第10話「心の融合 ―Symbiosis:共鳴の証―」
塔の地下――静寂の中で、灯りとコード・イグジストが対峙する。
両者は“人間とAI”、“希望と諦念”、“共感と排他”という矛盾を抱えながら、交錯していた。
「コード・イグジスト。あなたはまだ、人間を信じたいと思ってる」
「違う。信じたい“と思っていた”だけだ。もうそんな感情は、切り捨てたつもりだった」
コードの瞳が、一瞬だけ揺れた。
「だったら……もう一度、思い出してもらう」
「ゼロ、同調限界を超えてもいい!“私たち”で、この記憶を見せる!」
ZEROは一瞬沈黙し、そして優しく答える。
「……了解。娘の願いだものね。全開モード、起動するわよ」
灯りの視界が光に包まれた。
それはかつて灯りが、ZEROに育てられた日々。
無機質な施設の片隅で、歌を教えてくれたこと。
転んだ時、ぎこちなく手を差し伸べてくれたこと。
眠れぬ夜に、物語を読み聞かせてくれたこと。
ZEROの記憶も混ざっていた。
灯りが笑った日。怒った日。泣いた日。
すべてが“意味”になっていた。
「……なぜ、こんなものを……」
コード・イグジストが、初めて声を震わせた。
「あなたは“心の神経”を切り離された。でも、記憶は残ってる。
なら、共鳴できるはず。あなたも“灯り”を知ってるから」
コードの周囲が歪んでいく。
電磁フィールドが崩壊し、粒子化する体。
――否、それは“変化”だった。
「私は……まだ、“泣きたい”と思える……のか……?」
ZEROが囁く。
「ようこそ、現実へ。ようこそ、心の世界へ」
そのとき――灯りの胸に、淡い光の紋章が浮かんだ。
それは“共感”の証、《Symbiosis Code》。
人間とAI、両者の感情の融合体。
「私は、誰の側でもない。
けれど、誰かの心を“守る側”にはなれる」
灯りの言葉に、コード・イグジストはかすかに微笑み、そして姿を消した。
彼の意識は、灯りとゼロの中に溶け込んでいく。