12:怪しいお姉さんが仲間になった
襲撃者の事後対応は冒険者ギルドと町の人が行ってくれるようで、私とララはアイリスさんを連れて家に帰ってきた。
「ユッカ、怪しい女を連れてきて大丈夫か?」
「たぶん・・・」
「昨日はごめんね。飲み過ぎていたわ」
バツの悪そうな表情を浮かべたアイリスさんは、私とララに続いて席に着くと口をひらいた。
「改めて、神聖公国アイギスのシスターのアイリスです」
そういうと、アイリスさんは胸の谷間に隠れていたネックレスを取り出した。
ネックレスを見たララが、
「本物か?」
「胸が幻影魔法の偽物じゃないかってこと?」
「ネックレスに決まってるだろう!」
「ふふっ冗談よ。これは本物よ。偽物は所詮偽物でしかない。偽物で虎の威を借る狐みたいなことはしないわ。けれど、言葉だけを鵜呑みにせずにちゃんと自分でも確認してみて?」
アイリスさんはララにネックレスを手渡した。ネックレスを改めて確認したララが、
「含みのある言い方は気になるが本物のようだな。悪かった」
「疑うのも無理はないわね、シスターのほとんどがアイギスではなく教会の所属ですもの」
(かーくんから聞いていた内容だと、ハースト帝国と繋がりが強いのは協会で、シスターもほとんどが協会所属なのよね)
「それで、なんでわざわざアイギスを名乗った?立場を明確にするために、教会のシスターのネックレスとアイギスのネックレスは一般に告知されている。力関係的にアイギスの方が弱いから、シスターとだけ名乗るのが多いんだろう?」
「それほど警戒しないでちょうだい。ええと、獣人の」
「狼の獣人のララだ」
「ララちゃん、それほど警戒しないでちょうだい。教会とは関係ないことをはじめに伝えたかったのよ。バラスキャルブ大陸の東部に現れる黒髪黒目の少女を保護するように神託をうけたの」
「神託?教会から公開されている神託にはそんな中身はなかったはずだ。それに、神託は教会の巫女しか聞こえないはずじゃないのか?」
「表面上はそうなのだけど、裏では色々とあるわ」
アイリスさんは含みのある笑みで私の方を見てきた。
確かに、ハースト帝国とつながっている教会を名乗られたら警戒したかもしれない。黒髪黒目は私の見た目と一致するし、バラスキャルブ大陸の東部に私が飛ばされたことも一致している。かーくんって、神の使いと名乗っていたし、神託もありえるわね。そうだとしても、魔王である私を人間の国である神聖公国が保護?かーくんのことだから、私に説明していないことがありそうだけど、アイリスさんはどうなのだろう。
「・・・そうですか。神聖公国が、魔法が得意な”私”を保護するのですか?」
「正確には違うのだけどそう思ってくれて構わないわよ。この世界の成人は17歳だから、14歳のユカちゃんには保護者が必要でしょう?」
(冒険者ギルドで調べると14歳というのはわかるかもしれないけど、私からは伝えてないわね。この世界という部分も強調してたし、本当に神託で聞いている可能性が高いわね)
「ということは、アイリスさんは成人済みなのですか?」
「ホウキ星が流れた日だから、1ヶ月くらい前に成人になったわ。2人と歳は近いから、お姉ちゃんって呼んでくれてもいいのよ?」
「・・・呼び方は応相談ですけど、もし承諾したとして私やララが神聖公国に対して何かしらの義務を負うことはありますか?」
「遠慮しなくていいのよ?義務についてはないわ。あくまで、ユカちゃんのサポートみたいなものね。それと私は戦闘もそれなりに得意で、実戦でも守ってあげられるわ」
実戦という言葉に私の意識が反応した。襲撃者との戦いで、砂で目潰しをされてから考えていたけれど、剣道はあくまでスポーツなのよね。正々堂々戦うことが前提となっているから、隙をつかれてしまった。アイリスさんの申し出は正直わたりにふねではある。
「わかりました。保護は堅苦しいので、旅の仲間などはどうでしょうか」
「本物のアイギスのシスターとはいえ、いきなり抱きつくような怪しい女だぞ?」
「ララは反対・・・?」
ファーストインパクトが強過ぎただけで、アイリスさんは普段は普通そう。それに、エミリーさんとの様子をみると、ララってお姉さんタイプと相性悪くないと思うのよね。
「反対というほどではない。・・・まぁ、酔ってないと普通みたいだし、ギリギリでありじゃないか」
「ありがとう、ララちゃん!」
笑顔でララの頭をモフモフしながらなでるアイリスさん。
「やめろっ!」
それを払いのけるララ。
「いきなり過ぎたかしら・・・?」
首を傾げて、少し残念そうにするアイリスさん。
「そうだ。アイリスさんって町の宿に泊まっているんですか?」
「そうよ」
「この家まだ部屋が余ってるので一緒にどうですか?効率的だと思います」
「あらいいの?それではお言葉に甘えて、」
「2階はユッカとあたしが使う。アイリスは1階を使ってくれ」
「えーなんでよー」
「身の危険を感じる。2階には上がってくるな」
「あらあら。徐々に信用を得ていくわね」
警戒するララにニコッと微笑むアイリスさんが、パンと軽く手を叩いた。
「私の加入祝いに、今夜はご馳走にしましょう。美味しい料理を作るわ」
「手間ではないですか?お腹に入ればなんでも同じなので、栄養さえ取れれば、」
私の言葉の途中で、ずいっと体を乗り出してアイリスさんが真剣な顔で言ってきた。
「ユカちゃん、本気で言ってる?」
「え、あっはい」
「そう・・・。わかったわ。料理の素晴らしさを教えてあげるわね。食材の調達からしてくるから夜は楽しみにしていて」
アイリスさんは、なんだか気合いのはいった様子で食材の準備をして、数時間後には料理が完成した。
「さぁ、召し上がれ」
私はニコッと微笑むアイリスさんに言われるがまま、料理を口に運んだ。地球でもサプリメントとか栄養食とか、コンビニでてきとうにすませていた私に、衝撃が走った。
「美味しい!なにこれとても美味しいですよ!」
「よかったわ。まだまだあるからたくさん味わってね。ところで、ララちゃんのご感想は?」
「・・・」
ララをちらっと見ると、なんか不思議な顔をしていた。
「あたしが作るとしたら、塩コショウだけの味付けになる」
「うんうん」
アイリスさんはララの表情の意味がわかるのか、ニマニマしながらララを見つめている。
「あーもう!言えばいいんだろう言えば!うまいぞ!」
「それはよかったわ」
この夜、私は新たな扉を開いた。美味しい料理ってすごい!!




