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どんな危険が待ち構えているか、戦々恐々としていた私が見た風景は、良い意味で予想外のものだった。
水色が眩しい空では雲が気持ちよさそうに流れていて、太陽のようなものが二つ見受けられる。
青々とした草木や見たことがない花々がそよ風に身を委ね、静かに揺らぐ心地良い音だけが聞こえていた。
そんなメルヘンチックな風景の中で唯一異様な雰囲気を放っているのが、茨で遮蔽されたお城。
お姫様がいるであろうお城は、本当に建物全体が茨で覆われていた。
私達が今出てきたのはまた別の建物で、小さな塔のような外観をしており、お城から少し間を置いて建っている。
昨日集まった広間を見た感じ、城内で使用できる部屋がほぼないのだろう、今はそちらを拠点にしているようだ。
私達が辿っている光の道は、丁度お城とは逆の方向に向かっていた。
そして私はというと、脇から肩にグレードアップし、現在俵担ぎの刑に処されている。
「そろそろ下してもらえないでしょうか…」
「いやだね」
「ここまで来たらもう逃げないって」
「はっ、どうだかな~」
地面に降り立ってすぐ脇から解放され、隙を突いて逃げようをした私の隙を航晴は見逃さなかった。
いとも簡単に捕まり、軽々と肩に担がれ、今に至る。
個人的にお姫様抱っこよりも恥ずかしいんだけど、この格好。
早く降ろしてくれないかな、と広い背中に念を送るが、当然歩みが止まることはなかった。
「着いたみてーだな」
祈りの甲斐あってか、程なくして目的地に到着したようだ。
そう言われて振り向いた私の目前には、見事な花畑が広がっていた。
辺り一面、白やピンク、紫の花々で埋め尽くされ、一つ一つの花から小さな泡が立ち昇っている。
「撫子」
「ん?」
「見ろ、これ」
航晴がその場で軽く宙を蹴ると、まるでそこに壁でもあるかのように足が跳ね返された。
これってもしかして………
「結界だ」
私を肩から下ろし、再度強めに蹴ったり、殴ったり、魔法をぶっ放したりしていたが、結果は全て同じ。
景色は変わらず綺麗なままだ。
結界ねぇ………
「絶対この先に何かあんだろ。どうすっかな…」
「つかぬことをお聞きしますが」
「なに」
「光の魔法って使えたりする?」
…
……
………
「へぇ~すげぇじゃん。予知夢ってやつ?」
「うーん、まだちゃんとわかんないから何とも…」
そよ風に撫でられた髪を耳にかける。
昨夜見た夢の内容を航晴に話してみた。
夢から覚めると光の道が出来ていて、その道しるべを辿ったら結界が張られた場所に着いた。
ちょっと、偶然だとは思えない。
予知夢って言われると少し違う感じがするけど、もしもそういう類の夢だったら、女の人が言った通りに光魔法で封印は解けると思う。
ただ、封印が解けたら闇魔法でしか倒せないなんとか兵が百体いるっていう言葉がひっかかって、安易に試してもらうことは出来ない。
だって、私戦えないし。
戦闘になんてなったら、足手まといになることなんか火を見るよりも明らかだ。
やっぱりここは一度戻ってヴァルトリ達に相談した方が良い気がする。
そう、うだうだと一人で考えていたのが悪かった。
「あ。」
間の抜けた声が聞こえ、航晴の方に向き直る。
「なんかできちゃったっぽい」
「うそでしょ……」
びくともしなかった透明の壁が、塵になって搔き消えていく。
途端に風は止み、空が暗紅色に姿を変えた。
可憐に咲いていた花々は波が引くように消え、荒れ果てた大地が露になる。
今度は波が押し寄せるように、仮面をつけた馬に跨った鎧姿の兵士達が続々と姿を現した。
二百の瞳が一斉にこちらに向く。
「いやーーーー!!むり無理ムリむりぃーーーー!!」
「おい、あんまくっつくなって、集中できねぇ」
無茶言うな!!!
半べそをかきながら、より一層力強く航晴にしがみつく。
多種多様な武器を持った兵士達が、あらゆる方向からあらゆる戦術で確実にこちらを仕留めようとしてくるのを、航晴が私というお荷物を抱えながら、避けたり、いなしたり、反撃したりしていた。
おかげで傷一つ負っていないが、如何せん怖すぎる。
あっちの世界では体験したこともない状況に、叫び声を上げることしかできない。
「大丈夫だから。ちょっと落ち着け」
「落ち、着ける!わけ!……きゃあっ!」
「あ~~、まぁこれじゃ埒が明かねーか。しゃーねぇ」
嫌そうに溜息を吐いた航晴が目を閉じた次の瞬間、足元から光が溢れ出す。
その間も攻撃は止まないが、なぜか当たらないようだ。
光はそれぞれ四つの円柱を作り出すと、ふいに散り散りになり、開け放たれた空間には昨日ぶりに見る姿があった。
「ふむ、ニーミャの生着替えがそんなに見たいか、ささきこうせい。わかっているではないか!」
「わーー!我もあの武器ほしい!エティ隊長、見て見て!おーきーてー!」
「すぅー……」
「お前達、ここで何をしている」
「ヴァルトリ、説教は後にして。こいつ頼むわ」
不安で未だ服を掴んでいる私の手を「大丈夫だって」と軽く払いのけ、私はエプロン姿のヴァルトリに預けられた。
ツィピも可愛らしいエプロンを着けていて、そこから察するに、二人で朝食の準備でもしていたのだろう。
本当に申し訳ない。
寝ているエティの上着を剝ぎ取った航晴が、ネグリジェのみを身に着けたニーミャの顔面目掛けてそれを投げつけた。