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2:魔王になった

私は気持ちを落ち着かせて、いきなり異世界転移とか言い出した目の前のカラスに抗議をした。


「転職先が、異世界転移しての魔王だなんて聞いてないわ」

「言ってないからな。しかし、国や国民を守る職であることには間違いあるまい?こちらの世界では、高宮有花ではなく、ユカと名乗るのがいいだろう」

「・・・百歩譲ってここが本物の異世界としましょう。私を元の世界に戻してくれない?」

「自分の姿を確認してみろ」


そういってカラスはどこからともなく姿見を出現させた。


「なんで?私の体さらに小さくなってない?」

「転移のついでに14歳くらいの年齢に戻したぞ。女性は若くなると嬉しいのだろう?」

「どこでそんな偏った情報を得たのよ。時と場合によるわよ」

「そうか、勉強になる。黒髪黒目は元のままとはいえ、今の姿で元の世界に戻っても高宮有花としてはもう過ごせないな」

(・・・落ち着け私!)


「・・・元の世界では私はどういう扱いになっているの?」

「神隠しというか、行方不明ということにされるだろうな。懲戒免職のこともあり、自殺したことになるやもしれん」


(天涯孤独かと確認したのはそのためか!友人とも最近は連絡とってなかったけど、それでも・・・)


私は思わずカラスを睨んだ。


「まぁ落ち着け。我のことは嫌いでも、この世界は嫌いにならないください」

「・・・」

「こう言えば日本人は喜ぶのではないのか?」

「時と場合によるし、たぶん人によるわね。それと情報が古い」

「そうか。勉強になる。話を戻して、事情を説明させてほしい」

「はぁ・・・聞くだけは聞いてあげる」


この状況でもユカはなんやかんや話を聞くことにしたようだ。根の性格がまぁいいのだろう。いきなり常識はずれのことに巻き込まれ若干感覚が麻痺しているとうこともありそうではあるが。


ユカが聞く体勢になったのを確認し、カラスが説明を始めた。


「結論から言うと、この世界は破滅に向かっている。それを止めてほしい」

「ごめん、話が大きすぎてわからない」

「それもそうか。1000年ほど前に、異世界から召喚されたとされる勇者によって魔王が消された。その勇者は、魔王軍に勝利し世界に平和をもたらした功績を根拠にハースト帝国という名の帝国を樹立した。今ではその勇者の子孫とされるものたちが、世界の半分ほどを統治下に置いている」

(世界の半分というのもすごいけれど、1000年?)


「しかし、統治の仕方に問題がある。ハースト帝国の権威を守ることを最優先にするあまり、自分たちよりも優れた技術や魔法などが世に出るのを影で止めていた。出る杭は出る前に打つ、というイメージで、地球でいうところの産業革命を意図的に起こさないようにしている形だな。そのせいで、この世界は進歩していないどころか、劣化している」

「待って。今魔法って言った?」

「ああ。この世界には魔法がある。先ほどの世界を跨いだ転移や、姿見を出現させたのも魔法だ」

「急にファンタジーね」

「元の世界にはなかったからな」

「色々と突っ込みたいところはあるけれど、私も使えるの?」


ユカの様子は心なしかワクワクしているようだ。やはり、地球でも映画や漫画、ゲームなどに出てくる魔法には心惹かれるものがあるらしい。


「魔王に任命したくらいだぞ。使えるに決まっている」

「そう!試してもいい?」

「はしゃぐのはわかるが、まずは説明を続けさせてくれ」


ユカは目に見えてテンションが下がったようだが、カラスの説明をさきに聞くことにしたようだ。


「今いるアルブヘイムを含め、世界には6つの大陸がある。それぞれの大陸には、火、水、風、土、光、闇の魔法属性の精霊と交流を交わし、それぞれの属性を担当する種族がいたが、ハースト帝国は彼らを追いやってしまった。それにより、この世界の魔法のバランスや魔力の流れが崩れ、世界の衰退がかなり末期にきてしまっている」

「ハースト帝国を腫瘍とする末期癌のような感じ?」

「理解が早くて助かる」

「それで、私を魔王にして何をさせたいの?人類殲滅とかは嫌よ」

「世界の癌であるハースト帝国を打倒し、この世界の魔力バランスを取り戻してほしい。そうしなければこの世界が滅ぶ」


ユカは少し考えてから、自身なさげに答えた。

「・・・一般人の私には荷が重いわ」

「我が保証するが、魔王としてお前ほどの適任者は他にいない」


はっきりと自信をもって断言するカラスを見て、私は疑問に思った。


「なんでそこまで言い切れるの?」

「そんなこと、神の使いでもある我が我だからに決まっておろう!」

(神の使いとか言っているけれど、つまりはカラスの直感ってこと?)


「疑う気持ちもわかるが、それよりも今はっきりとわかるのは、少なくともこの大陸で闇を担当していた魔族はこのままだと確実に滅ぶ」


魔族は確実に滅ぶ、と聞いた時に私の中で何かが反応した気がした。


「どういうこと?」

「先ほど、各大陸に精霊と交流を交わす種族がいると言ったが、我々が今いるアルブヘイムは闇の精霊がいて、魔族の担当だった。この世界から魔王がいなくなってからかなりの月日が経っている」

「・・・」

「ハースト帝国の打倒は一度棚に上げても、魔王は頼みたい」


正直ただの一般人だった私には荷が重いし、この世界の中でなんとかしてほしいと思うけれど、なんとなく、見捨てることができない。


「はぁ、しょうがないわね。わかったわよ。それで、魔王にはどうやってなるの?」


カラスの顔がなんとなくホッとしたような気がした。私にはカラスの表情の違いなんてわからないからほんとになんとなくだけど。


「すでに魔王だぞ」

「はっ?」

「魔王として異世界転移したんだ。もう魔王だ」


私は思わずカラスを睨んだ。


「まぁ落ち着け。友好的に同意したとはいえ悪かった。代わりと言ってはなんだが、魔法を使えるようにしてやる」

「えーと?」

「この付近に満ちている魔力を感じ取れないだろう?」

「魔力がすでにこのあたりにあるの?」

「ああ、この世界に満ちている。少しの間その場で動かないでくれ」


カラスが何か呪文を唱えると、私の体が黒い光に包まれた。


「周りに何か感じるけどこれが魔力?」

「そうだ。地球がある世界はそもそも魔力がほとんどないから感覚が鈍っていたのだろうが、今お前の力を活性化した」


カラスがふと空を見上げたので、私もつられて見上げた。夜空にはちょうど黒いホウキ星が流れ、月が2つ見えた。月が2つってほんとに異世界なのね。


「魔力も感じられるようになったところで、どうしたそんなにニヤニヤして」

「べべつに!これが魔力かー!って思っただけよ!」

「そうか。右手に宿りし封印されし力の目覚めに感動したのか。いわゆる厨二病ってやつか。いいと思うぞ」

「そこまでじゃない!もう!うるさい!!」

「まぁ落ち着け。早速魔法の練習をするか?火、水、風、土、光、闇がメジャーだが、他にも色々な魔法があるぞ。毒魔法とか」

「毒って・・・夜になってしまったみたいだし、明日にしない?あそこの家で休めるの?」

「休めるぞ。そのために用意しておいたからな」


私は家に向かって歩き始めた。カラスも隣で飛んでいる。

「そういえばあなた名前ってあるの?」

「日本では八咫烏(やたがらす)と呼ばれていた」

「そう。それじゃ、かーくんって呼ぶね」

「もっと威厳のある呼び方を」

「かわいいからいいじゃない。こっちは勝手に異世界に連れてこられたのよ、それに比べたら些細なことでしょ」

「む・・・。そうか」

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