ナナ1
その日は一次会で飲み過ぎてしまい、珍しく酔っ払ってしまった。
しかし、帰る気がしなくて、飲み直そうと思った。
この街、新宿はあまり馴染みがなく、知っている店はなかった。
歩いて店を探していると派手ではないが、ヨーロッパにありそうなオシャレな感じのバーがあった。
涼子はそこに引き寄せられるように入って行った。
店に入ると客はいなかった。
カウンターだけの小さなバーだった。
女性のバーテンダーで、年は二十代の華やかな女性がいた。
涼子は彼女にウイスキーの水割りを頼んだ。
今日は一次会で飲み過ぎたかな、とつぶやいた。
そしてそのまま自然と目を閉じてしまい、深い眠りについてしまった。
涼子はハッと目が覚めた。
朝日が目に入ってきた。
見たことのない部屋のベッドにいた。
「起きたね、おはよう」と女性の声がした。
昨日のバーテンダーだった。
「あんた昨日は酔い潰れたんで、私の部屋に連れてきたのよ、ここはお店の二階だよ」
「あ、会社に行かないと。遅刻だ」と京子は飛び起きた。
「会社はもう行かなくていいんでしょう、昨日さんざん聞かされたよ、やっぱり覚えていないのか」とバーテンダーは少し呆れた感じで言った。
昨日の飲み会は涼子の送別会であった。
会社の上司と付き合っていたが、後輩の女性と結婚すると急に言われた。
二股をかけられていたのだ。
そして都合よく振られて、何もかもがバカらしくなり退職したのだ。
次の就職先も決めておらず半ば衝動的に退職願を提出した。少しは引き止められると思っていたのだが、あっさり受理された。
そのこともショックで、昨日はかなり飲み過ぎたのだろう。
「今日、ちょっと一時間ばかりお店の留守番してくれない?」
部屋に掛かっている時計を見た。
五時だった。
もしかして朝ではなく夕方の五時なのかと気がついた。
朝日だと思ったのは夕日だったのか。
「昨日は何と言ったら良いのか、すみません、お世話になりました」続けて「バーの店番はやったことないし私に出来ません」
「大丈夫よ、うちは常連客ばかりだから何とかなるから。よろしくね、携帯番号はここに書いておくから」と出掛ける支度をしながら言った。