19:南西大陸ノアトンと人魚族
「ユカちゃん!ララちゃん!起きてる?」
アイダホからアマノハラに帰ってきて数日後、家で寝ているところをアイリスさんに起こされた。
「アイリスさん、どうしたんですか?あれ、今って朝ですよね・・・?」
「アイリスが朝から起きてるなんてどうしたんだ・・・」
私もまだ眠いし、ララも眠そうにしている。
「んんっ!2人が私のことをどう思っているかなんとなく察したけど、今はそれどころじゃないの」
アイリスさんは急いでいるようだけど、まだ眠いのよね・・・
「マグロの大群が島の近くに急に現れたとかですか?美味しいですもんね。ふわぁ」
「あたしは、カツオがいいな・・・ふわぁ」
「ユカちゃん、ララちゃん。あとでちょっとお話しをしましょう。それよりも、魔力災害が起きたわ」
「リョクサイガ?それって美味しいんですか?」
「魔力災害だと!?それを早く言え!」
ララの雰囲気が急に変わった。
えっ魔力災害?私も目が覚めた。
「魔力災害ですか?場所は?内容は?」
「2人とも、やっと起きてくれたわね。場所は南西大陸ノアトン、内容は水質汚染。あの大陸の付近にはこの世界の主要な海洋の流れが合流して分かれていく中心のような場所があるの。今はまだ被害が広がってないけど、このままだと世界中に水質汚染が広がりかねないわ」
「何か対策はあるんですか?」
「程度にもよるわね。魔力汚染は私の聖女の力でも浄化できるけど、最悪、水の神器つまりビショップ王国の国宝が必要になるわ」
「国宝だと!?どうするんだ?」
ララが驚くのも無理はない。私もビショップ王国が管理している国宝が必要と聞いて、驚いた。国宝使わせてくれるかな・・・?無理だよね・・・
「まだ必要になると決まったわけじゃないわ。現地に行って確認しようと思うのだけど、2人ともついてきてくれる?」
「もちろんです!」
「ああ!」
私とララは素早く身支度をして、アマノハラの超長距離転移装置を使うことにした。
南西大陸は、ここから中央大陸を超え、さらに海峡を越えなければならずかなり遠い。ララが転移魔法を使えないのと、現地で何があるかわからないから、装置を使って魔力を節約することにした。
「2人ともいい?」
アイリスさんが私とララの手を握ってくる。普段のスキンシップがあるからか、出会った最初の頃に比べて驚かなくなった。良いのか悪いのかわからないけど・・・
「はい」「ああ」
「それじゃいくわね」
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浮遊感に包まれたあと、再び地面に足がついたような感覚をうけた。
「さぁついたわ」
「アイリスさん、ここはどこですか?」
私たちの目の前には、大海原がある。
右手の方には崖があり、なにやら洞窟のようなものが見える。
冒険心がくすぐられるけど、たぶん今じゃない。
左手には海に流れ込んでいる川があり、川の向こうには木々が生い茂っている。
「うーん、転移装置で魔力が乱れてるところを目標にしたから、汚染の原因の近くのはずなんだけど、目の前の海って綺麗よね?」
「はい。そうですね・・・」
「とりあえず、あたりを歩いてみる?」
「そうしましょう」
「アイリス、ところでなんで魔力災害が起きたとわかったんだ?」
「ララちゃん、それはね、革命軍にいった里の人からの情報よ。神聖公国アイギスの情報部も兼任してたからそれで知ったのかもしれないわね」
「そんな人がいたのか?あたしたちに情報を流してるっことは、スパイみたいなものか?」
「そんなところね。さすがに、アマノハラの大量離脱は放って置けないから、内部に入り込んだ人がいるのよ」
「バレたら危なくないのか?」
「二重スパイってことにしてるらしいわ。仮にバレても、敵はハースト帝国だけだから、危害まで加えないと思うわ。けど、その前に里に逃げ帰ってやる言ってたわね」
「それはなんというか、たくましいな」
「ほんとよねー!」
アイリスさんがのんきに相槌を打っていると、周囲の雰囲気が変わった。2人も感じ取ったみたいで、臨戦体制に入っている。
「先ほどのおかしな魔力の流れはお前らが原因か。ここはお前ら人間が来る場所ではない」
私たちの周りの海や川の中に、上半身が人間下半身に尾ひれがある人?たちが武器をもってこちらを睨んでいた。というか、人魚じゃない!
チラッと3人でアイコンタクトして、一番年長に見えるアイリスさんが代表して答えた。
「縄張りを荒らしたのなら謝るわ。侵略の意思はないの。私たちはただ、このあたりに調査にきただけよ」
「調査だと!お前ら人間は前回もそう言って、今度は姫様を」
「おい!」
姫様?
今にも襲いかかってきそうな雰囲気だった人魚の人?、なんて呼べばいいのかしら?、とりあえずその人魚を別の人魚が止めてくれた。
アイリスさんの目線をうけて、私とララは武器をおろした。
「私はアイリスです。このふたりはユカとララ。前回の人間とのことですが、私たちとは一切関係がありません。私たちは、水質汚染の調査にきました」
「水質汚染!?いや、調査だと主張するのを信じろと?」
水質汚染の部分に反応した?何かしら知っている?
アイリスさんも同じ考えをもったようで、
「水質汚染について何か知ってたら教えてくれないかしら?水の神器は必要?」
「お前らに言うわけないだろう!」
アイリスさんの質問に、さっき襲いかかってきそうな雰囲気だった人魚が吠え気味に答えていた。
あの言い方は、知ってるって自ら言ってるようなものだけど、この様子だと話してくれそうにないかもしれない・・・
私たちがどうするか考えていると、襲いかかりそうな人魚を止めてくれた人魚が私のことを値踏みするように見てきた。
なんか失礼ね・・・
「先ほどの不思議な魔力といい、そちらの黒髪黒目の女の子は黒き英雄か?」
アイリスさんが私をみてうなづいた。
「はい。その認識で間違いありません。私はこの世界の予言で黒き英雄とされる者です。水の精霊と関わりのある人魚族の方と交流をもちたいです」
人魚たちは何やら相談したと思ったら、
「黒き英雄である証拠はあるか?」
「紋章や身分証などはないのですけど、黒き英雄は魔に長けていると伝わっているのですよね?」
私は浮遊魔法で空中に浮き、海に向かい合った。
そして、片腕を振り、無詠唱で数キロにわたって海を割った。
さながら気分はモーゼ!
「これでどうですか?もっと必要ですか?」
人魚たちは絶句していた。
比較的早く再起動した人魚が、
「・・・十分だ。こんな天変地異は普通起こせない。黒き英雄よ、我らの里で話の続きをしよう」
私のことをドン引きした目で見てるけど、そんなに引かなくても・・・




