15:隠れ里アマノハラ
「じゃ、ユカちゃんとララちゃんはこの家を使ってね」
アイリスさんに案内されて、私とララはアマノハラで使わせてもらえる家に着いた。
「はい、ありがとうございます」
「いえいえいいわよ!同盟を結んだ仲じゃない!いっそのこと一緒に」
「いや、あたしはユッカと2人でここに住む。それに、さっき寄ったアイリスの家は樽からアルコールの匂いがした」
(アイリスさん、まさかの密造していたの・・・?)
「ララちゃん、ここはねアマノハラなの。どこの国にも属してないからどこの国の法律も関係ないの」
いい笑顔で答えるアイリスさんは続けて、
「そして、アマノハラの規則にはお酒を作ってはいけない、というのはないわ」
ララは若干呆れた顔をしている。
「・・・そうか。それより中に入ってもいいか?」
「ちょっと待っててね〜」
アイリスさんはそういうと、家のドアをあけて魔法を使って掃除をしはじめた。私はララに聞きたいことがあった。
「私は魔王だから同盟はしょうがないとして、ララもよかったの?ハースト帝国と戦う可能性もあるわよ」
「ああ問題ない。あたしも無関係ではない」
「どういうこと?」
「あたしはバラスキャルブ大陸の北部の出身だけど、生まれた村は暴風の魔力災害で滅んだんだ。さっきの話を聞いて、この世界の魔力のバランスを崩した元凶のハースト帝国とは戦う理由がある」
「村が滅んだ・・・」
「そんなに心配そうな顔するな。村のことは引きずっていない」
そうだとしても、、、なにかフォローしようとしたところで、アイリスさんが声をかけてきた。
「2人とも〜!掃除終わったわ」
若干のドヤ顔をしているアイリスさんの方を向くと、家が短時間で綺麗になっていた。手際がいい!
「すごい!アイリスさんって生活魔法もスペシャリストなんですね!」
「里の住民もほとんどいなくなっちゃったから、自分のことは自分でやってたの」
「そういえば、ここに来る途中ほとんど人に会わなかったな。どうしたんだ?」
ララの質問にアイリスさんが悩ましげに答えた。
「うーん、数年前にほとんどの人たちが打倒ハースト帝国をかかげる革命軍に合流しちゃったのよね」
「革命軍!?都市伝説だとばかり思っていたけど、実在していたのか?」
「ハースト帝国は隠そうとしているみたいだけど、実在しているのよ。それに、革命軍は神聖公国アイギスとも繋がりがあるわ」
「そうだったのか・・・」
ララは驚いているけど、私はこの世界のことをあまり知らないので驚きよりも別の心配があった。
「ここを去った人たちからアマノハラの情報が漏れることはありますか?」
「ないと考えていいわね。彼らがここを去る前に誓約魔法を結んでる上に、里の結界も張り直したからここへの転移魔法も無効化するわ。それに、ここを去ったとはいえ、彼らも私たちも敵はハースト帝国ですもの」
アイリスさんは少し憂いを帯びて、
「ただ、いつ現れるかわからない英雄を待つよりも、自分たちでどうにかしようとして出ていった、というだけよ」
「アイリスさん・・・」
「そんな顔しないでユカちゃん。私は待っててよかったと思ってるわ。それより、家の中に入って休みましょう」
私たちが家の中に入るとアイリスさんが、
「お昼ご飯まだよね?作るから少し待ってて」
「肉か?」
期待がこもった目でララがアイリスさんに聞いた。
「今はあまりお肉がないのよね・・・」
アイリスさんの答えに、ララはしょんぼりしている。
「ただ、新鮮な魚は大量にあるから海鮮料理にしましょう!」
ララの表情が明るくなった。
その様子は、完全に胃袋を掴まれている。
・・・私も人のことは言えないけど。
「海で獲ったんですか?湖ですか?」
このアマノハラは、中央大陸ブレイズブルグと東大陸アルブヘイムの間に広がる大きな海洋にあるらしい。さっきちらっと見せてもらったけど、断崖絶壁の孤島で周りが一面海だった。しかも、潮の流れも早く、結構海が荒れている海域らしい。孤島といってもそこまで小さいわけでもなく、湖もあったので、海でも湖でも魚がとれる。
ちなみに、アマノハラの場所を聞いたララが驚いていた。バラスキャルブから直接転移してきたけど、長距離の転移魔法は失われた魔法だったらしい。世界の魔法技術の劣化を感じる。
「今日のは海で獲ったわ!といっても、私じゃなくてゴーレムがね」
「ゴーレムがいるんですか?」
「あとで案内しようと思ってたのだけど、修練場に半自動ゴーレム製造機があるわ。それを使って、漁業の動きを覚えせたゴーレムを作ってるの。本当は戦闘訓練の相手のレパートリーを増やすために人の動きをある程度再現できるような機能なのだけど、里の住人が減っちゃったから、人手不足対策で農業ゴーレムや酪農ゴーレム、林業ゴーレムもいるわね」
「すごい便利ですね!」
ゴーレムというとかーくんも作ってたわね。その系統の魔法ならありえるのかな?
「そうでしょう!」
しばらくして、お昼ご飯が出来上がったので、アイリスさんに感謝しつつ昼食にした。
ご飯を食べながら、アイリスさんが私に、
「そういえばユカちゃんって、ハースト帝国一派の国々のことはどれくらい知っているの?」
「ある程度は聞いていると思います。ハースト帝国の本国が中央大陸ブレイズブルグの西部にあって皇帝はクスノキ、西大陸ムスベルにあるクイーン王国とトシエ女王、北大陸バラスキャルブにあるルーク王国とヨシミ国王、南大陸スリュムにあるナイト王国ミウラ国王、南西大陸ノアトンにあるビショップ王国とミキコ女王でしたっけ?」
地球のチェスの駒になぞらえているらしい。安直だけど、覚えやすくてよかった。魔王領のことはポーンと呼んでいるらしい。帝国の建国時に、魔王との戦争に勝ったとフェイクニュースを流したから、属国扱いらしい。実際は、魔王領にびびってて交流は皆無らしいけど。
それと、国王女王の名前は日本っぽくて覚えやすかった。
「あってるわ!」
アイリスさんは家庭教師の先生のように褒めてくれた。
「はい!ハースト帝国が光の神器、クイーン王国が火の神器、ルーク王国が風の神器、ビショップ王国が水の神器、ナイト王国が土の神器を隠してしまって、それぞれの属性を司る精霊と交流がもてなくなったのが、魔力災害の原因ですよね」
「そうそう!」
アイリスさんが頭を撫でながら褒めてくれた。
うん、こういうのも悪くない!
「火は竜人族が、風はエルフ族が、水は人魚族が、土はドワーフ族が困ってるんですよね!」
「しっかり勉強してるわね!えらいえらい!」
アイリスさんはハグしてきた。さすがにちょっとあれなので、席を移動した。
酔ってる?
「酔ってます?」
「ちょっと飲んだわ」
「そうですか・・・」
私はララと一緒に、さらに席を離した。
アイリスさんの酔いが覚めてから、午後は里の案内の続きをしてもらい、夜になった。
「ユカちゃん」
「なんでしょうか。アイリスさん」
「この里にはとっておきの場所があるの」
アイリスさんはいたずらっぽい笑みをしつつ、もったいぶった言い方をしている。
こういう時は、本当に何かある可能性が高い!期待していいかもしれない!
「なんですか?」
「今日は晴れてよかったわ。満点の星空を眺めながら入る露天風呂はいかが?」
「露天風呂!!」
「なんだそれは?」
テンションがかなりあがっている私とは対照的に、冷静なララ。
「ララちゃん、勇者様の故郷の文化よ。温かいお湯でのんびり湯浴みするの。アマノハラの候補地探しの時に、勇者様が温泉の源泉があることを条件にしたそうよ」
「そうか。お湯なら水浴びよりはいいな」
ふーん、という感じの様子のララ。
早く温泉に連れていってびっくりさせたいわね!勇者には感謝!
「そういえば、勇者がアマノハラの設立から関わっているなら、アイリスさんは勇者の血も引いているんですか?」
聖女と勇者ってだいたい結ばれるわよね。
「引いてないわね。それが、勇者様ご自身の記録ってあまり残ってなくてアマノハラができてから少しして、行方をくらませてしまったらしいの」
「・・・そうだったんですね。行方不明の勇者のことは気になりますね」
「それはそうだけど、わからないものはわからないから今は温泉を楽しみましょう?」
ーーーーーーーー
「これが温泉か!温かいし、いい感じだし!とろけるな!」
ララははしゃいでいる。とても気に入ったようだ。
「ふははははは、我が日本が誇る偉大な文化、温泉をとくと堪能するがよい!」
私もテンションが上がって、魔王っぽくなってしまった。
実際、この温泉すごくいい。日本とは違うから湯浴み着はきているけど、湯温ごとにわかれてるから、熱めの湯に入ったり、ぬるめの湯に入ったりできる。とろっとした透明な泉質もあれば、乳白色の泉質もあったり、色々なタイプを楽しめる。
しかも全部源泉掛け流し。
アイリスさんはぬるめの薬湯でのんびりしている。
改めてララをみると、先ほどの元気がなくなってきたようだった。
のぼせたのかな?
アイリスさんもララの様子に気付いて、
「ララちゃん大丈夫?初めての温泉でのぼせてしまったのかしら?休憩できる場所まで連れて行くわ」
アイリスさんは回復魔法を使いながらララをお姫様抱っこして着替え場兼休憩所に向かった。普段からかったりしているアイリスさんもこういう時はしっかりしていて、ララもそれを理解しているのか体を預けている。
私はぬるめの温泉に入って満点の星空を眺めながらボーっとしていると、後ろから声をかけられた。
「ララちゃんはすずしいところに連れていって水を飲ませたわ」
「ありがとうござい」
私は振り返りながら答えようとして、途中で言葉を失った。
目の前には予想通り声の主のアイリスさんがいる。
ただし、湯浴み着を脱いで、マイクロビキニのようなものをつけているのは、全然予想通りじゃなかった。
ただでさえ大きくて柔らかそうな2つの禁断の果実が、ことさら強調されている。
「聖女である私と私の体はあなたと共に」
アイリスさんそう言うと、四つん這いになり、大きな果実をさらに扇情的に強調している。グラビアのポーズみたいだ。
「ア、ア、アイリスさん!?どうしたんですか!?酔ってるんですか?」
「えっ酔ってないわよ?酔って温泉に入るのは危ないのでしょ?」
それはそうだけど!今はそこじゃない。
片手をあげて、もう片方の手で肘をおさえながら脇を強調するようなポーズに変わってるし、色々とまずい!破壊力がまずい!腰も細くてくびれも綺麗で・・・じゃなくて!
「アイリスさん!本当にどうしたんですかっ!?」
「そんなに慌ててどうしたの?」
「逆になんでアイリスさんは冷静なんですかっ!」
「あれ?勇者様から、将来召喚されるであろう勇者様の同郷の人とより親密になれる方法として伝わっていたのだけど・・・この日の為に練習したのよ?」
ニコッと微笑むアイリスさんはめちゃくちゃ美人だけど、私は思わず天を仰いだ。
おい、勇者。
・・・いえ、本当に勇者?里の誰かが黒き英雄の手綱を握る為にどこかで変えた可能性もある?
それよりも今は、
「そのですね、セリフとポーズの練習は誰かに見せましたか?」
「いいえ?鏡を相手に1人ね」
(それはよかった!こんなの見せたらアイリスさんの色香に惑わされた人たちで争いが起こる!)
「いいですか。アイリスさん。落ち着いて聞いてください」
「うん」
私の雰囲気に合わせたのか、アイリスさんはさっきまでの扇情的な雰囲気ではなく、真面目な雰囲気になった。
「今のアイリスさんは、性的に相手を誘惑していると捉えられかねません。私が女だからよかったですけど、いえ、もしかして女でも、この状況だと襲う可能性があります。侘び寂びのように、親密になれる、の意味が間違って伝わっていたのだと思います」
「・・・そう。そうだったのね。いきなりこんなことしてごめんなさいね」
アイリスさんは、普段の声色でそう言い、着替え場に戻っていった。
アイリスさんは普段通り振る舞っていたけれど、耳は真っ赤になっていた。
私は、この件は触れないことにしようと心に決めた。




