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第一話 【死の王都】

 かつて美しかった事が伺える、今は荒れ果てた石造りの都。人々の笑顔の溢れた通りには、死んだあとも動き続ける死体が溢れていた。


「クソアンデッドどもめ、こんな時に湧いてきやがって……」

「どうする…? これじゃ脱出できないぞ」


 それなりの作りの皮鎧と、小型の盾と剣で武装した者達が動く死体達から隠れていた。

 アンデッドの中でも、ゾンビ種は特に音に敏感だ。さらに旧メイリス王国域のゾンビは、なぜか満ち溢れる不浄の魔力によりあまり腐敗していないゾンビの上位種、【グール】となっており移動速度が速い。一度見つかってしまうと、かなり本気で逃げなければあっという間に亡者の餌食になってしまう。


「仕方ない、少し休んでから強行突破するしか無いだろう。音を立てないようにしろよ」

『了解』


 そうして、野盗にも軍人にも騎士団にも見えない者達は休憩を始めた。

 彼らの職業は【冒険者】である。2()0()0()()()には存在しなかった、遺跡やダンジョンを調査し、モンスターを狩る傭兵のような職業だ。


「さて、脱出したらさっさとギルドに行って、こいつを換金するぞ。【鑑定】のレベルが追い付いてないのか良くはわからないが少なくとも金だ、高いに決まってる!」


 そして彼らの手の中には、美しい王冠があった。その輝きは見るものを魅了し、【鑑定】()()()の結果を見て必ず持ち帰ろうという気持ちにさせるが……彼らはそこで、この場所がどこかを思い出さなくてはならなかったのだ。

 だが、その機会は失われ、もはや彼らが生き残る目は無くなってしまった。


「………ん? 何か近づいて来てないか?」


 斥候担当の背の低い男が全員に警告を発した。 耳を澄ますと、確かに金属同士がぶつかるような音が近づいて来ている。


「バレてはいないだろうが、あんまり接近されるのは不味い。 休憩は終わりだ、移動するぞ!」


 信用されているリーダーの決定に誰も逆らうことはなく、すぐに立ち上がり移動の準備を始める。 しかし時すでに遅く。

 カシャッ、カシャッ、カシャッカシャ……


「お、おいこれって………!」

「バカ静かにしろッ!」


 その音はあっという間に隠れている建物の目の前まで来て止まった。そして……


「!?、避けろ!」


 強大な魔力の収束に気づいたリーダーが叫んだが、建物の壁を突き破った青紫の波動の方が圧倒的に速い。


「ギャァァ!」

「あ゛ッ………」


 様々な悲鳴が上がった。壁を吹き飛ばしつつ飛んできた、見たことの無い色の魔力弾。腕や脚を吹き飛ばされた者、破片の散弾を受けた者、頭に直撃した者……。様々なダメージを受けたが、そこで即死出来た者はまだ幸運だった。


「………………」


 他のグール達よりもさらに生者に近い見た目の、銀髪の少年。永い時が流れてなお劣化していない美しい鎧。そして、明らかに支給品などではないとても華やかながら機能的な剣。

 彼が無言で動けなくなった冒険者達を指差すと、周囲にいたグール達が一斉にそちらを向く。


「え……あ…………」


 負傷による痛みに加え、絶対に見つかってはいけなかった存在と、その上位の存在に発見されてしまった恐怖に動けなくなった冒険者達は、なす術もなく死者の波に飲まれて行く。それを眺める銀髪の少年のグールは光の渦に包まれ……。



◇◇◇◇



「……………? あれ……ここは?」


 あの終焉の日の後、()が再び目を覚ましたのは、崩れかけていた王城の広間ではなくボロボロになった町並みの中で、しかも目の前には異様な魔力を感じる人間のような何かがいる。


「そうだ……姫様は!?」


 何故かはわからないが再び目覚めたのだから、あの日約束した主君を探す……最期の時までとなりにいたはずの彼女を。


「どこにもいない……というかこの死者達はもしかして……」


 ほとんど朽ちていない服は、どう見てもメイリス王国の文化の服である。そして、今までに無いほど軽く、冷たい己の体。それにある予感が脳裏をよぎる。


(もしかして……いやでも、あり得ない。人間が死後再び自意識を取り戻すなんて………)


 自分はもう死んでいて、アンデッドとして蘇ったなどという荒唐無稽な予感を振り払う。しかし、すぐにそれが真実であるということを理解した。


「まだ仕留めていない特殊なアンデッドがいたか。 巡回しておいて正解だったな」

「おそらくこれで最後でしょう。 こいつ以外もう20年も発見されていなかったんですから」

「それにこれは……冒険者か」

(特殊なアンデッド?………僕のことか?それになんだろう、ボウケンシャって)


 聞こえてきた良くわからない言葉を理解しようとしたが、彼にそんな時間は与えられなかった。


「はあっ!」

「ッ!?」


 ギャリィィン!と音を立ててぶつかり合う剣。初撃を防ぎ、突然背後から斬りかかってきた男を観察する。見覚えのない形状の鎧に、見たことの無い顔立ちは、()()()に強い違和感を感じさせていた。


(なんなんだこいつらは……帝国剣技に似ているけれどすこし違う。我流の傭兵? でも傭兵にしては装備が良すぎる!)

「あなた達は何者だ!突然に斬りかかってくるとは、暴漢の類いか!?」

「ほう! 喋るグールか、今までで一番珍しい個体だ!」

「隊長! 喋ってる場合じゃ無いですって、呪いとかかけられたらどうするんですか!」

「グール……? 呪い?」


 斬り結びながらも目の前の騎士風の男達が言ったことに目を見開くエイス。しかし、複数の魔力反応が近づいて来ていることに気がつき再び思考を中止する。


「まさか帝国騎士……?」

「良くわかったな! やはり旧メイリス王国のゾンビ種は脳が腐っていないと見る!」

「何バカなこと言ってるんですか、みんなと一緒に倒しますよ! こいつで脅威度の高い()()()()()は最後なんですから!」

「モンスター……じゃあやっぱり僕は……」


 エイスは自身の身に起きた変化の理由を知り、そして誓いを思い出した。


「例え死んだ後でも、僕は姫様を守り、この王国を復興させると誓ったんだ。 だから………まずはあなた達を、殺させてもらう」

「何をゾンビ風情が世迷い事を………なっ!?」


 決意を固め、エイスは自身の十八番、反発魔力を解放した。そして手始めに奇襲するためか芸もなく背後から進んでくる数名を目標とした。


「ふっ!」

『!?』


 重低音を響かせ、振り向き様に剣を振り、その魔力を飛ばす。胴体や頭部を爆散させ、すべての騎士を即死させた。


「チッ、やはりアンデッドはアンデッドか……生者に嫉妬するとはな」

「嫉妬? 卑劣な帝国に嫉妬する者は、この国にいないよ」

「何ッ!?」


 モンスター(人ではないモノ)となったエイスは、人間としてのリミッターが外れさらに強化された身体能力を駆使し、無礼な発言を繰り返す【隊長】と呼ばれた者と共にいた男を一撃で地面ごと両断した。


「スローン!? 貴様!」

「うるさい黙れ!」

「カッ………!」


 スローンと言ったらしい副官を殺され激昂した隊長の首を()ね、生きたものはいなくなった。すると突然、


《戦闘終了、経験値獲得。グールナイト、個体名エイス・アルヴァのレベルアップを確認》

《進化可能。また、自意識の復活を確認。 ステータスより進化が可能です》

「進化? ステータス? なにそれ? というか誰??」


 人を殺したのに、あの時の吐き気が全く襲ってこない事にもう自分は人では無いのだと、すこし寂しくなっていたエイスはその声に面食らった。


《ステータスオープンと祝詞を上げれば展開されます》

「………えっ、終わり? 誰なのかは答えてくれないの!?」


 そこからは一向に何も聞こえてこないため、諦めてステータスとやらを見てみることにした。


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