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第二話 国王陛下(仕事モード)

「まぁ僕が面会というか謁見と言うか、そういう申し込みをしてもほぼ無理ですがね」


と、エイスは苦笑しつつ言った。エイスは近衛騎士なので、騎士としては最高に限りなく近い権力がある。しかしそれはあくまで騎士の中での話だ。メイリス王国において近衛騎士とは子爵とほぼ同等の扱いを受ける。そのため、男爵が近衛騎士に不当な扱いをすると、かなりの確率で男爵が裁かれてしまう。それほど強い権力を持っていても、所詮は子爵並み。国王に謁見を申し込んだとしても、長い間待たされるのがオチだ。それならば、護衛任務が回ってくるのを待った方がよっぽど早い。


「うん、だから私が会いに行くよ」

「あれ?さっきまで猛烈に嫌がってませんでした?」

「もちろん嫌だよ?でもエイスも一緒に来てくれるんだよね?」

「………えっ」


そしてシルフィは花のような笑みを浮かべると、エイスの手を取り、


「さっ!行こ?」


と、そのまま腕を引っ張った。


「えっちょっ、うわぁぁぁ!?」


魔力で強化していたのか、なんとシルフィは気を抜いていたとは言え鎧を着たエイスをその細腕で引きずり始めた。こうなってしまってはもうエイスには止めようが無い。無理やり止めてシルフィが転ぼう物なら護衛失格である。そのため仕方なくシルフィに並走し始めた。


「シル……姫様!こんな所陛下に見られようものなら、それこそ本気でお叱りを受けますよ!?ちょっ、止まってください!」

「~~~~~~♪」

「この人聞いて無い!?」


何故かご機嫌なシルフィの暴走に、エイスが本気で慌て始める。それは何故か。言ってしまえば護衛はエイスで無くとも良い、と言うよりも男のエイスよりも女性の近衛騎士をつける方が、女王となるはずのシルフィの護衛としては普通なはずなのだ。だがそれでもエイスを護衛にするのは、シルフィはエイスの言うことなら大抵は聞くからだ。そのため……



※※※※



『エイスよ、もしシルフィが何かやらかし始めたら、お前が言って聞かせてくれないか?』

『はっ?はい、………?』

『あの子はお前の言うことなら大体聞くだろう。父としても国王としても不安ではあるが……お前なら大丈夫だと信じている。多少叩いたりしても構わん。だから、頼むぞ』



※※※※



と、ヴェイラン本人に呼ばれて頼まれる、と言うよりも実質命令されていたのだ。そのため、


「姫様!あぁもう!よっ!」

「わぁ!?」


ひょいっ、とエイスは走りながらシルフィを横向きに抱えあげた。所謂お姫様抱っこだ。


「え、エイス!?ちょ、は、恥ずかしいから下ろして!?」


エイスは減速して最終的に立ち止まり、


「全然止まっていただけなかったので、少々強引に止めさせてもらいました。走っているところを見られては、陛下に叱られますよ?あなたはこの国の姫で、次期女王なんですから。淑やかにしなければ」


と、シルフィを諭した。


「うぐっ………ごめんなさい」

「はい、では陛下の元へ向かいましょうか。……本当に向かっても良いのか分かりませんが」


シルフィを下ろし、苦笑いを浮かべながらエイスはそういった。



◇◇◇◇



「姫様!?」

「お部屋で勉学に勤しんでおられるのでは……!?」

「えぇ、でもどうしても分からないことがあったの……。だからお父様に教えて頂こうと思って」

「な、なるほど……。陛下にお伺いしますので、少々お待ちを……」


国王の執務室の前に到着、その豪華な扉の前に立ち、警備していた二人の騎士は、姫の登場に盛大に驚いていた。二人のうち片方がヴェイランに報告に向かい、もう一人は警備を続行することにした。


『入れ』


と、扉の中から声が聞こえた。そのためエイスはシルフィの前に出て、そのとても重い扉を開いた。


「失礼します、お父様」

「エイスも入るように。俺が許可する」

「はっ!失礼します!」


そうして二人は、先に報告しに行った騎士と入れ替わるように執務室に入って行った。


「それで?わざわざ俺の所に来るとは、あの教師はどうしたんだ」

「ファルーシ先生は本日お休みの連絡が入っております。高熱が出てしまったらしく、もし病だった場合に姫様に移さないように、とのことです」

「なるほど。後で医者を行かせるか。政治学だったな、見せてみろ」


そうして、ヴェイランは執務中でもガントレットを着けたままの手を出してきた。


「ここが……………で、…………がよく分からず…………」

「なるほどな。………は………………のようにするのが……………」

「なるほどぉ…。エイスはどう思いますか?」

「私ですか!?………これは私なら………………」


何故かエイスも意見を求められ変な声を出してしまったが、自分なりの意見を述べ、それがかなり良い意見だったのでヴェイランが感心したり、そのまま王としての振る舞い方の話へとシフトしていったりしていた。



◇◇◇◇



「お父様、ありがとうございました!」

「あぁ、理解が出来たようなら何よりだ。………所で、シルフィよ」

「……?」


ヴェイランはその顔に貼りつけたような笑みを浮かべ、青筋も浮かべながら、


「エイスを引きずりつつ廊下を走っていたと言う報告が来ているのだが?どう言うことだ?」


と、優しい声で問いかけた。シルフィはギクッ、と体を震わせ、


「あ、えっと、その……」


と、なにか理由を上げようとしながらエイスに助けを求めるように視線を向けた。が、


「…………(じー)」

「……………(スッ)」


ヴェイランに笑顔を向けられたエイスは、スッと視線を反らし、その助けを求めるような目を見ないようにした。


「エイス!?」

「なんでもエイスに助けを求めようとするんじゃない!説教だ、とりあえず座れ!!」

「そんなぁ!?」


その後、1時間ほど説教は続き、エイスは離れるタイミングを逃してしまったため、それに付き合う羽目になったという。



◇◇◇◇



「なんで見捨てたのエイスぅ!!」

「いやシルフィ様!あれは無理ですって!?僕はしがない近衛騎士ですよ!?陛下に『お前は黙ってろよ?』とでも言うような視線を向けられたら何も出来ません!」

「うぅぅうぅぅぅぅ!!」

「ちょっ、姫様!お手が傷つきます!鎧を叩かないで下さい!?」


ポコポコと鎧を叩くシルフィに、鎧が恐ろしく硬い上に鋭く触れれば怪我をする可能性がある事を知っているエイスは慌てた。そのため、


「分かりました!僕が悪かったですから!落ち着きましょう?ね?」


と、シルフィを落ち着かれるために一旦手甲を外して、シルフィの頭を撫で始めた。


「うぅーー……!」

「!?泣かないでぇ!護衛対象な上に姫様泣かせたら僕処刑されちゃいますって!?」


さらに不味い事態になり、エイスもエイスで限界が来ていた。ちなみに、こんな光景を貴族等が見れば、エイスとシルフィはどういう関係なのか、調べようとするものも、調べずに誤解するものもいただろう。だが周りには人がいなかったのが、エイスにとっての幸運だろう。



◇◇◇◇



「…………落ち着きましたか?」

「………………」

「姫様?」

「………」

「……寝てる?」


シルフィは泣き疲れて寝てしまっていた。エイスも既に疲れきっていたが、シルフィを部屋に連れて帰り、交代要員と交代するまでは休めないし、絶対に寝てはいけない。そのため重い足取りで、シルフィの部屋に向かった。シルフィをお姫様抱っこしながら。



◇◇◇◇



「どっ、どうしたのよエイス!?それにその状態は!!?」


既に部屋の前に来ていた交代要員の女性近衛騎士は、疲れきった表情のエイスと、そのエイスにお姫様抱っこされたまま寝ているシルフィを見て仰天していた。


「あぁ、先輩…………いや、ちょっと陛下と姫様に政治学の意見を求められ、そのまま陛下からの姫様への説教に巻き込まれ、姫様に泣き付かれまして…………」

「えぇ……?どう言うこと…………?」

「とりあえず姫様を頼みます………そろそろ休ませてください…………」

「あっはい」


死にそうな顔でそう言われては、流石に問い詰める気も失せるようで、その騎士は混乱しつつもシルフィを受け取り、部屋の中に入って行った。そして一人残されたエイスは、


「……………装備の手入れしたら寝よう。自主訓練は明日の朝で………」


と、呟きつつふらふらと覚束ない足取りで去っていった。





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