ナナ6
ナナ6
義母が亡くなって一ヶ月が経った。
美奈子は罪悪感に駆られていた。
あの時、すぐに救急車を呼べば助かったかもしれない。
自分はなんて人でなしなことをしたんだ。
でも、あれはあれで仕方なかった。
義母の運命だったんだ。
いろいろな気持ちが交錯した。
しかし、もう夫とは暮らせない。
この人の母親を見殺しにしてしまった。
夫もおそらく気がついているだろう。
しかし、以前と変わらず何事もなかったように接してくれている。
美奈子は夫が寝静まってから、そっと起き出した。
台所のテーブルに置き手紙をした。
『ごめんなさい。もうあなたとは一緒に住むことは出来ません。離婚届を置いていきます。娘をよろしくお願いします。』
そして、荷物まとめてあったボストンバックを持ち、一人で玄関を飛び出した。
美奈子は新宿に行き、西口公園でこれからどうしようかベンチに座り考えていた。
いつの間にか朝になっていた。
いい考えは浮かばない。
そのうち雨が降ってきた。
初めは小雨だったが、しだいに強くなり、土砂降りになった。
公園には大きな土管を横にしてある遊具があった。
美奈子はとりあえず雨をしのぐため、その土管に入った。
なかなか雨は止まない。
そのうちウトウトと寝てしまった。
「おーい、どうした、起きろ~」
急に大きな声がした。
美奈子は瞼をこすりながら、声をする方も見た。
女性が土管を覗いていた。
「あんた、なんでこんな所にいるの?」
美奈子は聞こえないふりをした。
女性は美奈子が聞こえないふりをしているのを気にせず続けた。
「あんた、美人だね。うちで働かないかい。行くところなければうちに来てもいいよ」
美奈子は戸惑った。
急に知らない人にそんなことを言われても付いて行く人はいないだろうと思い警戒した。
しかし、よく見るときちんとお洒落な服装をした綺麗な人だ。
悪いことはしそうにないな。
「うちは水商売。バーをやってんだ。ちょうどバイトを募集しているんだ」
美奈子は黙って女性を見た。
「大丈夫だよ。体を売ったりする店じゃないよ。スナックみたいなバーだよ」
女性は微笑みながら言った。
美奈子は信じることにした。
もう家には戻れない。
どこかに身を置かなければならない。
意を決して、土管から出た。
「よろしくお願いします」
美奈子は頭を下げて言った。
「あんた、いろいろ大変だったんだろう。なんでこうなったのかは言わなくてもいいよ」
その優しい声に美奈子は涙が流れてきた。
「頑張ったんだね」
女性は美奈子を抱きしめて、頭を撫でながら言った。