通話の向こう側
この物語は、一人の中学生「たび」と、彼が特別な関係を築いた友人「こはる」との、何気ない日々のやりとりを綴ったものです。
学校生活の中で深まった友情、夜更けの長電話、そしていつしかすれ違ってしまった想い。
どこにでもあるような日常の中に、忘れられない時間が確かにあった。
誰しもが一度は経験する「大切な人との距離の変化」。
その温かさと切なさを、この物語を通じて感じてもらえたら嬉しいです。
たくさんのことに興味がある男子中学生「たび」は、第一志望の高校に合格し、卒業式を終えた後、だらだらと過ごしていた。友達と遊んだり、近くのカフェに行ったり、暇なときには図書館で勉強したりもしていた。
そんな中、特に頻繁に行っていたのが、中学1年生のときにクラスメイトだった女子「こはる」との電話だった。通話が始まったのは中学2年生の春頃で、大体夜9時から10時ごろに始まり、1時や2時、ときには寝落ちするまで続くこともあった。こはるとは中学1年生の頃はそれほど話していなかったが、クラスが別々になった中学2年生の進級を機に、急に話すようになったのだ。
普段あまり女子と話す機会がなかった俺にとっては、絶好のチャンス!と思ったが、お互いに「好き」という気持ちが芽生えることはなく、友達として電話を続ける関係になった。
学校終わりの電話はとても楽しかった。お互いのクラスの授業、友達、先生に関する話が尽きることなく、それぞれの話に共感しながら盛り上がる時間は何よりも楽しかった。しかし、会話の中で意見が食い違ったり、学校生活のストレスがたまってつい相手に当たってしまったりすることもあった。でも、今思い返せば、そんな対立があったからこそ、より深い関係を築けていたのだと思う。
中学3年生になり、受験シーズンが始まった。夏休みを過ぎる頃から電話の頻度が減り、連絡を取る回数も少なくなっていった。でも、月に1回くらいはお互いの近況を話したり、勉強を教え合ったりすることがあり、その貴重な時間は変わらず楽しかった。
受験1か月前、俺はスマホを親に取り上げられ、連絡ができない時期が続いた。そのときは「どうしてスマホを取り上げるんだ!少しくらい持たせてくれ!」と親を恨んだが、今ではそのおかげで第一志望に合格できたのだと思う。親には本当に感謝している。
受験が終わった次の日、俺は推薦入試でこはるよりも先に受験を終えていたため、まだ試験を控えているこはるとは連絡を控えていた。そしてこはるの受験が終わった次の日、久しぶりに電話をしようとしたが、学校でも人気者のこはるは既にほかの友達との通話の予定が埋まっていた。それでも優しいこはるは、次の日に電話をしてくれた。
久しぶりの電話は、とても楽しかった。でも、ずっと話していなかったせいか、以前のように長く会話が続かなかった。こはるは俺との電話に飽きたのか、別の友達に通話を誘われてそちらへ行ってしまった。俺は、もっと話を続けられなかった自分を反省しながら、その日は眠りについた。それから、こはると電話する機会はさらに減り、連絡を取り合うことも少なくなっていった。
そんな日々が続きながら、卒業式を迎えた。卒業式の後、中学3年生の駐輪場前でみんなで写真を撮り合ったり、卒業文集に寄せ書きを書いたりしていた。そんな中、俺はこはるを見つけ、一緒に写真を撮ることに成功した。ずっと話せていなかったので、写真が撮れるか不安だったが、撮れたことが本当に嬉しかった。
卒業式が終わって一週間ほど経った頃、久しぶりに話したくなり、こはるを電話に誘った。こはるは快くOKしてくれ、22時ごろから通話を始めた。だが、数分後、こはるの女友達「もも」も電話をしたがっていると知り、こはるはどちらと話すか迷っていた。そこで、3人のグループを作り、3人で電話することになった。
こはるとももとの通話はとても楽しく、二人のときよりも会話が弾んだ。盛り上がっているうちに2時になり、こはるはミュートボタンを押してお風呂へ。その間、俺とももはふざけながら話していた。やがてこはるが戻ってきて、「帰ってきたよー」と言った。しかし、ももとの会話に集中していた俺は、自覚なしに冷たく「はーい」とだけ返し、再びももとの会話に戻ってしまった。
それがこはるを傷つけたらしく、こはるはそのグループを退会し、俺の個人トークも削除した。これはまずいと思い、削除されたとしてもメッセージは相手に届くはずだと信じ、長文で謝罪のメッセージを送った。しかし、返ってきたのは「思ってもないこと言わないで」「気分悪い」といった冷たい言葉だった。俺の気持ちは滅入ったが、次の日に改めてしっかり謝ろうと決めた。
翌朝、俺はもう一度真剣に謝罪のメッセージを送った。すると、こはるから「大丈夫」と返信があった。しかし、その言葉に本心がこもっていないことは明らかだった。それでも俺は「ありがとう」と返した。
そして次の日の朝、目を覚ますと0:10に「ごめん、ブロックする」というメッセージが届いていた。俺は大きなショックを受けた。中学2年生の頃からずっと大切にしてきた友達と、こんな形で終わるなんて。しかし、ブロックされた今となってはどうしようもない。別のアプリで連絡を取ろうとしても、気味悪がられてまたブロックされるだけだろう。こうして、俺とこはるの関係は終わった。
それでも、俺はいつまでもこはるからの連絡を待っている。
(この物語はフィクションです)
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
この物語は、あくまでフィクションです。実在の人物や出来事とは一切関係ありません。とはいえ、誰もが一度は経験するような友情の変化や、関係がすれ違ってしまう切なさを描きたいと思い、執筆しました。
中学時代の何気ない会話、夜遅くまで続く電話、そしてちょっとした出来事で壊れてしまう関係——そういった些細なことが、後になって振り返ると、とても大切な思い出だったと気づくことがあります。
もしこの物語を読んで、「こんなことあったな」と懐かしく思ったり、「自分ならどうしただろう」と考えたりしてくれたなら、とても嬉しいです。
改めて、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!