第六話 破滅の歌
頑張ってる(?)
「団長!」
「エイスか! 姫様も!」
遠回りして主戦域を抜け、少し安全な位置に到着したエイス達は、そこに指示を出しているフェルシアを見つけた。
「何があったんですか団長! 姫様を送ろうと外に出たら突然爆発が……」
「見れば分かるだろう、謎の賊の奇襲だ。………どこかとの戦争で見たことのある鎧を着た、見たことのある剣を持ち、炎を吹く黄金の龍の紋章を着けている者達が主力の、な」
美しい顔をしかめつつ、彼女はそう語る。そして、エイスは眉間を押さえシルフィは顔を真っ青にする。
炎を吹く黄金の龍の紋章。そんな物を掲げる存在などひとつしかない。
「キャバリス帝国ですか……」
「それも、おそらく騎士団だ。連度が高すぎる」
キャバリス帝国は、おびただしい量の軍ととてつもない連度を誇る騎士団、その二つを巧みに使い様々な国を滅ぼし併合した軍事国家である。
「ですが、今までは国境で迎撃出来ていたはず! なぜこんな後方に、それもよりによって王都に……!?」
「それは私にも分からん。 しかしこんな呑気に話している場合ではないぞ!」
「そうでした! それに陛下は!」
「陛下は……最初の爆発でな」
その言葉は悲壮感にまみれていた。
「まさか……!?」
「正確にはまだ生きておられるし、後方で処置をしている。だがあれではもう……」
「そんな……パパ!」
シルフィはたまらなくなったのか駆け出した。
「団長、魔力剤はまだありますか?」
「私もかなり魔法と魔剣を使ったのでな、これが最後だ。ほら」
「ありがとうございます」
それを一気に飲み干したエイスは、魔力を滾らせつつ前線に歩く。あまりの量に、目からは青紫の光が溢れる。エイスの通った後には、少しだけその光の線が残る。
「エイス……?」
異変を感じた彼の同僚はそう問いかけるが返事はない。代わりに、
「みんなを下げてくれないかな? 事故が怖いから」
とだけ言った。エイスの言葉に、これから何が起こるかを悟った彼は通信魔法を使って全部隊に後退を呼び掛けた。そして後退していく兵士や騎士は、エイスの様子に驚きつつさらに急いで後退していく。そして最後の一人がエイスの脇を通りすぎた時、
「全員、吹き飛べ!」
垂れ流していた魔力を腕に収束させ、全力で振るった。すると、その魔力は前方に飛び、凄まじい青紫の衝撃波となって前方のみに撒き散らされた。
『ぐぁぁぁあぁぁ!?』
全ては薙ぎ払われ、それに巻き込まれた帝国騎士団と思わしき賊は、悲痛な悲鳴を上げ吹き飛ばされた。
そしてその方向には壁はなく、抵抗することも出来ずに全員落ちていった。
「………ふう」
目の前の凄惨な光景から目を背けつつ、魔力を一度に大量に使った反動に息を吐く。
大量の赤い液体と、大量に散らばる人間のパーツ。高価な鎧を着られなかった本物の盗賊や傭兵達のいた痕跡だ。
「姫様、僕は………」
血生臭い空気の中、戦を知らなかった少年は涙を流す。
◇◇◇◇
「パ……お父様!」
普段ならはしたないと叱られる、エイスに無理を言って聞き出した速さに特化した走り方で医務室に駆け込んだシルフィ。そこには重度の火傷と裂傷を負い、息も絶え絶えになったヴぇイランの姿があった。
「シルフィ……無事だったか。やはり私の勘は正しかった……」
必死に処置を行い、王の命を繋ぎ止めようとしている医師を手で制し、彼は自らの娘に……唯一の跡継ぎに言葉を託す。
「おそらく帝国は我々を滅ぼす算段が付いたのだろう、でなければこんな大胆な攻撃を仕掛けてくるはずがない」
「そう……ね。でもどうして………」
頭に置かれ、あるいは自分が握っている大きな父の手から熱が失われて行くのを感じながら、シルフィは言葉と涙を漏らす。
「それはわからん。だが、これは私の口で言わなければならない言葉だ。………この冠は、今このときからお前の物だ。彼と共に守ってくれ」
自分の隣に置かれた、魔術の火球の直撃を受けてなお無傷のメイリス王国の国宝である冠。それを託し、そこで彼の手からは力が失われた。
「パパ!」
「陛下!お気を確かに、今お眠りになられては、もはや目覚められませんぞ!」
必死の呼び掛けに、最期の気力を振り絞り彼は告げる。
「………帝国が……どんな兵器を持ち出すか、あるいはどんな………魔術を用いるかは私にも分からん。だが…」
気力が尽きたのか苦しそうにしながらもその言葉を絞り出す。
「……もし無理なら……一度滅びてしまっても構わん。 いつか、復興すれば良いのだ……頑張れよ、……我が最愛の娘よ………」
それっきり、彼の目は開かれず、腕はもはやガントレットを振るわない。メイリス王国、歴代最強にして最も切れ者と言われた国王、ヴェイラン・ライ・メイリエスは最も優れた医師と最愛の娘に看取られ、あっけなく最期を迎えたのである。
◇◇◇◇
エイスが全てを吹き飛ばし、戦闘が終了したパーティー会場だった広間。負傷者の治療と戦死者の遺体の運搬が行われている場所に、二つの影が現れた。
「……?、姫様!」
最初に気がついたのは、魔力を体内に巡らせ精神の安定を図っていたエイスだった。
涙の痕があるシルフィと、同じく涙の痕跡を残した宮廷医師。そして、医師の手の中にある黄金に輝く王冠。それだけで、その場にいた者全てが理解した。
「国王ヴェイラン・ライ・メイリエス陛下は御隠れになられた! 今、この時よりメイリス王国を統治するのは、女王シルフィ・ラファ・メイリエス陛下である!」
宮廷医師の宣言に、すべての騎士は跪き、軍人は最敬礼を持って答えた。国民には非公式ながら、すべての武官、そして居合わせた文官に認められた女王が誕生したのである。
しかし。現実とは非情な物なのである。特に戦争に関することは。
《………豬√l豬√k繧九⊇繧阪ン縺ョ繧ヲ繧ソ繝ィ、莉翫%縺ョ蝨ー縺ォ貅カ縺代ヲ繧阪′繝ャ。謌ヲ縺ォ謨励l縺励お繝ウ蝸溘ヮ髴翫h、蜈ィ縺ヲ繧帝%騾」繧後↓闕偵l迢ゅ∴………》
どこからともなく詠唱が響く。全方位から聞こえるおぞましい声。そして浮かび上がる深紅の光。
気がつけばいつの間にか部屋の中心には猫がいた。白い毛並みに、紅い瞳。爛々と輝かせ、ついにはその身体は溶けて無数の光の線となった。
「なんだこれは!」
シルフィに冠を被せようとしていた医師は、突然の事態に狼狽している。
その間にも光は強さを増し、線は魔方陣へと姿を変えていく。
「これは……不味い!」
魔力が高まるのを感じたエイスは、反射的に自分の張れる最高強度の魔力障壁を展開した。もちろんシルフィの周りにである。
《………莉翫%縺晞。慕樟縺帙h!!》
そして、ついにその陣は効果を発揮した。
「グッ……なんだ、これ、は!」
「魔力が……失われて行く!?」
「ガっ、あ……あぁアぁァア゛!?」
騎士、兵士、非戦闘員。全て関係無く苦しみ、倒れ伏して悶えている。
魔力とは生命の根底に存在する、なくなればどんな生物でも死滅してしまう最も大切な物だ。それが急激に失われる、それはつまり死が近づいて来るということだ。
「そんな……!? みんな!」
「姫様……そこから、で、出ない……で、ください!」
同様に苦しみつつも、エイスは障壁に魔力を込める。しかし、それは無駄でしかなかった。
例えどれだけ強固に構成された障壁であろうとも、魔力が無くなってしまえば崩壊してしまう。現に、その最後の安全地帯を守る壁には無数の罅が入っていた。
「クソッ………そんな………!」
どれほど強大な魔力でも、それは人の身の中ではの事。総量が竜と変わらずとも、回復速度が違うように、ついにエイスの障壁は瓦解した。硝子の砕け散るような音を立て、死はシルフィにも襲い掛かった。
その苦しみに倒れそうになりながらも、彼女は自分の大切な騎士にして、愛する人の下へ向かう。
「エイス……聞いてくれる?」
「………こんな不甲斐ない騎士、でも、よろしければ」
魔力欠乏による苦痛の中、それでも二人は言葉を交わす。
「パパは……滅びても、復興すれば良いのだ、って言ってたの。だから………」
「………」
「またいつか………出会えたら。その時は、この国の復興を、手伝ってね?」
「………えぇ。次があるならば………例え死しても、あなたを全てから守ります」
物言わぬ遺骸となった者達の中心で、少年と少女は誓いを立てた。そして、ついに動くものは無くなった……。その死体が再び起き上がるまでは。
◇◇◇◇
その日世界に激震が走った。アルメアで最も栄えた超大国、メイリス王国がたったの一夜にして消滅した、という情報が知れ渡ったためである。
原因は不明だが、恐らく禁呪【破滅の歌】によるものとされている。
破滅の歌は、死した魂を利用し、領域内の全ての生命から魔力を奪う恐ろしい禁呪だ。領域の中にある肉体を失った魂を原動力に発動し、全ての生命を殺し尽くすまで止まらない正真正銘の破滅の呪文。
そして、その効果はそれだけに留まらない。破滅の歌により死んだ者は全て、例外無くアンデッド………動く屍となるのだ。魔力は奪い尽くされ、魂は天に昇ることも、消滅することも許されない。
太古の賢者達が禁呪に指定したのは、その恐ろしさ故である。
旧メイリス王国領内にはアンデッドが溢れ、メイリス王国に成り代わり世界の覇者となったキャバリス帝国の者達にとって驚異となっている。
王国側が切り札としていたところの暴走か、あるいはキャバリス帝国の攻撃か………第三国によるものの可能性もある。しかし、それによりメイリス王国は一夜にしてその呼び名を夢の王国から変貌させた。
【死の王国】と。
ストーリーが雑になってしまったかも?
ですがこれはあくまで背景を書きたかっただけなので、この次から本編って感じのつもりです。お楽しみに!()
↓下の方の☆を★に変えたり、いいね!をしていただいたり、感想をいただけると作者のやる気が上がります。どうぞよろしくお願いします!( `・ω・´)ノ