第五話 夢の崩壊
そろそろタイトルに則らないと……ね?
その日、メイリス王国にはまたいつもと同じような平和な1日が流れていた。そして、その平和はいつまでも続くと、誰もが疑っていなかった。
その時までは。
◇◇◇◇
---???ーーー
光源は蝋燭ただ一本だけの暗い部屋で、魔術師のような服装の男は冠を被った主君の前に平伏している。己の主は、自分が渡した手紙を読んでいた。
「報告は以上でございます。いかがいたしましょう」
帝冠を被った主君は答える。
「実行せよ。我らが悲願を………彼の王国の滅亡を達成するのだ」
「はっ!」
彼らの悲願………それはメイリス王国の滅亡、そして、名誉の破壊。
そこに当然のように存在した猫が、その赤い眼を煌めかせていた。
◇◇◇◇
メイリス王国王都【アル=メイリアス】にある王城にて、1ヶ月に一度のパーティーが行われていた。
王都やその周辺に住む貴族は参加が義務付けられており、さらに2ヶ月に一度は国中の貴族が参加しなくてはならない。そしてこの日は2ヶ月目であった。そんなパーティーで。
「……なぜここにいるのですか? 姫様」
王族に会い、その忠誠心を試される場において、国王の隣にいなくてはならない王太女の姿は、なぜか近衛騎士の待機スペースにあった。
その事に当たり前ながら疑問を覚えた休憩兼食事中のエイスはそう問いかける。
「良いの! もう少ししたら戻るし、これはパパが『行ってきたらどうだ?』って言ったからだし!」
「陛下は何を考えてらっしゃるんだ……? 警備はどうしても薄くなるんですからあんまり会場から出ないでくださいよ……」
無駄だと思いつつも苦言を呈するエイス。国中の貴族が一堂に会するパーティーであるため、近衛騎士による警備だけでなく、通常の騎士や戦闘メイドなどの警備、さらに軍まで出撃している。
とはいえ、会場から少し離れている待機所では警備が薄い。そんなところに、自国の跡継ぎが一人で歩いて来るのだ。心配になるのは当然である。
「でもそろそろ戻らないとかな~……騒ぎになっちゃうと大変だし」
「それが良いでしょうね。 ちょうど良いので道中は僕が護衛しますよ」
「やった!」
仕方の無い姫様だと苦笑しつつも、エイスはその主に与えられた名剣を腰に下げる。そして建物を出た途端に、ドゴォォォン!という轟音が閃光と共に鳴り響いた。
「なっ!?」
「きゃあ!!」
凄まじい風にあおられつつも、吹き飛ばされそうになったシルフィを抱え魔力障壁を展開したエイス。その瞬間ガン!という音が連続して鳴った。
魔力障壁は純粋な体内魔力を外部に展開して壁を作り出す技能だ。
魔力を持つ者は性能に差はあれど大抵が使える能力で、魔力の性質がモロに影響するため、エイスの魔力障壁は反発の性質を持つ。簡単に言えばとてつもなく強力な盾になるのだ。
そんなエイスが、
(……!?、重い………!)
凄まじい勢いで障壁が削られて行くのを感じていた。それはつまり、超重量の物体が高速でぶつかっているか、強力な魔法攻撃を受けているということだ。
(一体何が起こっているんだ!?)
「エイス大丈夫!? あなたの魔力が凄い勢いで減ってるんだけど!」
シルフィも防衛大国メイリス王国の王族、とても腕の良い魔法の使い手で、相手の魔力量をある程度見ることが出来る。 そして、そんな勢いで魔力を減らすエイスを心配するのも当然である。
「まだ大丈夫です! ですが万が一の時のために障壁の準備を!」
「わ、わかった!」
だが、彼女が障壁を張ることになる前に衝撃の嵐は止んだ。
「はぁ、はぁ、……収まったか………」
「良かった……大丈夫?」
「なんとか、ですね。………って、なんだこれは……!」
謎の暴威をいなしきった彼らの前には、ついさっきまでの光景とは全く違う地獄が広がっていた。 茂みは燃え、大小様々な大きさの岩の欠片が落ちている。そして、美しかった城は半壊し煙を上げており、少し遠くからは怒号と金属のぶつかり合う音が聞こえてくる。
「そんな……!」
「陛下や貴族達は大丈夫でしょうか……!」
彼らは急いで城に向かっていった。
◇◇◇◇
「手当たり次第に殺せ! 出来高制、ようするに殺した数だけ報酬が上がる! 行けぇ!!」
「陛下を守れ! 私兵達は自分の主を守ることに集中せよ! 軍は可能な限り賊を仕留めろ!」
そこはまさに地獄の底のようだった。 騎士達は盾で誰かを守り、軍は武器で敵を倒しに行っている。
賊は賊で異常に質の良い装備を身に付け、さらに数を頼りに手当たり次第に武器を振るっている。
「これは……!」
「みんな!」
「ダメです姫様! あなたをあんな場所に行かせるわけには!」
「でも!」
助けに行こうとするシルフィを強い意思で必死に止めるエイス。しかしそんなことをやれば敵も気がつく。
「なんだ隠れてやがったのか? 死ね!」
「チッ、お前がな!」
「ギッ!?」
普段ほとんどやらない舌打ちをしつつ、逆手に抜き放った剣でその賊の首を切り飛ばす。
しかし、エイスが本物の戦場に出たのはこれが初めてである。今まででは訓練とシルフィの護衛で、せいぜい暴徒を鎮圧する程度のことしかしていない。
つまり人を殺すのもこれが初めてなのである。
「うっ……」
吹き出る血液、剣が首の肉を切り裂く感覚に吐き気を催すが、それを押さえ込む。
代わりに顔を青くしているシルフィを落ち着かせることに注力することにして、さらにおそらく王を守っていると思われる近衛騎士に合流するために移動を始めた。