22:水の精霊と正常化
人魚の里に戻ってきた私たちは、水の神器をオフィーリアさんに渡した。
封印を解くということで、その間私たちはのんびりと休んでいた。
アイリスさんにも聞きたいことがあったから、ちょうどいい。
「あの、アイリスさん」
「ユカちゃんどうしたの?」
「目立つ建物の上での口上は脚本になかったと思うのですけど・・・」
「ごめんなさい、迷惑だったかしら?」
「あっいえ、驚きはしましたけど、逃走自体はできましたし、困ってはいません。シンプルになんでかなぁと」
アイリスさんはちゃんとしている時はほんとにちゃんとしている。だから、ただのかっこづけやおふざけでもないだろうから、シンプルに理由が気になった。
「ハースト帝国の巫女は偽物でしょう?上辺だけの祭事、偽物の神託、巫女ちゃんのごっこ遊びしかしてないのに、権力に胡座をかいてるだけだわ。だから本物の聖女として見過ごせなくて、つい波紋を広げるような真似しちゃったのよね。あれだけの目撃者がいれば揉み消せないでしょう?」
やっちゃったテヘみたいな様子は普段のアイリスさんだけど、なんとなく、ほんとになんとく違和感を感じた。私たちの隣にいたララも何か感じたようで、
「アイリス。そうなのかもしれないけど、あの時警備兵が増えて怪我したり捕まったりしたらどうするつもりだったんだ。無理はするな」
「あらら?ララちゃん心配してくれるの?ありがとう〜」
「あたしは真剣に言ってるんだ。いいか、何かあるなら相談しろ」
一瞬アイリスさんの瞳が揺らいだ気がした。けど、目の錯覚だったのかと思うくらい一瞬で、今もいつも通りのアイリスさんが、
「妹の成長がお姉ちゃんは嬉しいわ・・・」
「はぁ、だから姉だとは思ってない」
その後、他愛もない会話をしていると、突然オフィーリアさんが向かった方向から膨大な魔力を感じた。
私たちは急いでオフィーリアがいるはずの部屋に向かうと、そこでは水の神器からかなりの魔力が溢れでていた。まるで、大嵐で荒れ狂っている海のど真ん中に放り込まれたような感覚に陥る。
私が両手をかざし、魔力を落ち着かせるために魔法で干渉しようとすると、
「ユカさん、気持ちは嬉しいけど、これは私が人魚の王女としてやらないといけないことだから」
「・・・オフィーリアさんわかったわ。けど、本当に危ないと思ったら介入するから」
「ありがとう」
そして、しばらくして大暴れしていた魔力が収まり、水の神器である杖に収束していった。
「やったーひと段落ー」
ちょっと間の抜けたオフィーリアさんの声と同じタイミングで、水の神器から美しい女性が姿を現した。
「ふわぁ、よく寝た〜」
・・・なんか、つい最近似たような光景を見た覚えがある。
アイリスさんに起こされた私とララみたいね・・・
「ここは?」
その女性は周りをキョロキョロして、オフィーリアさんに目を止めた。
「あなた人魚ね。なるほど、私を解放したのはあなた?」
「はい。あの、あなたは?」
「私はウンディーネ。あなたたちが水の精霊と呼ぶ存在だわ」
えっ!神器って精霊との友好の証とかそういうのじゃなくて、神器そのものに精霊がやどってるの?
オフィーリアさんも驚いた様子で、
「!これは失礼しました。水の精霊様と知らずに失礼な態度、」
「あっ、そういうの別にいいわよ?気楽に行きましょう」
ウンディーネは、私とアイリスさんとララを順番に見て、
「なにやら珍しい組み合わせね。そこのオオカミちゃんは、魔王と聖女のどちらの番犬なの?」
一目見ただけで見抜かれた?と内心驚いていた私とは裏腹に、アイリスさんは平常運転だった。
「私の妹です」
ララが無言で肘でこづいていた。
「ふふ、そのオオカミちゃんを妹だなんておもしろい冗談ね。その子、バラスキャルブの北部出身でしょう?」
「なんでわかった?」
ララが驚いて反応したけど、私も驚いた。そこまでわかるもの?
「自覚がないの?まぁそのうちわかるわよ。それより、この辺りの魔力がなんだか気持ち悪いわね。水が腐ってるような感じ」
そこで、オフィーリアさんが諸々の現状を説明した。
「そうなんだ。私が封印されてから1000年近く経ってたなんて・・・それはこれだけ気持ち悪くもなるわね。あの杖に封印されてる間に勝手に私の魔力が利用されてたみたいで、あまり魔力も残ってないけど、なんとかしましょうか」
・・・ビショップ王国が水の神器を使う時は、ウンディーネの魔力を勝手に使ってたってこと?もしかして、他の国の神器も?
「こっちの方かな?」
ウンディーネは空中をふわふわ浮きながら部屋からでて、私たちが初めてここにきたときにオフィーリアさんが浄化をしていた地底湖にきた。
なんとなく場所がわかるのかな?
「これはひどいわ・・・。今まで保っていたのは、人魚族が浄化していたからかしら?よくがんばりましたね」
ウンディーネさんの労いの言葉を受けて、オフィーリアさんは照れていた。
「さて、ちゃっちゃとやっちゃいましょうか。みんなもおいで!」
ウンディーネが魔力を放出すると、それに反応したのか、小さい精霊?がたくさん空間に現れた。
「あっウンディーネ!今まで何してたんだよー!」
「隠れんぼ?こんどはあたしとやろう!」
小さな精霊は思い思いに話しかけていた。
精霊って、初めてみたけど、こんなにいたのね。
「みんなごめんね〜ちょっと不覚をとって封印されちゃってたわ。これをなんとかするのを手伝ってくれない?」
「うわぁドブみたいー!」
「臭い臭いー!」
「まずいまずいー!」
「そうなのよね。じゃパパッと行きましょう!」
ウンディーネの号令とともに、小さな精霊たちも魔力を水に向けた。
あたりが優しい光に照らされる。
暖かい温水の中にいるような、居心地のよい感じね。
私が癒されていると、光が徐々におさまってきた。
「これでひとまずは大丈夫でしょう!しばらくは様子見だけど!」
ウンディーネは一仕事終えたような満足感を出しつつも、自分の体を確認して、オフィーリアさんに話しかけた。
「・・・それにしても魔力もすっからかんね。しばらくはここで回復しようと思うけど、人魚さんいいかしら?」
「はっはい!お好きなだけどうぞ!」
「じゃそうさせてもらうわ」
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それから数日後、このあたりの水の魔力も落ち着いて正常化したのを確認した私たちは、アマノハラの帰ることにした。
「みんな行っちゃうの?」
寂しそうにつぶやくオフィーリアさん。
これは、こう庇護欲を掻き立てられるような・・・
「また遊びにくるわよ。それまでここのことよろしくね?」
アイリスさんのその言葉に、オフィーリアさんが決意のこもった目でうなづいていた。
「ウンディーネ、ほんとに任せっちゃっていいの?」
「心配には及ばないわ、アイリス。この辺りの水も正常化して、私の力もだいぶ戻ってきてる。大船に乗った気でいなさいな!」
いまや、人魚の里には水の神器がある。本人?本精霊?からの申し出により、しばらくはその守護をやってるくれることになった。
別れの挨拶を交わし、私たちはアマノハラに転移した。




