13:怪しいお姉さん改めアイリスの実家
ユカとララがアイダホの鉱山で銅を発見してから6週間ほど、アイリスが加入してから2週間ほど、経過していた。
3人は、アイダホ近くの森で、依頼を受けたクエストの魔物狩りがてらピクニックをしている。
ユカが自身ありげに宣言した。
「今日は私が料理するわ」
「初めてじゃないか?大丈夫か?」
「もちろん!」
「そうか、それじゃ頼む」
「お願いね。私とララちゃんはもう少し魔物を狩ってくるわ」
ユカが料理を作り終えた頃、ララとアイリスも戻ってきた。
「うさぎ肉を煮込んでみました!」
「あら、すごい美味しそうじゃない!この前まで料理に無頓着だったけど、無頓着だっただけで調理能力はあったのね」
(ふっふっふ!警察学校主席卒業の私にかかれば料理くらい!その気になれば!)
実際、ユカが作った料理は見ためがすごいいい。しかし、ララは匂いを嗅いでからアイリスの様子をうかがいながら食べるのを待っていた。
そして、一口たべたアイリスの表情はというと固まっていた。
「・・・何を入れたの?」
「このあたり寒いから、体が温まるように生姜と香辛料は入れてあります。けどそれだけだと辛くなっちゃうからハチミツもちゃんと入れてますよ。あとは、体力回復のために薬草とかですね」
「キノコ類は何か入れた?」
アイリスさんが、何かの魔法を準備しながら聞いてきた。
「?キノコは入れてませんよ。探したけど無かったんですよね」
私の回答を聞いて、アイリスさんは準備していた魔法を解除したようだ。
「それぞれの材料の量は?」
「えっ量?栄養がとれるようにとりあえずドバッと入れてます」
「うさぎ肉の血抜きはした?」
「血抜きって?そんな吸血鬼みたいなことしてないですよ」
「味見はした?」
「つまみ食いはしてないです!そこまで食い意地はってないです!」
なぜか無言でうなづきあうアイリスさんとララ。
「ユカちゃんを料理当番から外します」
「妥当な判断だ」
「なんで!?」
「とりあえず食べてみて?ね?」
結託したアイリスさんとララの圧に押され、言われるがまま私も自分で作った料理を食べてみた。
「・・・なんというか、控えめに言ってまずいわ。うさぎの味が台無しになってるうえに、色々とごちゃごちゃしてて、二兎を追うもの二兎をも得ず、以上に意味不明な味になっている。アイリスさんが作ってくれてた料理と全然違う」
「私がなんとか食べられるようにするから少し待ってて」
「はい、お願いします」
(思えば、料理と警察学校って関係ないわね!全寮制で色々とやってたから、できる気になってたわ。いきってた自分が恥ずかしい・・・)
「ところで、ララちゃん」
「なんだ?」
「私が食べるまで待ってなかった?」
「・・・。シスターなら解毒魔法が使えるだろう?」
「まぁ!お姉ちゃんを毒味に使うなんて!」
「お姉ちゃんだと思ったことはない。適材適所だ」
もしかして、さっきアイリスさんが発動しようとしていた魔法は解毒魔法・・・?
私の料理って毒味が必要なの?とへこんでいると、アイリスさんがてきぱきと料理の応急処置をしてくれた。
応急処置された料理を食べ終えた頃、アイリスさんが口をひらいた。
「さて、気を取り直して。アイダホの町も軌道に乗ってきたわね」
「そうですね。爆弾の魔道具もできましたし、爆発魔法の使い手も育ちましたね」
爆発魔法は、あのやんちゃそうな男の子が一番成長した。今では鉱山の坑道で戦力になっている。
「そろそろ旅に戻るか?」
「そうね、ララ。私たちに依存しておんぶに抱っこで成長しないのは町の発展の妨げになってしまうわ」
「鉱山の権利もルーク王国から守っているようね。冒険者ギルドの受付嬢さんのおかげかしら」
アイリスさんは少し棘のある言い方をした。冒険者ギルドの受付嬢とはエミリーさんのことで、ララが度々エミリーさんの後ろに隠れ、エミリーさんVSアイリスさんのキャットファイトが何回か勃発していた。
「エミリーさんは優秀ですからね」
「そこは認めるわ。上部だけ見るとルーク王国に有利だけど、しっかりと中身を理解すればアイダホにかなり有利な条件で通してたわね。ルーク王国の担当官が上辺だけしかみてなくて能力がなかったことも大きいとは思うけれど」
「結果的にアイダホ有利になったんだ。いいだろう」
「そうだけど、ララちゃんは彼女の肩をもつの?」
「そういう話ではない。それで、旅に戻るとしてどうするんだ?」
この話はちょっとめんどくさいとばかりにララが話を戻すと、アイリスさんがちらっと私の方を見た。私が答えていいということかしら。
「具体的に次の町をどこにするかは考えてないわ。ただ、もうすこし戦闘面で成長したいわ」
ここ2週間アイリスさんと一緒に行動して、あと改めてララの戦い方を見てわかったけど、私はまだ戦闘面が心許ない。平和な令和からいきなり戦国時代に飛ばされたようなものだから、しょうがないとはいえばしょうがないけど・・・
「そうしたら、私の実家を拠点にして修行とかしてみない?」
「アイリスさんの実家ですか?」
アイリスさんは、ニコッとしながら顔の前で軽くを手をぱんと合わせながら、
「そうそう。実家というか里なのだけど、修行にはもってこいだと思うわ」
「神聖公国に里なんかあったか?まともなのか?」
「もちろんまともよ。2人のかわいい子を連れて里帰りね!」
ララがアイリスさんをジト目で見た後、私に聞いてきた。
「ユッカどうする?アイリスの戦闘能力は高いから修行に向いているのは本当だと思う。もしも、変な里なら速攻帰ればいいだけだ」
「ララちゃん!今私の能力が高いって、」
「あたしはユッカと話している。少し黙っていてくれ」
「反抗期かしら?」
ララはスルーすることにしたようだ。
「あたしも、もっと成長したいと思っていたところだ。ユッカがいいなら行かないか?」
「そうね。私も戦闘面でもっと成長したいわ」
(魔王なのに、名ばかりのポンコツにはなりたくないわ!!ポンコツ大魔王とかあだ名がついたらどうしよう!)
「2人の意見が一致したということで、決まりね!」
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私たちは、アイダホの町の人と挨拶をして、数日かけて最後の引き継ぎなどを済ませた。
そして、町を発つ当日になった。
見送りの宴会のあと、家の中で身支度を終えた。
「この家を残しておいてくれるのは嬉しいわ」
「いつでも帰ってきていいということじゃないかしら。ユカちゃんとララちゃんの成果のおかげね」
「それより、どうやってアイリスの里に行くんだ?」
成果のおかげと褒められて、ララはちょっと照れてるようね。
「よくぞ聞いてくれました!2人とももう町の人たちとは挨拶を済ませてるわよね?」
「はい」「ああ」
「あまり見られたくないから、ここから出発しましょう!」
「「ここから?」」
どういうことだろうと思っている私とララをよそに、アイリスさんは収納魔法から小さい魔道具を取り出した。
そして、魔法で少し指先をきり、その魔道具に血を垂らした。
「魔道具の色がかわった」
「あら?ララちゃん興味津々?」
「色が変われば気になるだろう」
アイリスさんの指先の傷はすでに治っている。
「詠唱なしの治癒魔法ですか?」
「ユカちゃんはそっちに興味津々?」
シスターであるアイリスさんが治癒魔法を使ってる場面は何度か見たけど、今のはなにか違う気がした。
「なんとなくなんですけど、いつもの治癒魔法と違う気がして」
「あらあら!さすがね!その辺りも里についたら話すわ」
そういって、アイリスさんは突然私とララの手を握ってきた。
「えっ?」「おい!」
「今回に関しては本当に必要なことなのよ。そうじゃなきゃ2人が結界にはじかれちゃうわ」
「「結界?」」
「そう!さて、準備も整ったことですし行きましょうか。転移!!」
ちょっと!?またこのパターン!?かーくんといい、この世界は唐突な転移が流行っているの!?
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転移を終えた私が目を開けると、少し離れたところに、かやぶき屋根のような建物がちらほら立っている。遠目に里全体を見渡して白川郷みたいな印象をうけたけど、疑問がわいた。
なんでこの世界で日本風の建物が立っているのだろう?
私の疑問をよそに明るい口調でアイリスさんが、
「我が里アマノハラへようこそ!黒き英雄さん!」
「・・・黒き英雄?」
「あれ?フギン様から聞いていない?」
「フギン様?」
「またまた〜、そういう冗談?」
私は首を横に振った。
「・・・このスプーン曲げてみて」
アイリスさんは、突然収納魔法からスプーンを取り出して私に手渡してきた。
「アイリスさん急にどうしたんですか?」
「ちょっとだけよ、って言わないの・・・?」
「ねぇアイリスさん、本当にどうしたの?」
「もしかして私人違いした・・・?けど神託の通りの見た目だし、魔法のセンスもすごいし・・・」
「えっと・・・?」
「スプーンを曲げてって言われたらちょっとだけよ、って答えるのがワビサビじゃないの?あれ、ワサビだっけ」
「ワビサビ?ワサビ?・・・もしかして侘び寂びですか?それなら違いますよ」
ふと、アイリスさんの表情に光が戻った。
「ワビサビを知っているのね!良かった、やっぱり異世界から転移してきたのよね?」
「あっそういうことですか。確かに異世界からきましたけど、その黒き英雄?については本当に心当たりがありません」
「フギン様が説明しなかったのかしら?」
「ユッカ、アイリス、どういうことだ?フギンというと神の使いじゃないか。それに異世界?」
ララにはまだ説明してなかったのよね。タイミングをみて話そうと思ってたけど、後出しジャンケンのようになってしまったのは申し訳ないわね。
それにしても神の使いというと、かーくんのこと?
「ララ、言ってなくてごめんね。私ちがう世界からこの世界に連れてこられたの」
私の告白にララは驚いた様子をしている。
「それと、アイリスさん。神の使いは、カラスですか?」
アイリスさんは少し微妙な表情を浮かべていた。
「ええ、確かにカラスの姿をされていることが多いけれど、神の使い様をカラス呼び・・・」
「その辺りは友好的な同意の上です。改めまして、カラスのかーくんにこの世界に連れてこられた、人族だけど魔王のユカです」
「「人族だけど魔王!?」」
ララだけじゃなくて、アイリスさんも本当に驚いた様子をしていた。
「あれ、アイリスさん聞いてませんでした?」
「聞いてないわ」
「「「・・・・」」」
沈黙を破ったのはアイリスさんだった。
「ま、まぁ積もる話はこれからしましょう。それよりも!!気を取り直して!里でのどきどき修行編!ポロリもあるよ!」
「ないわよ!」「ねぇよ!」
ツッコミをいれた私とララの手を強引にひいて、アイリスさんは里の中に向かった。




