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第一話 メイリス王国

 メイリス王国王城の謁見の間には、野太くも悲痛な男の悲鳴が響いていた。


「シルフィィィ!シルフィは、娘はどこに行ってしまったんだぁぁぁぁ!!」

「へ、陛下!落ち着いて下さいませ!!手甲(ガントレット)を着けたまま暴れな…………ギャァァァ!?」

「ル、ルスター!?……御乱心!国王陛下が御乱心だぁぁぁ!!」

「チクショウ!姫様はまだ見つからないのか!?このままじゃ陛下によって死人が出かねんぞ!!」


 大慌てである。それもそのはず、メイリス王国現国王『ヴェイラン・ライ・メイリエス』は、歴代最も武闘派と言われており、その拳はアダマンタイトを粉砕するとも言われているのだ。

 流石に素の拳では木材しか砕けないが、魔力で強化したり、今着けているガントレットを装備した状態なら実際にアダマンタイトすら打ち砕ける。アダマンタイトは現状人間が加工できる最硬の金属なのだ。

 そんな威力の拳なのだから、近くを通りすぎただけで人は吹き飛ばされてしまう。結果、彼を落ち着かせようとしていた男は吹き飛ばされ、壁に激突する羽目になってしまった。


「誰かルスターを医務室に連れていけ!死ぬぞ!!」

「というかエイスはどこに行った!?あいつ陛下を止められる数少ない精鋭なんだぞ!!」

「『姫様を探してきます』って外に出ていったぞ!姫様は外に行ったのか!?」


 そしてそんな無茶苦茶になっている謁見の間に、ついにシルフィを連れたエイスが戻ってきた。


「へい……か………遅かった!」

「帰ってきたかエイス!早く止め……姫様!!」


 エイスにエスコートされながら戻ってきたシルフィに気づき、様々な意味で瀕死になっていた家臣の1人が歓声を上げる。


「「「姫様!?」」」

「御無事で………おわっ!!」

「シルフィィィィィ!!」

「キャッ!!」

「心配したぞぉぉ!もう黙ってどこにも行かないでくれぇぇ!!」

「あの……へ、陛下?姫様が苦しそう、というか陛下の筋力でそんなに強くハグをすると大抵の人間は死にます!ちょっ、もう少し緩く!本当に姫様が死んでしまいます!!」


 落ち着くかと思いきやさらに滅茶苦茶になってしまった謁見の間。しかし、こんな事を出来るほど、この国は平和なのだ。

 海を持たず、その獲得に躍起になっている巨大侵略国家『キャバリス帝国』に侵略されながらも、国の中心ではとても平和な国家。そのため、メイリス王国はこうも呼ばれる。



【夢の王国】と。



◇◇◇◇


「落ち着かれましたか?陛下…」


 ようやく平穏が訪れた謁見の間で、エイスがヴェイランに問いかける。


「あぁ、迷惑をかけたな………ルスターにはしっかりと謝罪をしなければな」

「医務室で『姫様は見つかったのか!?』と騒ぐくらいには元気ですが、少なくとも5ヶ所の骨が折れています。治療費は……」

「無論俺が払う。国庫の金ではなく、俺の資産でな」


 ヴェイランは落ち着けばしっかりした国王なのだ。だからこそ彼は慕われているが、彼の親バカ具合には家臣一同呆れていた。まぁ自分の唯一の跡取りなのだから当たり前だが。


「陛下ももう若く無いのですから、あまり気を昂らせないで下さいませ…。我々の心臓が持ちません」

「ハッハッハ!なに、あと40年は生きるさ!100歳までは生きたいからな!!」


 メイリス王国国王ヴェイラン・ライ・メイリエス、御年60歳。見た目は40代だが、もうなかなかお年を召しているのだ。


「しかし、エイスは相変わらず素晴らしい探知力だなぁ!俺が教え込んでしまったばかりに、普通の兵士や騎士では気配を探せなくなってしまっているからなぁ」

「ははは……今回は猫がいなければ見つけられ無いところでしたけどね……」

「んん…?まぁ良いか。とりあえず皆、ご苦労だったな。仕事に戻ってくれ。シルフィは……今日はもうエイスを護衛に部屋で勉学していなさい」

「「「「イエス・ユア・マジェスティ!」」」」

「はーい」


 全員のぴったり揃った返答に、とても軽いシルフィの返事がアンマッチだった。この緩さもメイリス王国の良いところであり、少し問題なところでもあった。



◇◇◇◇



「んー…むーー……」

「……………」


 そして、シルフィとエイスはシルフィの自室でシルフィが政治学を学び、それにエイスが付き添い、護衛も担当するといういつも通りの日常を送っていた。


「むむむむむ………」

「……シルフィ様、分からないことがあるなら教師か、それこそ陛下に聞きに行きますか?そんなに考えても分からないんじゃ、聞いた方が進みも理解も早いと思いますよ?」

「うー…またパパに怒られる………」


 公式の場以外ではシルフィは父の事をパパ呼びである。


「そんなことで本当に怒るんですかねぇ?あの陛下ですよ?」

「こういうことに関しては怒るんだよぉ!」

「えぇ………」


 エイスの微妙に不敬な発言は置いておき、シルフィはどうしても誰かに聞きに行きたくは無いようだ。


「ちょっと僕も、その内容が気になってきました。見せていただいても良いですか?」

「えっ……はい」

「うーん……何となく分かるかも…?ですかね?」

「いやそんなこと聞かれても…って、分かるの!?」

「昔酔った陛下に帝王学を教えられた事がありまして、多少は…」


 エイスは特殊な事情で騎士として選ばれたため、他の騎士よりもさらに理解力が高い。そのため、帝王学を優先してあまり進んでいなかった政治学の初歩なら理解できたのだ。


「これなら僕でも解説できそうですが、何か違ったら困るので後で聞きに行きましょうね?」

「えー……」

「僕も付き添うので安心してください。ね?」


 エイスはそう言ってニコリと微笑んだ。シルフィは目を丸くした後、嬉しそうに頷いて、


「うん、頑張る!」


と答えた。




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