14:この世界について
アイリスは、ユカとララをつれてアマノハラの里長の家に向い、敬礼のような仕草をして里長に話しかけた。
「里長様、黒き英雄とその愉快な仲間を連れてきました!」
「誰が愉快な仲間だ!ララだ!」
「ララちゃん、いいツッコミね!」
「はぁ。それより、ユッカを紹介するんだろう?」
「ララちゃん、耳が後ろに倒れてて緊張しているようだったからちょっとほぐそうと思っただけなのに・・・」
「耳はたまたまだ!そういうのいいからはやく話を進めろ!ユッカと里長とやらが困った顔しているだろう!」
ギャーギャー言っているララとアイリスを横目に、ユカと里長は挨拶をすることにしたようだ。
「・・・初めまして。ユカです。よろしくお願いします」
「初めまして。アマノハラの里長のクサナギです。・・・うちのアイリスがすまんのう」
私がぺこっと頭を下げると、クサナギさんもぺこっと頭を下げた。なんか、建物や名前からして日本を思い出す。
「あの2人がにぎやかなのは慣れましたので・・・」
「そう言ってくれてありがたい。ああ見えて、有能な聖女なんだがのう・・・」
「聖女?」
「アイリスから聞いておらんか?」
「神聖公国アイギスのシスターとしか聞いてませんでした。そういえば、実家と聞いて神聖公国のことだと思っていたのですけど・・・」
「そうじゃったか。その辺りも含めて説明するかのう」
「お願いします」
「ユカさん、まずは座ったらどうじゃ?あの2人は一旦放っておこうとするかのう」
そういうと、クサナギさんは座布団とお茶を用意してくれた。ほんとに日本っぽい。
「ありがとうございます。私の故郷を思い出します」
「日本かい?」
クサナギさんの口から日本という単語が出てくるとは思わず驚いた。
異世界転移したのは知っていると思っていたけど、
「日本を知っているんですか!?」
「本物の勇者様の故郷と伝わっておる」
「本物の勇者様?」
「おや?フギン様から聞いておらんかのう?」
「・・・聞いてません」
(ちょっと!かーくん!どういうことよ!)
「里長様〜、ユカちゃんは黒き英雄のことも聞いていないそうよ」
さっきまでララと戯れていたアイリスさんも会話に加わってきた。
ララは疲れたのか、聞く専モードに入っている。
「そのなのかい?」
「はい、先ほどアイリスさんに言われて初めて知りました」
クサナギさんは少し考えるそぶりを見せてから。
「なるほどのう。まずは、ワシらに伝わっていることを説明しようかのう」
「私がユカちゃんのことを黒き英雄と言ったのは、1000年前の予言が元になってるのね」
「『黒きホウキ星が天に落ちる時、魔に長けた黒き英雄が現れ偽りを正さん』という予言じゃ」
「そして、『偽りを正さん』の部分なんだけど、ユカちゃんはハースト帝国の成り立ちは聞いている?」
「かーくんからは、『1000年ほど前に、異世界から召喚されたとされる勇者によって魔王が消された。その勇者は、魔王軍に勝利し世界に平和をもたらした功績を根拠にハースト帝国という名の帝国を樹立した。今ではその勇者の子孫とされるものたちが、世界の半分ほどを統治下に置いている』と聞いてます」
かーくんと呼んだときに、クサナギさんとアイリスさんがちょっと微妙な顔をしていたけど、不思議とかーくんの言葉が一言一句思い出せてよかった!
「そうなのね・・・。今はハースト歴997年だから正確には997年前に、異世界つまりユカちゃんのいた世界から勇者様が召喚されたのは事実なのだけど、ハースト帝国が建国の根拠にした勇者とは別人なの」
「はい?」
「ハースト帝国の前身はハースト王国と言ってな、当時はフレデリカという女王が統治しておった。そして、カワジという名の偽物の勇者を仕立て上げて世界平和の功績を作り上げたのじゃよ。自分たちが支援していたカワジへの報酬としてハースト王国の王位をカワジに授け、帝国になったという筋書きじゃな。実権はフレデリカ女王が握っていたようじゃが、勇者を迎え入れたことと、世界平和をもたらした功績を風潮し、影響力を強めていったようじゃ」
とりあえずフェイクニュースで権力をにぎったと認識すればいいかな。フェイクニュースで偽物を本物のように言っていたのね。
かーくんが、”異世界から召喚されたとされる勇者”と言ったのは、こういうことだったのね。最初からそう教えてくれてもよかったのに・・・
「そして、異世界から召喚された本物の勇者様が、この里アマノハラの設立に関わっているのよ」
「だからところどころ日本っぽいんですね」
「そうじゃ。勇者様は神聖公国アイギスと手を組んでハースト王国に抵抗したそうじゃ。じゃが、ハースト王国が流した偽の情報は世界中に広がり、勢いづいておったから途中で断念したようじゃのう。それで、真実の歴史を伝えるために、アイギスの一部と、神の使い様と関われる聖女とともに身を隠すことにしたそうじゃ」
ここでララも会話に入ってきて疑問を口にした。
「神と関わりをもてるのはハースト帝国の巫女じゃないのか?巫女と聖女は違うのか?」
この質問に、アイリスさんがとても綺麗で、とても良い笑顔で答えた。
「あれは偽物よ。その証拠に、ハースト帝国の巫女は神託を受けられないわ。それと聖魔法も使えないわね。私がここへの転移前に傷を治すのにつかったのが本物の聖魔法よ」
「なっ!?本当か!?」
「本当よ。アイギスの聖女がハースト王国と手を組むのを拒否したらしいのよ。それで、ハースト王国は帝国になる際に、自分たちの妥当性を作り出すために、勇者だけじゃなくて聖女あらため巫女もしたてあげたの」
「・・・正直、いきなり言われて信じられない。だけど、ユッカを見つけたから、アイリスが神託をうけたということは信憑性がある。仮にその話が正しいとして、なんで公開しないんだ?」
「偽物は所詮偽物でしかない。偽物で虎の威を借る狐みたいなことしかできない。それでも、ハースト帝国の権威が今の世では強いのよ。どんなに今の皇帝であるクスノキが裸の王様で無能だとしても、組織としてはね。国の成り立ちを鵜呑みにせずにちゃんと自分で確認しようとする人もほとんどいないでしょ?だから、私たちは時期を見ていたの。この里の結界の中は時間の流れが遅いとはいえ、だいぶ月日がたっちゃったみたいだけど」
そこまでいうと、アイリスさんは私の方を見てきた。
「そういった偽りを正すのが黒き英雄、つまり私ということですか?」
「そういうことになるわね。帝国の建国だけなら問題ないのだけど、ハースト帝国のせいで世界が進歩せずに劣化しているし、魔法のバランスも崩れていることは問題ね」
「劣化のことと、魔法のバランスについてはかーくんにきいています。この世界の癌だと。他にも聞きたいことがあるんですけど、魔王を倒して世界に平和をもたらした、というのがどういうことかと、ハースト帝国の皇帝の名前がクスノキだったり巫女だったりと、ハースト帝国側も日本っぽいのはなぜですか?」
「それはのう。魔王が人間の小国を2国まるまる生贄にしたとハースト王国が主張し、戦争が勃発していたのじゃ」
私はそのクサナギさんの言葉を耳を疑った。
「えっ!魔王ってそんなことするんですか!?私は嫌ですよ!」
「もちろんしなくてよい。これもハースト王国の偽の情報じゃ。実際は、逆じゃのう。異世界知識を求めたハースト王国のフレデリカ女王が、属国じゃった1つの国をまるまる生贄にして異世界召喚を試みたらしいのう。実力不足なのかどうかはわからないが、人間の召喚は失敗に終わり数個の資料?のような物を召喚できただけのようじゃ。自分たちがやったことを誤魔化すために、他の種族とあまり関わってなかった魔王がやったと主張し、責任転嫁したようじゃのう」
「そんな蛮行をするなんて信じられない・・・しかも、いいわけのためのフェイクニュースまで流して、戦争を始めたってことですか?」
「そうじゃのう。さらに悪いことに召喚した資料に絵?映像資料?に兵器?のようなものがあったらしく、優秀な魔道具師がいたのもあいまって軍事的に力をもってしまったようでのう。魔王率いる魔族との戦闘は押されていたようじゃが、他の敵対していた種族相手だと優位にたっていて、そのままだと世界が征服されてしまいそうだったようじゃ。そこで、異世界知識に対抗すべくアイギスと聖女が、フギン様とムニン様の協力を得て、異世界から勇者を召喚したんじゃ」
敵対していた種族?ハースト帝国は色々なところでつけあがっていたのかな。色々と聞きたいことはあるけど、まずは私と同じ転移者である勇者について聞こう。
「色々と聞きたいことはあるんですけど、その人が本物の勇者ですか?」
「そうじゃ。じゃが、ハースト王国側もアイギスの勇者召喚の情報を得ていたようで、別の小国1国を生贄にして邪魔を企て、本物の勇者様のこの世界の召喚場所が想定と異なる場所になってしまったようじゃ。本物の勇者様を探している間に、ハースト王国が新たな勇者をでっちあげ、2国目の生贄を口実に連合軍を組織し、魔王軍に勝利した、という経緯じゃな。巫女や日本っぽい名前は、上部だけそれっぽく異世界感を出すために、召喚できた数少ない資料を参考にしたようじゃ。それらの資料も、世界に凱旋パレード中だった偽物勇者やハースト王国の警備の隙をついて、本物の勇者様が破壊したようじゃがのう」
クサナギさんが説明の合間に一息つくと、アイリスさんが話しを引き取った。
「本物の勇者様が異世界資料とそれをもとに作られた兵器を破壊し、魔道具師も始末したおかげで、ハースト帝国が世界全てを征服できなかったらしいわ。そして、本物の勇者様、当時の聖女、アイギスの実働部隊が協力してこの隠里アマノハラを作って今に至るわけね」
アイリスさんはそこで言葉を区切ると、普段ララをからかって楽しんでいる時とは全く違う真面目な雰囲気を纏ってから私に向き合った。
「今代の聖女として依頼します。ユカちゃん、私たちと協力関係を結んでくれませんか?」




