ナナ5
ナナ5
義母はその日からこの小さなアパートに居着いた。
台所と四畳半の部屋が二間あるだけだ。
その一室を義母が占領した。
二間は襖で仕切られているだけだ。
最初のひと月ほどは義母はおとなしかった。
しかしその後、徐々に本性をあらわしてきた。
娘が夜泣きをすると、義母は怒った。
「寝れないじゃないか、外に連れて行け!」
美奈子は夜中に娘をおんぶして、公園まで歩いて行った。
自然と涙が出てきた。
夫も一緒についてきてくれたが、義母には何も言わなかった。
また、しだいに食事についても文句を言い始めた。
「まずい、こんなしょっぱい味噌汁なんか食べさせるのか!」
お金も入れないくせに言いたい放題だ。
しだいに、美奈子はこの義母との同居に対して限界を感じてきた。
夫はしばらくの辛抱だからと言うが、家を見つける様子は全くなかった。
そんな生活が一年ほど続いたころだ。
美奈子は身も心も疲れ果てていた。
美奈子は娘と買い物から帰ってきて、台所で夕飯の準備をしようとしていた。
その時、義母の部屋からバタンと大きな音がした。
美奈子は義母の部屋に入った。
義母が苦しんでいる。
左胸を抑えている。
「美奈子さん、苦しい。救急車呼んで。早くして!」
義母が声を絞り出した。
美奈子は慌てた。
すぐに救急車を呼ばなければ。
台所に行き、携帯電話に手をかけた。
119を押そうとした。
しかし、押さなかった。
なんでコイツを助けないといけないんだ。
心臓を抑えている。
おそらく急性心筋梗塞だろう。
このままにしておけば、五分で死ぬだろう。
美奈子は襖を閉めた。
苦しむ声が聞こえる。
そして、しだいにその声も小さくなり、消えていった。
その時、夫が帰ってきた。
ただならぬ気配を夫はすぐに感じた。
「どうした、美奈子!」
夫は襖を開けた。
義母は口から泡を吹いている。
夫は心臓に手をかけた。
止まっている。
「美奈子!何で救急車を呼ばなかったんだ!まさかお前‥‥」
すぐに夫は119番に電話した。
救急車が来て、救急隊員が義母を見たが、首を横に振った。
その後、警察から美奈子は事情を聞かれた。
買物から帰ってきたら倒れていたと答えた。
警察は疑うこともなく、あっさりと事件性はない判断した。
美奈子は自分を守るために仕方がなかったと思い込むことにした。