25:ハースト帝国の帝都カジバシ
私、ララ、アイリスさんは、中央大陸ブレイズブルクにあるハースト帝国の帝都に来ている。
帝国の成り立ちの経緯や、裸の王様と呼ばれる現皇帝の能力はさておき、帝都がこの世界で一番栄えているのは事実なので、敵情視察という名の下の観光だった。
「うわ〜!綺麗な街並みですね」
「ユカちゃん、楽しそうね!」
「それはもう!私は、そのえーと、故郷!であまり海外旅行とか観光ができなかったので!」
帝都の往来で日本と口にだす言うわけにもいかず、とりあえず故郷って言っておいた。
この世界にきてから転移は何回かしたり、鉱山掘ったり、アマノハラで農業林業漁業をしたりしたけど、思えば観光はしてなかった。魔王領もほとんど森しかなかったし。
帝都の街並みは地球のヨーロッパに似ている。日本ではほとんど旅行に行ったことないから、写真でしか知らないけど、綺麗ね。
「それはよかったわ。建国祭の時期ならもっと賑わってるわ」
「建国祭ですか?」
「そうそう、ハースト帝国を建国を祝したお祭りね。特に再来年は、建国1000年だからすごい盛大にやるんじゃないかしら?」
アイリスさんに諸々のことを聞いていると、物珍しそうに街並みを見学していたララが、
「ユッカ、アイリス。あたしはあれが食べたい」
ララが指差す先には、アイスクリーム屋さんがあった。
「いいわよ。行きましょうか」
「私とララと違って、アイリスさん落ち着いてますね」
「帝都には何回かきてるからだと思うわ」
「そういうもんですか」
「そういうもんよ」
「それより、逸れないように手を繋ぐ?」
「あっはい。じゃなくて、大丈夫です」
「あらそう?残念ね、ふふ」
あまりに自然に言ってくるから、つい「はい」っていっちゃいそうになっちゃった。
アイスクリームを食べた後はしばらくぷらぷらした。
そして、ちょっと歩き疲れたので、カフェに入って席に着いた。
散策中に気になったことを聞いてみることにした。
「アイリスさん、ちょっと聞きたいんですけど、街中にあったあのポスターってなんだったんですか?」
「”三種の無能”とかのやつ?」
「それです」
「あれね・・・」
アイリスさんがちらっと周囲を確認して、防音魔法を発動した。
・・・えっ防音魔法?
「アイリスさん?」
「帝都だと、無能城で威張り散らしているあの裸の王様の犬がどこにいるかわからないから念を入れてよ」
「なるほど・・・」
「それで、あの”三種の無能”のポスターは、ポスターそのものははりかえられてるけど、ハースト帝国建国以来の年代物ね。三種というのは、魔族、エルフ族、ドワーフ族を指すわね。それぞれ、戦闘力、魔法、ものづくり、で優れている種族だわ。魔族についてはユカちゃんも体感したでしょう?」
「そうですね・・・。バティンさんもだいぶ強かったですし。それなのに無能なんですか?」
「ハースト帝国お得意のフェイクニュースみたいなものね。自分たちよりも優れたものがあると世の中にバレないように、魔族、エルフ族、ドワーフ族のイメージを下げることを目的にしていると思うわ」
「うわぁ・・・、ハースト帝国は自分たちが成長して能力を向上させようとはしないんですか・・・?」
「それをしてくれたらよかったのだけれど・・・実際のところは、ユカちゃんが召喚されるくらいに世界は劣化してるわね。ただ、おかげでユカちゃんに会えたのはよかったわ」
最後、アイリスさんがウィンクしながら言ってきた。
美人ってすごい、絵になる。
「なぁ、アイリス。”新三種の無能”はなんなんだ?」
「ララちゃん、あれは私も初めて見たわね。確か、人魚と、竜人が描かれてたかしら?」
「ああ」
「そうすると、国宝を失ったビショップ王国が権威を保つために、同じく水系の人魚の評判を落として、自分たちを上にしようとしたんじゃないかしら・・・?」
「なんだそれ。そんなことしても本質的に何も変わらないだろう」
「それもそうなんだけどね・・・」
「そういえば、オフィーリアたちは元気ですか?」
「ユカちゃん、人魚族はみんな元気そうだったわよ。ビショップ王国の国宝盗難の犯人の目星もついていないようだし、仮に何かあってもウィンディーネもいるから大丈夫だと思うわ」
アイリスさんは、たびたび人魚の里の様子を見にいっていた。
オフィーリアに懐かれてるからだと私は思ってる。
「アイリス、あのいけすかない竜人はなんでだ?」
「たぶんなんだけど、あのいけすかない竜人の皆様は最近頭角を現してきているでしょ?いけすかないから別にいいのだけど、ハースト帝国は出る杭は出る前に打とうとしてるんじゃないのかしら?」
「竜人はいけすかないけど、ハースト帝国もハースト帝国だな」
「ほんとよねー。共倒れしてくれないかしら」
・・・ララとアイリスさんの竜人への印象は相変わらず悪い。
西大陸ムスベルにいった時に何があったのか聞く勇気はないけど、とりあえず、今は竜人から離れた話題を振るのがいいことはわかる。
「”新三種の無能”のポスターって、あと一枠の絵はなんか抽象的ですよね。人みたいにも見えますけど・・・」
「ユカちゃん、その通りでおそらく人だと思うわ。特定の人たち、つまり革命軍じゃないかしら。帝国の一般市民から反感されるから、人と名指しできないけど、ハースト帝国にとっては革命軍はやっかいなのでしょうね」
「革命軍・・・、私は会ったことないですけど、どういう人たちなんですか?」
「そうねぇ、色々な人がいるわね。色々な背景がある人たちがよくバラバラにならないなぁと関心はするけど、リーダーが謎に包まれてるのよね」
「そうなんですか?」
「ええ。この前私の協力者のこと伝えたでしょう?彼でも、リーダーの素性は全く掴めていないみたいなの。実質副リーダーが取り仕切っているようね。けど、重要な作戦の指示やハースト帝国のガサ入れ?とかの情報は、リーダーからもたらされているようね。しかも、預言のようにリーダーの想定通りになるから、半ば神聖視されてるわ」
「予言ってありえるんですか?」
「私がいるし予言ではないと思うわ。けれど、確かな情報を得る手段をもっている、というのは確実ね」
「革命軍と今後どういう関係を築くはまだわからないですけど、場合によっては厄介ですね」
「そうね・・・」
「深く考えずに、”声なきに聞き、形なきに見る”を実行すればいいんじゃないか?」
「ララ、急にどうしたの?」
「この帝国圏のスローガンだ。ちょっと言ってみたかった。さっき配られてたこの本の表紙にも書かれている」
ララが手に持っている本の表紙には、”ハースト帝国現皇帝 クスノキ・ハースト名言集〜声なきに聞き、形なきに見る〜”と書かれていた。
ララが本のページをペラペラめくったかと思うと。
「”声なきに聞き、形なきに見る”は建国時から使いまわされてるから別として、これ、名言集じゃなくて迷言集だな。さすが、国家権力と税金を扱うに見合った能力を持ち合わせていない、裸の王様だな」
いつまでも防音魔法を使っているのも気付かれるかもしれないということで、私たちはその後たわいもない会話に移行し、帝都のカフェを楽しんだ。
帰り際、改めて街並みをみて感じた。
「この発展も見かけだけなのね」
と。




