12. 昼寝用の枕
城に戻ってきたグレアムとアンフィムは途中で止められたことで不完全燃焼だったのか。
熊の姿のまま演習場にある巨大な丸太に当たり散らしている。
「…二人共ご機嫌斜めだ。」
「暫く好きなようにさせておけ。そのうち落ち着く。」
リオはそう言うとロレインの膝枕を堪能しながら目を閉じた。
次々と壊れされていく丸太にいつ落ち着くのだろうかと眺めながら彼のサラサラな髪を撫でていく。
喉がゴロゴロと音を立てているのが聞こえてくるということは気持ちが良いのだろう。
かれこれ1時間半は経過したはずだが、未だ彼等の機嫌が治ることはなく。
悪化しているようにも見える。
「暴走状態に近いな。相当腹を立てているようだぞ。」
「…止めてくださらないですか…?」
「我では火に油を注ぐだけだろう。本能が優先されていると見境なく攻撃してくる。」
リオの言葉通り、荷物を手に近くを通っただけのバルトロにいきなり噛み付いた。
引き剥がそうとしている彼だが、一度噛み付いた二人が離れることはなくポタポタと地面を赤く濡らしている。
「グレアム様、アンフィム!離して下さい!」
「グルルルルル。」
「リオ陛下!これはどうなっているのですか?」
「気にするな、癇癪を起こしているだけだ。」
「き、気にしますよ!痛っ。」
骨を噛み砕きそうな勢いで次なる場所へと噛み付いたグレアムに居ても立ってもいられなかったのか。
ロレインが近付けば、先程までバルトロを食べることにしか反応しなかった二人が口を離し四足歩行で彼女へとマーキングを施していく。
まだ瞳は暴走化している時の特徴のように光のないものだが、番であるロレインかそれ以外という認識は出来ているようだ。
「昼寝用の枕は勝手に動かないぞ。」
リオは呆れた表情でそう言いながら近付いてくるが、それと同時に二人から強い威嚇の声が聞こえてくる。
彼の言う通り陛下も敵として認識しているようだ。
「どうしてそんなに怒ってるの?」
「…グルルルルル。」
「私のこともわかってなさそうだけど。」
小さく溜息を零しながら撫でてくれとでも言うように近付いて来たアンフィムの毛を撫でると少し落ち着いたのか獣人の姿に変化して行く。
「やっとか。お前たちのせいで我の枕が勝手に動くのだが?」
「ロレインを専属の枕にするの止めてもらえませんか。」
「何を言う。昼寝は王の嗜みだ。」
「寝所の枕をお使い下さい。」
「あれは枕とは言わん。」
「好意を持たないと言っていた陛下の言葉とは思えませんね。」
ロレインに撫でられたことでやっと落ち着いたグレアムがそう言うと彼女の頭上に顎を乗せ大きな欠伸を溢した。
「グレアム、退いて。バルトロさんの手当てしないと!」
そう言って出血しているバルトロの手当てを始めると邪魔にならない程度に引っ付いているものの文句はないようだ。
深い傷になっていないかと心配していたが、意外にも掠り傷程度でどうなっているのだろうと彼の腕に触れていると後ろから腕が伸びてくる。
不満気な表情を全面に出したリオは無理矢理彼女を抱き上げると王の寝所がある奥の部屋へと入っていってしまった。
「私やグレアム様より陛下の方が余程、独占欲が強いと思うのですが…。」
「…腹立つが、陛下のロレイン依存は異常だろ。」
「そうですね。常に人種を探して城を徘徊されるので皆仕事にならないんですよ。」
「バルトロがそう言うなら相当ですね。」
「今回はどこに行ったか分かっていたから良かったものの、もしあの人種の所在が不明になったら大変なことに…。うう、想像もしたくありませんね。」
「陛下が暴走なんてしたら世界の半分以上は一瞬で破壊されるだろ…。」
「ですから陛下には特別な存在は作ってほしくなかったのですが…。ましてや人種などという脆弱な存在は…。」
バルトロは大きなため息を零しながら持っていた荷物を持ち直し、仕事に戻るべく歩いていった。
その頃。
リオに連れられたロレインは膝枕としてベッドに座らされ、少し機嫌が戻った彼にホッとしていると下から視線を感じる。
「…番以外の雄に触れるな。」
「バルトロさんのことですか?」
「そうだ。他の番は仕方ないと我慢できるが、首を喰い千切ってやろうか思った。」
「首って…バルトロさん死んじゃいますし。その表情は怖いですよ…?」
明らかにギラギラとした鋭い視線は今から昼寝をしようとしているようには見えない。
グレアムとアンフィムより明らかに厄介になりつつあるリオに困ったものだと小さくため息をこぼす。
「…ロレイン。二度目はないぞ。」
「二度目?」
「次、我の目の届く範囲から居なくなったら手足の自由を奪ってここに閉じ込めてやろう。」
闇を映す彼の瞳に本気度が伝わってきて、何度も頷けばやっと瞼を閉じ眠る体制に移行した。
5分ほどするとすうすうと小さな寝息が聞こえ、昼寝を始めたようだ。
暫く眺めていると空調の整えられた王の寝所は心地よく同じように眠りに落ちていくのだった。




