟であろう」

(そうだけどさ!そうなんだけどさっ!)


「まぁそう拗ねるな。お前の成長速度は早い。すぐに使いこなせるようになるだろう」


成長と言われたけど、この世界にきてから体の調子がいいのよね。


「はいはい。それじゃ、おねがいします」


かーくんが私に魔法をかけた。


「これで、お前は一般的なヒト族として認識されるだろう。名前もただのユカだ」

「苗字もないの?」

「この世界の一般市民は苗字がない者の方が多い。それと、苗字も名前も日本っぽいと目立つからな」


日本っぽい、と何か含みのある言い方に私は疑問をもったので質問しようとしたら、さきにかーくんが口をひらいた。


「我は同行できない。お前1人で行ってこい」

「えっ?」

「可愛い子には旅をさせろ、というのだろう?お前は認識が薄いようだが、我は神の使いだ。さすがに、1人相手にずっと一緒にはいられない」


半分以上、いやほぼ騙された形だったけれど、かーくんにはこの世界にきて色々と教わっていた。仲良くなってきたと思っていたのに・・・


「そう寂しそうな顔をするな」

「寂しくなんてない!」

「金輪際の別れというわけでもない。転移魔法が使えるようになったら、またここに戻ってこい。結界もお前は通過できるようにしておく」

「・・・わかったわ」


私は旅支度を済ませてから、かーくんに声をかけた。

「準備できたわ。それで、旅ってどこに行けばいいの?この付近、明らかに森林しかないけど」

「案じるな、我が転移魔法で送ってやろう」


かーくんはそういうないなや、転移魔法を発動した。


「ちょっと!?いきなり!?どこに飛ばすのよっ!」

「ついてからのお楽しみだ。では、また会おう。・・・自らの力に溺れるなよ」


最後の方はよく聞こえなかったけれど、私の体は浮遊感に包まれてそれどころじゃなかった。


ーーーーーーー


そして、見知らぬ土地に飛ばされた。


「・・・さて、ここはどこでしょう」


あのカラス。ほんとにいきなり転移させてきたわね。帰ったら覚えてなさい。


気持ちを切り替えて私は周りを観察することにした。


「まだ日が高いのは助かったわね。さっきまでいたところよりも気温が低い。それに白樺みたいな針葉樹が多い。もしかして、北の方に飛ばされたのかしら?バラスキャルブ大陸?」


かーくんにこの世界の基礎知識は教わっていた。バラスキャルブはこの世界にある大陸の名称だ。風の精霊がいるらしい。転移特典なのか、この世界の文字で書かれた地図もすんなり読めたのはよかった。


「街があれば直接聞いた方が早いわね。幸い向こうに道らしきものも見える」


私が歩を進めると、荷台付きの馬車を使用している10人くらいの人間の集団が、テントをはりキャンプをしていた。

ちらっとみると、リーダーらしき人が私に気付いて声をかけてきた。


「こんにちは。旅人さんですか?」


リーダーらしき人は、一瞬私の格好を確認した。腰に刺した剣に目が止まったようだけど、旅人と判断したようだ。


「ええそうよ。ただその、ちょっと道に迷ってしまって・・・。近くの街まではどうやって行けばいいかしら?」


ちょうどいいから私はこの人たちに道を聞くことにした。


「旅人同士時には助け合いは大事ですね。この先にモウグリという街があります。この道をまっすぐ行けば、日が暮れる前にはつけるでしょう」

「そうですか!ありがとうございます!何か御礼を・・・」

「お気になさらず。他の旅人さんが困っていたらその人に還元してあげてください」

(いい人ね!)


私は改めてお礼を伝えて、街の方に向かった。



夕方くらいに街についた。それなりに大きく、門もある。


「あのーすいません、門番さんですか?旅人なのですけれど、街にはこの門から入ればいいですか?」

「ああそうだ。みない顔だが、この街は初めてか?」

「はい、初めてです。事前に申請などが必要でしたか?」

「事前申請などは必要ないが、剣を持っているということは冒険者か?冒険者ギルドに登録してはいるか?」

「してません・・・」

「そうか・・・ギルドに登録していればギルド証が身分証として使えるのだが・・・。では、念の為あなたのことを鑑定魔法で調べてもいいか?名前と職業、犯罪歴だけしかみないから、必要以上に個人情報には触れないないから安心してくれ」

「はい」


門番の人が鑑定員?らしき人を呼んだ。

「ふむふむ。ユカ、14歳、人間、職業は根無し草・・・?、犯罪歴はなし。根無し草は初めてみたが、旅人みたいなものじゃろう。通しても問題なかろう」

(根無し草って!あのカラス!!!!)


鑑定員の結果をうけて、門番さんが私に声をかけてきた。


「ユカさん。門を通ってくれて問題ない。それと、剣が使えるなら冒険者登録しておいた方がなにかと得だと思う」

「わかりました」

(冒険者には興味があったのよね!ワクワクする!)


「それと、これがこの街の地図だ。冒険者ギルドの場所と、女性でも安心して泊まれる宿に印をつけておいた」

「いいんですか!重ね重ねありがとうございます!」


丁寧に頭を下げてお礼を言ったユカをみて、門番は思った。

冒険者の割には言葉遣いや態度がしっかりしていて教育を受けた印象がある。1人で行動していることから考えて、もしかしたら訳ありなのかもしれない。


ユカはというと、門番からもらった地図を参考にして宿についたようだ。地図のおかけで、ここがバラスキャルブ大陸のルーク王国の東の端の街であることもわかった。


「あのー、すいません。泊まりたいんですけど部屋はまだ空いていますか?」

「あら可愛らしいお嬢さんね。空いてるわよ」

宿の女将さん?が対応してくれた。宿代に関しては、かーくんにある程度もらっていたお小遣いで支払った。


「これが部屋の鍵よ。それにしてもこの街までは1人で来たの?」

「はい!剣も魔法も多少使えるので!それと、途中親切な旅人に道を教えてもらって助かりました」

「親切な旅人?」

「はい、荷台付きの馬車を所有している10人ほどの団体です」


宿の一階が受付になっており、酒場も併設されている。酒場で飲んでいたこの街の住民らしき男性が私の発言に反応した。


「荷台付きの馬車を所有している10人ほどの団体?」

「はい」

「狼少女にでも入れ知恵されたのか?」

「狼少女?」

「ああ。10人ほどの人間が、この街から少し離れたところで通行人を縛り上げて荷台付きの馬車に載せている、と主張する狼系の獣人がいるんだ。ただ、領主様直属のエリート警備兵様が現場に行ってもそんな人物にあったことが今まで一度もない。だから、狼少年になぞらえて狼少女って呼んでいるんだ」

「そうなんですか・・・?」

「その話が本当なら嬢ちゃんも縛り上げられて、今頃ここにいなくて奴隷にでもされているぞ。嬢ちゃん見た目もいいし、黒髪黒目は珍しいから高く売れそうだしな」


「ちょっとあんた!ここはあんたがよく行くようなそういう系の宿でも酒場でもないって言っているだろう!追い出すわよ!」

「あ〜悪い悪い」


男性を嗜めた女将さんの顔をみると困ったような顔をしている。私が高く売れるかどうかはさておき、おそらく今の話は本当なのだろう。


それにしても領主がいるのね。情報収集はしておこう。


「女将さん、領主ってどういう人なんですか?」

「ヒサノリ様といって、26歳の若さで最近領主になったけど表立ってはいい領主よ。ただ、黒い噂もあるわ」

(?何だか日本人っぽい名前ね)


「どんな噂ですか?」

「具体的な話はあまりないけど、闇市場に通じているとか?まぁ、権力者にはよくつく尾ひれよ」

「確かによくありそうな噂ですね」


それ以上の話はなかったので、私は食事を済ませてから、部屋に行き眠りについた。

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