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2. 獣人

遠くに川のせせらぎが聞こえ、意識を失う前に何が起きたのか一瞬忘れかけていたが全てを思い出し勢いよく起き上がると同時に頭をぶつけたようで強い痛みが走った。


「いった…って。ここどこだ。」


天井があまりにも低く驚いたが、ここは木の根に囲まれた穴のようだ。

165cmの私が一人寝られるかどうかの狭い場所で、葉っぱで作られた寝床はふかふかで気持ちいいが、いつまでもここにいる訳にはいかないと這い出てみれば空高く伸びる大きな木々と緑の深さに驚嘆の声が漏れる。


「起きたのか。」


「誰…?」


思わず聞いてしまったのは2mは優に超える長身に筋骨隆々な身体を惜しげもなく見せる上半身裸の変態男が、さも知り合いのように話しかけてきたからだ。


「俺はグレアムだ。お前は?」


「私はロレイン・アンティ…いえ、ただのロレインよ。」


「…それで、肩と腕はどうだ。」


「そういえば、全く痛くない。」


「噛み跡は残ったか。良かった。」


「いや、良くないでしょ普通。女性を傷物にしたらなんとやらだよ。」


「承知している。だから大人になってやっただろう。」


「大人…?え、あの小さな子供が君なの!?」


「獣人は番を見つけると成長するからな。」


「ん?今さらっと聞き捨てならないワードが聞こえた気がする。」


「ロレインは人種だから知らないのか。番とは雄と雌の事で…。」


「いや、それくらいわかるから!そうじゃなくて、番を見つけると成長するって…。まさか君が言う番って私のことじゃないよね?」


「もちろんお前のことだ。」


「ですよねー。何となく察してたけど、丁重にお断りさせてもらいます。」


「拒否権などないぞ。ロレインの寝ている間に番の印を付けておいた。」


「え、どこに!?」


「お前から見えないところだ。」


「困るよ!私はまだシルヴァ様のこと諦めてなかったのに…。」


「シルヴァとは誰だ。」


急に低くなった声にビクッと身体が飛び跳ねる。

明らかに不機嫌なのがわかるほど牙が見え、鋭い爪で木の皮をベリベリと捲ってなんとか怒りを抑えているようだ。

それにしても何故グレアムと番になるなんてことになったのだろうか。

彼の怪我の治療をしてから先の記憶はない。

となると転移性恋愛というやつか。

この症状についてちゃんと説明して理解してもらう必要があるだろう。

でもその前にシルヴァ様のことか。

つい余計な一言を言ってしまったことに後悔したが、この気持ちに嘘偽りはない。

シルヴァ様とは断罪してくる王子ではなく、王室付き騎士のシルヴァ・クレイトルのことだ。

転生前からずっと推してきた彼は攻略対象ではなかったが、転生してからお近付きになり。

恋人まであと一歩と思っていたところで物語の強制力が働いた。

このままでは断罪される道しか残されていないからと家出するに至ったのだ。

それでもこの気持ちが薄れたわけではない。

思い出すだけで顔に熱が集まるのを感じながら一息ついてグレアムと視線を合わせる。


「シルヴァ様は王国騎士で私がお慕いしている人だよ。」


「会ったらコロス。」


「怖い怖い。因みにグレアムは私に恋愛感情を抱いてくれているみたいだけど、それは転移性恋愛だと思う。」


「転移性恋愛?」


「怪我を治療してもらった相手に一時的に恋愛感情を抱くことがあるんだよ。冷静になったら好きじゃないって気付くから。」


「…だとしても関係ないな。番の印は死がふたりを分かつまで消えない。」


「うそ…。」


「獣人種のことを勉強した方がいいぞ。これから俺と生きていくことになるんだ。」


そう言ってにやりと笑った彼は後ろに移動するとそのまま抱き込まれた。

抵抗してはみたが、圧倒的な体格差があり過ぎる。

獣人種にとって人種は子供みたいだと言っていた学園にいる友人の言葉を思い出して深いため息をこぼすのだった。

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