13話
章設定は追々考えます。
長舟 黎の居住空間兼仕事場に、琥珀と仁は呼ばれていた。
用件は当然、鬼に関することだ。
部屋の中央のちゃぶ台でお茶請けとして出されたみたらし団子を、二人はありがたく頂戴していた。
「ほい、協会から頼まれてた資料だ」
「助かる」
相変わらず下瞼に隈をこさえた黎が、欠伸をしながらちゃぶ台に数枚の紙を置いた。
先に食べ終えていた仁が資料に目を通している間、黎はその隣でみたらし団子を堪能している琥珀を見て相貌を崩した。
琥珀の正面に座り、机に頬杖をつきながらデレデレと笑う。
「チビちゃん、団子美味い?」
「美味しい。黎さんが選んでくれるものはどれも美味しいから好きだ」
「そっか~、じゃあ俺んとこ来る? 毎日チビちゃんの好きなもん食べさせてあげるぜ」
「ごめん行かない」
「ぐううぅっ、チビちゃんのいけずぅううっ!」
琥珀ににべもなく即答され、黎は机に突っ伏して泣いた。
唸るようにして嘆く黎を全く気にせず、琥珀はみたらし団子を頬張り続ける。
それを文字から視線を離さないまま聞いていた仁は、またやってると内心溜息を吐いた。
もはや、琥珀が黎の部屋に来るたびに行われる恒例のやり取りと言ってもいい。
どうしても琥珀と一緒に“鳩”の仕事がしたい黎は、主に彼女が好きな甘いものを利用してあの手この手で勧誘をしているが、今のところ成功してはいない。
諦めきれずに琥珀の横に移動すると、その丸く膨らんだ頬を突いてちょっかいをかけ始めた黎に「ほどほどにしとけよ」と一言釘を刺してから、仁は手元の資料に集中する。
今回の被害者は、都内にあるダンススクール「Feather」に通う男性六人。
吉田 拓真(二十二)。ダンス歴三年。大学生。友人の林 賢一に誘われて「Feather」に入門した。
林 賢一(二十二)。同じくダンス歴三年。大学生。吉田 拓真と同じ大学に通う友人。彼が吉田をダンススクールに誘った。
久佐上 照(二十一)。ダンス歴五年。製造工。医薬品関連の製造業で契約社員として生計を立てつつ、ダンススクールに通っていた。
杉枝 尊(二十四)。ダンス歴二年。「Feather」近くにある喫茶店の店員。元々身体を動かすことが好きだったので、日中は喫茶店で働き、夜は「Feather」でダンスレッスンを受けていた。
高梨 幸介(十六)。ダンス歴十二年。高校生。幼稚園の頃からこのダンススクールで学んでおり、被害者の中では古株に入る。
山岡 潤弥(二十七)。ダンス歴七年。フリーター。「Feather」で清掃のバイトをしながらダンスを学んでいた。
基礎を身につければグループで練習しても良いということから、吉田、林の二人は友人のよしみでチームを組んでいる。
遺体の共通点として、全員の口がジグザグに縫い付けられ、両腕と腰から下の半身が見つかっていないこと。その傷口の断面は雑巾を絞ったみたいに捻れ、そのまま引き千切られたようだった。
また、彼らはダンスのジャンルは異なるものの、定期的に開催されている大会でそれぞれ優勝、もしくは三位以内の好成績を残していた。
特に山岡は芸能事務所からスカウトが来ており、来月頃にはプロとして活躍できることが約束されていたという。
全てに目を通した仁は、丁度みたらし団子を食べ終えた琥珀に資料を渡した。
少し温くなった茶を啜り、眉間を揉む。
「これまた厄介そうな・・・・・・」
「いつものことだろ。それより、一つ気になることがあるんだが・・・」
黎の言いたいことを察し、仁はあぁ、と頷いた。
被害者たちが襲われた期間が異常に短すぎるのだ。
変異したての鬼であれば怨念の情と、肉体の変化に伴う飢餓を満たすために三週間足らずで二、三人は喰らう。そこから人を襲う頻度は不定期になり、長い時だと一ヶ月は空く。
元々鬼は腹持ちが良い方で、鬼になるきっかけである怨恨の相手を殺せればある程度は感情も飢えも落ち着き、その後は腹が減った時に適当に人を襲うのだ。
それに間隔が開いた方が、“柊の牙”が見つけにくくもなる。瘴気というものは、匂いと同じで時間が経てば薄れて消えていくもので、間隔が開けば開くほど協会側は鬼の足取りを掴めなくなってしまう。
しかし今回の被害者六人は、二週間も経たずに全員が襲われていた。
林と杉枝に至っては、同じ日に別々の場所にいたにも関わらずほぼ同時刻に姿を消している。
「・・・複数の鬼が手を組んでる可能性が高いな」
重々しく告げられた仁の言葉に、黎は険しい表情を浮かべた。
話に耳を傾けていた琥珀もまた、資料に視線を落としたまま微かに眉を潜める。
鬼同士が協力関係を結ぶのは、過去に数度あった。
人間の調達に難儀したときだとか、協会側を攪乱させるため、または陰陽師・忍者を殺すためだとか、様々な理由で手を組んでいた。
只でさえ強い鬼が協力すれば、その分、退治する難易度がぐっと上がる。
そして厄介なのがもう一つ。
鬼が鬼を食らうことだ。他の鬼を食らうことで、その鬼が持っていた力が丸々付与される。ようするにパワーアップするのだ。
今までに退治した鬼の中には、自分がパワーアップするために他の鬼を騙して食らった者もいた。
こうしたことがあるからか、鬼側も自分が食べられてしまう危険は犯したくないらしく、手を組むことは慎重気味だ。
「どうする、協会に言って人を寄越してもらうか?」
黎の提言に、仁は緩く首を横に振った。
「万年人手不足なんだ。本当に鬼が手を組んでるか確証が得られていないことに、人員を割くとは思えない」
「頭固い年寄りばっかだもんなぁ」
顔を隠しお高い椅子にふんぞり返って、あれこれ口うるさく命令してくる上の連中を思い出し、黎はケッ、と吐き捨てる。
自身の能力自体は大したこともないくせに、平安時代から続く由緒ある家柄ということで、長年その地位に君臨している年寄り共だ。
時代遅れの考えに固執し、融通が利かない。
「ま、人が要りそうになったら連絡してこい。来てくれそうな奴に適当に要請するから」
「それ、後で本部にバレたら面倒なやつじゃねぇか」
「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」
悪い笑みを浮かべる黎に、仁は口元を引き攣らせる。
敵には回したくないと、心の底から思う仁であった。
「ん」
その時、読み終えた資料を綺麗に揃えて琥珀は机の上に置いた。
鬼を複数相手にするかもしれないことに変に気負ってはおらず、いつも通りの態度だ。
「とりあえず、そのダンススクールには明日にでも様子見に行くとして、今日は帰るわ。それでいいか、琥珀」
「あぁ」
「え、様子見だけ? 潜入しないのか?」
資料を片付けようと立ち上がった黎が、わざとらしく首を傾げた。
仁の眉間に微かに皺が寄る。
「何が言いたい」
「いやぁ? そういえばお前が潜入調査してるってあんまし聞かねぇなぁっと思って」
「・・・確かに」
琥珀が静かに同意した。
物言いたげな、じっとりとした金目が仁を見つめる。
琥珀にばかり潜入調査をさせていた自覚のある仁は、その目から逃れるように顔を背けた。
口ごもる仁に畳みかけるように、黎は告げる。
「そのダンススクールって男専用のスクールだし、今回チビちゃんは無理だろ。男装させてまでチビちゃん行かせる気か?」
琥珀なら似合いそうだが、流石にそこまでさせてまで潜入に行ってもらう必要はない。
逸らしていた視線を相棒にチラ、と戻せば、彼女は一体全体どこから出したのか二冊の本を両手に掲げて仁を凝視していた。
表紙には『もう運動音痴とは呼ばせない! 目指せプロダンサー』と、『こんにちは華麗な足さばき!』とそれぞれ記載されている。
黎に至っては、大型のモニターに初心者向けのダンス動画を引っ張り出して仁に見せつけている。
期待の込もった二対の瞳に集中砲火を浴び続けた仁は、肺が空っぽになるまで溜息を吐き、そして脱力した。
ダンスってかっこいいですよね。
私は全然できませんが・・・。




