10:怪しいお姉さん
ユカとララがアイダホの鉱山で銅を発見してから4週間ほど経過していた。
ユカの爆発魔法の講義や爆弾の試作もひと段落して、今日は2人で町の近くの主要な道路の魔物の間引きのクエストを受けようと、アイダホの冒険者ギルドに向かった。
「あれ?モウグリで受付をやっていたお姉さん?」
ギルドの建物に入ると、ルーク王国のモウグリの冒険者ギルドで受付嬢をやっていたお姉さんが、アイダホの冒険者ギルドの受付に座っていた。私達に気付いて手を振ってくれている。
「あら、ユカちゃん久しぶり。そういえば名乗ってなかったわね。私はエミリーっていうの、よろしくね」
「あっこちらこそよろしくお願いします。どうしてこちらに?」
「最近この町が賑わってきたでしょ?それで人が足りなくなってきたらしくて、近くのモウグリから私が派遣されたって経緯ね。冒険者ギルドのしがない受付嬢は上の決定に逆らえないのよ」
実際のところ、エミリーはモウグリに残ることを希望していた。それでも、エミリーが派遣されたのはシンプルに優秀だったからだ。無能を派遣しても給料泥棒にしかならないので、有能な彼女に白羽の矢がたっていた。
それこそ、ユカの地球での警察での女上司みたいな人間を派遣しようものなら能力不足で速攻で破綻する。
それと比べエミリーは受付嬢でありながら、事務全般もそつなくこなし、その場その場に合わせて機転もきく。経理もかじっているため、町の再興の目処がたったとはいえまだ無駄遣いするほどの財政も整っていない現状を鑑みて、彼女が適任だった。
「それは・・・大変ですね」
私も身に覚えがあるわね。警察の時も、明らかに見当違いの作戦をたてる上司に無理やり現場でこき使われたっけ・・・。
エミリーさんはというと、わかってくれて嬉しいわ!と言った後にララにも声をかけた。
「ララちゃんも久しぶり」
「うっす」
「照れてるの?」
「そんなことない」
エミリーさんは急にララの頭を撫で始めた!モフモフの耳もなでている。うらやま、じゃなくてララが心なしか嬉しそうにしている・・・?
けれど、すぐにララはその手を払って本題を告げた。
「そんなことよりクエストを受けにきた。魔物討伐はないのか?」
「もー、もう少しいいじゃない。・・・そうね、これはどう?町からそこまで遠くないし、日帰りでいけるわよ?」
ララは依頼票をちらっとみて、
「これにする。ユッカいくぞ」
そういうと私の手を引っ張ってギルドの建物から出た。
「ララ、エミリーさんとは知り合い?」
「一応な」
一応?私はつい、ララの顔をじっとみてしまった。
「なんだ?」
「結構親しそうじゃなかった?」
少し間を置いてから、ララが答えた。
「・・・狼少女の噂が広まってからも態度が変わらなかった。サンノも行方不明扱いになってたし、むしろ気にかけてくれた。感謝はしているが、すぐになだててくるから嫌だ」
「そうだったんだ」
嫌だと言いながらも、ララの様子は照れ隠しのように見えた。
そのまま私たちは町の入り口に向かって歩いていた。
途中にパブがある。昼間とはいえ、結構人がはいっているようだ。
「この町も賑わってきたわね」
「そうだな」
「おっ!ねえちゃんいいのみっぷりだねー!」
パブの店員の声に釣られてチラッと見ると、一気飲みをしたらしい女の人と目が合った。
(うわぁすごい綺麗な人だなぁ。金髪碧眼で顔立ちもととのっている。それに、スタイルがすごい)
私がのんきにそんなことを考えていたら、その女性の目が見開かれた。
「黒髪黒目の少女・・・やっと見つけたわ!」
「えっ?」
害意を感じなかったからか、私は油断していた。
次の瞬間、私はその女性に抱きつかれていた。
「もう離さないわ!」
「んんん!」
(女性の胸に顔がうずくまって!息ができない!大きいと凶器!)
手をばたつかせていると、ララが強引に引き離してくれた。
「ユッカ、逃げるぞ!」
「うん!」
ララと一緒に町の外を目指して一気に走り出した。
(あの女性は・・・?)
ちらっと後ろを見ると、お酒で酔っていたのか、地面に転んでいる女性が見えた。
ーーーーーーーーー
「ユッカ。一応聞くけど知り合いじゃないよな?」
「違うわ。初めてみた。あれほどの爆乳美女、会っていたら忘れないと思う」
「そうか。酔った勢いか?人違いか?いや、それでも急に抱きついてくるのは明らかに変だな」
私とララはあのまま走り去り、クエストを受けた魔物討伐の場所の近くに到着したところで、今は一息ついていた。
「それにしても、大きかったわ」
今でも柔らかい感触が顔に残っている。地球での私はほぼAのBだったし、今は14歳くらいの体だから・・・目を落とすとそこにはまな板があった。
「おい」
「あっ、ごめん。流石に怪しいから近づかないようにするわ」
「そうしてくれ」
私たちはしばらく歩いて進み、魔物討伐をはじめた。
ボンッ。
ドカン。
ボンッ。
ボンッ。
「名実共に爆発の魔女だな!」
笑顔のララに言われてしまった・・・
「その通り名はちょっと・・・」
「そうか?ぴったりだと思うぞ?」
「確かに、最近爆発魔法ばかり使っていたから精度も威力も質も向上しているのよね」
「成長していいことじゃないか」
「それはそうなんだけど、爆発の魔女というのは・・・」
ララはというと、身体強化をして、二刀流で魔物を切っていた。
「ララってあまり魔法を使わないわよね?」
「そうだな。風魔法は使えるけど、魔力量や威力が微妙だから、物理的に切ったほうが早い」
「そっか・・・」
(魔力量はわからないけど、威力は風のイメージ次第であがらないかな?)
「ユッカは湯水の如く魔法を使うよな」
「そうね。剣も使うけど、魔法のほうが多いわね」
魔法の練習と、ララが前衛で私が後衛のコンビネーションの練習もかねて、戦闘はほぼ魔法で行っていた。
「魔力切れにならないのか?」
「一回だけなったことがあるわ」
「どれだけ魔法を使ったんだ」
かーくんとの修行の後半で、一度魔力切れを体感したほうがいいということで試していた。
あの時は、高密度の結界を何重にも張ってそれを維持しながら、普段は使う機会がなさそうな大規模魔法を連発した。それでも結構時間がかかったわね。
「えーと、結構?」
「そうか。まぁそんな場面がこないといいな」
あの修行のおかげで、魔力切れの時の対策も覚えることができた。その場面がきても大丈夫だと思う、たぶん。
私たちは魔物討伐を終えると、アイダホの町に戻った。変質者のお姉さんに遭遇しないように気をつけながら。




