11. 人種と処刑
ある日の昼下がり。
いつものように番の相手であるロレインにあてがった部屋を訪ねたリオだったが、そこに姿はなく。
彼女を探して城中をうろうろと歩き回っていた。
「陛下、あまりうろうろされますと皆が萎縮してしまって仕事になりませぬ。」
「知らん。」
「はぁ、何かお探しですか?」
「ロレインはどこだ。昼寝をするのに枕がいる。」
「人種なら今朝早くに港へ出掛け…。」
彼の言葉にリオはすごい速さで走り出すと港に向かって行ってしまう。
普通の国であれば王を止めるべく急いで追い掛けるのだろうが、獣人種である彼らはただ見送るだけだ。
港町につくと帆船がいくつかあり、すでに出港している船が遠くに見える。
「陛下!?」
「我の番を見なかったか。」
「人種なら2時間ほど前に出港した船でコランダムに行かれましたよ。」
「ほう。我の許可もなく船旅か。」
にんまりと笑みを浮かべたリオは獣の姿へと身体を変化させ地面を蹴るとそのまま海へと飛んでいってしまう。
その頃、探し人であるロレインは甲板で海を眺めていた。
「おい!すごい勢いで何かがこっちに向かってきているらしいぞ!」
「やべえよ。あの速さのまま衝突したらこの船は木っ端微塵だ。」
不穏な内容に視線を動かすと明らかにこちらに向かってきている何かが見え、彼らの言う言葉が事実だと理解出来る。
とりあえずここにいるのは不味いかと、移動するべく動き出した彼女の身体は床に押さえつけられた。
大きく鋭い牙のある獣の姿のままロレインを見据えている。
ぺろりと彼女の頬を撫でると満足げな表情で獣人の姿に変化していった。
「…っ。」
「帰るぞ。」
「え、陛下…!?ちょっと待って下さい!」
「何だ。」
「勝手をしたことは謝罪致しますが、どうしても国に帰らなくてはならない事情があるのです。」
「そうか。今話せば考えてやる。」
「…それは。」
「話せないなら城に戻るぞ。拒否権はない。」
「…私が戻らなければ友人を処刑すると通達が…。」
思い詰めたような表情をするロレインに小さくため息を溢したリオ。
ロレイン以外の人種がどうなろうと興味はないが、彼女が辛い思いをするのであれば別だ。
「それを助けたら城に戻るか?」
「…いいえ。きっと私が逃げることでまた別の誰かを処刑しようとするでしょう。それなら…。」
その言葉に彼女が自らを犠牲にしようとしていることを理解したリオはそれ以上何も言わなかった。
あれから数日。
コランダムにたどり着いた二人は王国騎士に連れられ、処刑場のある城の地下へと入っていく。
遠くに見える王の姿にフードで顔を隠したままのリオはニヤリと笑みを浮かべ、対象的に緊張した面持ちのロレイン。
「ロレイン・アンティル、大罪人でありながら隣国に逃げるなど言語道断。人種の恥晒しだ…!」
「ロレイン!」
「…グレアム?」
「良かった、怪我はしてないか?」
「アンフィムまで…どうしてここに…?」
「貴様等は何者だ!邪魔をすると一緒に処刑…。」
「人種如きが熊族である我らを処刑できるわけがないだろう。歯向かうなら遠慮なく喰えるというものだ。」
「そうですね。もとより人種は絶滅すればいいと思っているので陛下が許可してくださればいつでも可能です。」
「陛下…?獣人種の陛下がいらしているのですか!?」
慌てふためく彼らを他所にクツクツと笑い声を上げるフード姿の彼の前に膝をついた二人。
もう少し様子を見ようかとも思ったが、時間をかける意味もないかとフードを外した。
金色の髪に茶色の瞳。
見覚えのある姿と全身に纏う威圧感は彼が獣人種の王であることの証明のようで、騎士達は皆恐れをなして膝をついてしまう。
「…それで?我の番に何用だ。」
「陛下の番…?まさか、彼女は罪人ですよ!?陛下のような高貴なお方を誑かすなど…。」
「ほう?我が人種如きに誑かされたと言いたいのか。」
「そ、そういう意味では…。」
「ならどういう意味だ。ロレインは我の番だ。処刑するというのならまず我の命を奪わねばな。」
「っ。」
「父上!ロレインはこちらの法で裁かれるべき存在!獣人種の事情など知ったことではありません!」
大声でそう言い放ったのは今回の処刑を強行させた王子で、学園で何度も顔を合わせた存在ゆえに小さくため息を溢した。
甘やかされて育ってきた彼は外交には無頓着で人種こそが一番優れているという考えを持つ。
リオはそれに気づいているのか。
彼の言葉には反応しないもののロレインの腰に回した腕が獣化している。
「…陛下?」
「なんだ。」
「…何か不穏なことを考えていませんか?」
「どうだろうな。そろそろ和平条約を破棄して人種を我が手中に治めるかと考えていた。」
「和平条約の破棄など勝手にできるはずが!」
「人種の王よ。それの手綱は常に握っておかなければな。次に口を開けばその首、食い千切るぞ。」
リオは我慢の限界に達したようで口元から巨大な牙を出し彼らを見据えた。
和平条約は獣人種にとってはメリットの全くないもので、当時獣の花嫁の存在があったからこそ結ばれたもの。
その生まれ変わりであるロレインを処刑しようとした時点で獣人種の彼らが人種と条約を結び続ける意味など一つもなくなったことに気付いていないようだ。
「今手を出さない理由は一つ。ロレインがそれを望まぬからだ。二度とロレインに関わらぬなら今回だけは引いてやる。」
「陛下!それではロレインの心労分はどうなるのですか。」
「そうだな。ならそこの人種は生贄になってもらおう。文句はないな。」
リオのその言葉に熊の姿になったグレアムとアンフィムが騎士に襲いかかった。
剣を持ってしても獣人種の身体を貫くことは出来ず、白銀の鎧は意図も簡単に彼らの爪を貫通させる。
先程まで勢いのあった王子も彼らのその姿を見て恐怖で声すら出ないようだ。
「グレアム、アンフィム。もう止めよう。」
「どうしてだ?」
「ロレインを処刑しようとした奴らだ、慈悲など不要だろう。」
「陛下のお陰で私は無事だし。そもそも彼らは王命にしたがうのが仕事だから個人的に私を嫌ってとかでやってるわけじゃないよ。」
「そうか。元を断たねば意味がないと。」
「へ、陛下!そういう意味じゃないです!私はもう…。」
「ふぅ。ロレインが言うなら仕方ないか。城に戻るぞ。」
リオのその言葉に騎士の足に噛み付いていたグレアムはやっと解放すると一瞬にしてその場から消えていくのだった。




