prologue 闘いを求める者
宝星街の究極の人斬り、村山龍香。
誰もが見間違う事のない桃色の髪に青と赤のオッドアイを持つ、美しい美貌に相反する最強無敵の剣術を持つ女。
彼女は、我人に非ずと人を自らの義に沿った依頼の限り斬り続けていた。
しかし、その生活をするうち名声を裏の世界で得る一方で彼女を敵とみなす者はどんどんと減りいつしか片殺しばかりとなった。
恐れられ、誰からも対等な敵とみなされず、彼女が敵意を向ければ成す術もなく逃げ惑うものばかり。
そんな彼女は、死地を求めるためにこう願った。
最早金も名も必要ない、自らを死地に追いやる程の敵が欲しい…と。
願い続けたある日。いつも通り定時に目覚めた彼女だが、周りの様子が違う。
何時もの自身の住処とする雑居ビルの一室ではなく、木造の粗末な一部屋で目覚める。
「…どういうことだ?」
慌てて外に出ると、やはり何時もの昼には閑散としている街とは全く異なる風景が目に入る。それは彼女が独学で高等学校までの知識を得た際に学んだ、江戸の景色であった。
「おっ、異人さんが起きたぞ」
「なんなんだここは?ここはとう…じゃねえ江戸か?」
「江戸ぉ?聞いたことねえなあ。ここは倭、他の国とは交流を断った国だ」
耳に入る情報や装いは彼女が学んできた江戸時代の日本と変わらない。…しかし、聞いた国名は全く違うし太平の世であったはずの江戸とは異なり、帯刀している人間からは皆練度と殺気を感じた。
「ま、魔物だあ!」
混乱していると、見張り台の櫓の上から声がかかる。その方向からは、見たこともない猪が2足歩行しているかのような獣人や虎のような鋭い爪を有した2足歩行する獣人などが押し寄せる。
その偉業の者達を敵として認識した刹那、龍香はすさまじい勢いで獣人たちとの距離を詰める。距離を詰め、目にも止まらぬ勢いで抜刀し切り刻む。
「ふん、ちょっとはできそうな連中がビビってるからちょいとつまみ食いしたがこの程度か。大したことはねえな」
そのあまりの立ち振る舞いに、助けたらしい者たちの目も変わる。無理もない話であった。
「…あんた、名前は何てんだ!?どこの狩人だ!?」
「リュウカ・ムラヤ…多分うちらと同じ文化圏だよな。…村山龍香だ。一応聞いておくが、姓を先に名乗る文化圏だな?」
「それで間違いねえ。んで、異国のどこの狩人だ?」
「狩人?」
「それも知らねえのにあの強さか…」
「まあいい、私はどのみち此処の事を全く理解していない。助けてやった礼として、宿と食事を担保してもらいたいのと此処の事を教えてもらいたい」
「勿論だ、あんな働きしてもらって無銭飲食だのなんだのは到底ほざけねえ」