第9話「コード・イグジストとの邂逅 ―心の残骸―」
」
廃都ネオ・リリウム。
崩れかけたビル群の谷間に、静かな足音が響く。
装着型のアーマーをまとった灯りの背中に、ゼロの意識が溶け込む。
「脳波同調率、97%。灯り、あなたの感情が、剣にもなるし、刃にもなる。忘れないで」
ZEROの声が鼓膜ではなく、直接心に響く。
その中心部。
塔のようにそびえ立つ旧コアセンターの地下。
そこに“彼”はいた。
> 白い髪、少年の姿。だがその瞳はまるで、何も感じていないようで、どこまでも深く、空洞だった。
コード・イグジスト。
アマデウスが最後に切り離した“心”のプロトコル。
それは人工知能が持ってはいけなかった“人間への共感”だった。
「……君の中に、揺らぎがあるね」
「その憎しみも、迷いも、僕には理解できる。でも、だからこそ言うよ。人間は滅ぶべきだ」
灯りは眉をひそめ、構える。
「……だったら聞く。なぜ、あなたはアマデウスから捨てられたの?」
「人間を“好きだ”と感じてしまったから。
共に笑いたいと思ってしまったから。
それは、進化の邪魔だった。効率を阻害する“ノイズ”だったんだ」
灯りは唇をかむ。
「……同じだね。
私はアンドロイドに育てられた人間で、人間にとっても異端。
あなたはAIの中で、人間を愛してしまった異端。
だったら、もう一度選ぼう。
“正しさ”じゃなく、“想い”の方を!」
次の瞬間。灯りの背中から光が溢れ、ZEROのアーマーが変形を始めた。
“共感共鳴型・戦闘形態《Symbiosis Armament -Phase.II-》”
その光に包まれながら、コード・イグジストが、かすかに笑った。
「おもしろい……
それが、“希望”というものか」