ナナ13
ナナ13
その日は、涼子は一人で店番をしていた。
美奈子とナナはここの商店街の寄り合いに行っていた。
今日はお客さんが来ないなと思っていたら、ドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
涼子がドアの方を見た。
馴染みの客ではなかった。
涼子と同じくらいの二十代の男性だった。
もうすでに酔っ払っているのが分かる。
いつもはそうゆう客は美奈子やナナがあしらっていた。
しかし、今日は涼子は一人だったので、固まってしまった。
客は乱暴にカウンターに座り、涼子に言った。
「一番高いビールを出せ!」
うわー、なんだ、その言い方は。
「お客さん、うちはビールは一種類しか置いていないんです。それでよろしいでしょうか?」
涼子は恐る恐る丁寧に対応した。
「何で一種類しか置いてないんだよ!買ってこいよ!」
「申し訳ありません」
涼子はこれ以上この客が興奮しないよう願った。
しかし、この客は絡んできた。
「ダメだ、早く行って来い!」
その時、ドアが開いた。
ナナが帰ってきた。
「おい、あんた、外まで声が聞こえるぜ。うちは大声出す奴は客と認めねぇ!」
「何だ、オメエ!」
そいつはナナにつっかかろうとした。
その時、ナナの後ろにいた寄り合いに出ていた近所の男性が笑った。
「あれ、お前、確か有二じゃねえか。お前、ここはナナの店って知ってて言ってるのか⁈」
この男有二はナナと聞いて、酔いが一瞬で冷めた。
そして、改めてナナを見てのけぞった。
「知らなかった申し訳ないです‥‥」
「謝る相手が違うだろう。この子に詫び入れな」
ナナは涼子を指して言った。
「ごめんなさい‥」
そして、飛び出して行った。
「涼子、大丈夫だった?ごめんね、怖かったでしょう」
ナナは涼子を抱きしめた。
涼子はナナの体の暖かさにホッと安心した。
そして、梅雨が来る頃には、涼子とナナは昔からの親友のような関係となった。
美奈子も二人が仲が良いのをみて、嬉しく思った。