表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忍陽  作者: 雪嗣
3/19

2話

単語だけですが、自殺やいじめなどの言葉が出てきます。

(・・・・・・自分のチョロさ具合に腹が立つ)

 星ノ咲学園に潜入調査することになった経緯を脳裏で振り返りながら、琥珀は愛想笑いを維持していた。

 席に座ったままの琥珀の周りには生徒が群がり、好奇心に満ちた目で彼女に質問の雨を浴びせていた。

 クラス人数は二十人。その内の大半は部活やら会議やらで出て行ったが、それでも十人近くが琥珀を取り囲んでいる。

「月守さんはどこから来たの?」

「肌キレー」

「メイク興味ない?」

「親父さんはどんな仕事してるんだ?」

「部活は何にする?」

「体操部おいでよ!」

「いーや、書道部だ。見たろ、黒板に書かれたあの綺麗な文字!」

「生物部はどう?」

 右から左から、一つの質問に答える前に更に質問を被せられるので、最終的に琥珀はただ相槌を打つだけになっている。

 朝、挨拶をした時からひしひしと好奇の視線を向けられているのは気づいていた。転校あるあるの質問攻めに遭うだろうと思っていれば、授業毎の間にある十五分の休み時間は全て移動時間に費やされ、一番長い昼休憩は教師に呼び出され次の授業が始まる直前に解放された。

 編入初日ということもあり一日バタバタ過ごして、放課後になった途端、囲まれた。

 琥珀の行く手を塞ぐように席をぐるりと囲い、生徒達は思い思い質問をしてきた。後半になるにつれ、質問から熱の入った部活動アピールになっていき、琥珀はその勢いに半分呑まれかけていた。

(・・・最近の若者は、凄いな・・・・・・)

 ここに仁が居れば「お前も若者だ、馬鹿」と突っ込みを入れていただろうが、生憎その相棒とは別行動中だ。

 一向に止む気配のない部活動紹介に、どうしようかと琥珀が思案していれば、パンパンッ、と手を打ち鳴らす音が教室内に響いた。

「皆そこまで! 月守さん困ってるし、彼女は今から私と校内を探検するの。ほら、散った散った!」

 そう言いながら人だかりを割って入ってきたのは、スピカ組の委員長を務める五十嵐いがらし佳月かづきだった。内側を橙色に染めた髪を頭頂部付近でお団子に纏め、瞳は桜のように淡い桃色をしている。

 放課後にあったクラス会議に出席しに行ったはずだが、どうやら終わって戻ってきたようだ。琥珀が黒板の上に設置されている時計を見れば、いつの間にか放課後の十六時になってから一時間は経とうとしていた。

「ちぇー、ズルいぞ佳月」

「そーだそーだ」

「月守ちゃん独り占めする気か」

「んー? 面倒くさい委員長って役割を私に押しつけた奴らが何言ってんのかなぁ」

 ブーブーと文句を垂れるクラスメイトに、佳月が背後に吹雪を背負って微笑めば一斉に大人しくなった。明後日の方向を向いて口笛を吹く者もいる面々を余所に、佳月は琥珀の手を取って立ち上がらせた。

「行こう月守さん。この学校広いから、早くしないと夜になっちゃう。皆も、寄り道せずにさっさと家に帰りなよ!」

 佳月の忠告に「へーい」と気のない返事をし、クラスメイトは各々駄弁り出す。後一時間くらいは居座っていそうな雰囲気だ。

 バイバイ、と手を振るクラスメイトに手を振り返し、琥珀は佳月に続いて教室を後にした。

 廊下に出ると、佳月は両手を顔の前で合わせて琥珀に謝罪をした。

「ごめんね! 皆寄って集って質問してたみたいで・・・」

「いえ・・・、部活動の事も紹介してくれたので助かりました」

「そう言ってくれるとありがたい・・・。編入生が珍しいのもそうなんだけど・・・、ほら・・・最近、ウチの生徒が三人も殺される事件あったでしょ? それで皆、不安がってて・・・・・・、気を紛らわしたいみたい・・・」

 表情を曇らせる佳月に、琥珀は先程のクラスメイトの様子を思い出す。好奇心旺盛な目をしていたが、ちらほらと怯えと不安、そして微かに警戒の色を滲ませていたのには気づいていた。矢継ぎ早の質問に困ってはいたが、事情を知れば仕方が無いといえる。

「確かに、それは不安になりますね・・・。警察は金目のものを狙った強盗殺人とみているとニュースで言ってましたが・・・」

樹香じゅか真尋まひろはともかく・・・、こずえは二人に比べたらその・・・庶民的、ていうか・・・質素ていうか・・・・・・」

「・・・・・・貧乏だったと?」

「ハッキリ言うのね月守さん!? いや、二人に比べたらって意味で、一般的に見たらそれなりにはっていうか・・・、えぇっと・・・」

 己が躊躇った単語をスパッと口にした琥珀に、佳月はギョッと目を剥いた。

 第一印象で穏やかそうな子だと思っていたが、想像以上に歯に衣着せぬ物言いをすることに佳月は驚いた。

 あたふたする佳月を横目に、琥珀は思案する。

 佳月が述べた三人の名前は、殺害された鳳 樹香(おおとり じゅか)小林 真尋(こばやし まひろ)九条 梢(くじょう こずえ)の事だ。この三人は、鬼になって誰かに喰い殺されるほど恨まれていたのか。

(・・・変異した鬼はまず最初に、鬼となったきっかけとも言える恨んでいる相手を優先して喰い殺す。家族全員を殺したのは私たちの目を欺くためか、それとも単に丁度家族全員が揃っていたからついでに、ということもあるな・・・・・・。最悪、鬼同士が手を組んでいることも考えないと)

 一応、生徒が鬼ではなかった可能性も視野に入れ、被害者家族の更に詳しい調査を仁が行っている。親を恨んでいる者がいないか、金銭で何かトラブルがなかったか。他人にとっては些細なことかもしれないが、当事者にとっては鬼になって喰い殺したいと思うほどの恨みだ。何がきっかけで鬼になるかは、その人による。

 ここまでを三秒足らずで思考した琥珀は、佳月に視線を向けた。

「辛いことを聞くようですが・・・五十嵐さんは、殺害された三人とは仲が良かったんですか? 下の名前で呼んでましたが・・・・・・」

 琥珀の唐突の問いに佳月は一瞬目を丸くしたが、すぐに首を傾けて唸った。

「うーん・・・、中高一貫だから付き合いは三人ともそれなりにあるよ。でも、仲が良いかは微妙かなぁ。私、あんまり仲良くない人相手でも下の名前で呼ぶし。梢とはちょくちょく話する程度で、樹香と真尋とはなぁ・・・どっちかっていうと、揉めてた、かな」

「揉めてた?」

「そ。樹香と真尋と同じクラスになった時も、私クラス委員長してたんだけど・・・・・・、二人の態度にちょっと腹立って注意とかしてたら、まぁ、色々と・・・・・・」

 言葉を濁す佳月の表情は暗く、琥珀はそれ以上の追及はやめた。

 言いたくないことを無理に聞き出すのは精神上よろしくない。

 話題を変え、佳月は続ける。

「樹香と真尋は言ってみたら“お嬢様”だからねー、甘やかされて育ったのか、大分ワガママなところがあって、自分の思い通りにいかないとすぐキレたり物に当たったり・・・・・・。取り巻きはいたけど、その他は正直あんまり関わり合いになりたくないって感じだったよ」

「なるほど」

「礼儀作法を学ぶ場所なのに、それ以前の問題というか・・・、いじめとかもしてたし」

 小さく付け加えられた言葉に、琥珀はピク、と反応する。

「・・・いじめ、ですか。学校という閉ざされた場所で集団生活をしていればよくある話ですが、かといって、軽視していい問題ではありませんね。そのいじめられた人は・・・」

「うん・・・。いじめられてた子は私の友達で、去年違う学校に転校したんだけど、噂によるとその子、自殺しちゃったんだって・・・・・・」

 何とも後味の悪い話だと、琥珀は思った。

 大なり小なり他者を傷つけ、最悪死に至らしめれば、それはもう立派な犯罪だ。それなのに、学校側や政府は未来ある子供だからと加害者を庇うような発言をする。昔からいじめ問題は全く進展していないと思うのは、気のせいだろうか。

「すみません・・・、配慮に欠けた質問でした」

「えっ!? いやいや、私が勝手に愚痴ったようなもんだし、気にしないでっ! ほら、早く行こ!」

 あわよくばいじめられた生徒から話を聞きたかったからの質問だったが、事を急いてしまった。友人が死んだなど、口にするのも辛い事を聞き出してしまった事に琥珀が深々と頭を下げると、佳月は両手をブンブン振って慌てた。

 そのまま琥珀の手を掴み、廊下を駆け出した。

 琥珀はそこで気づく。

 学校案内で連れ出されたはずが、一向にスピカ組の教室前から移動していなかったことに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ