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息苦しさを感じ、少し身じろぎしようとしたが、何だか体が重い。
まるで何かに押さえつけられているような不快感に、ゆっくりと瞼を上げる。
「あっ、起きた!ヴァル様!起きたーー!」
二つに結った髪を揺らしながら幼い女の子が私の上から降り、どこかへかけていった。
そりゃ重いはずだよ。
軽くなった身体を起こし、四方を見回してみる。
全体的に紫と黒で統一された上質なホテルの一室という感じの部屋。
アンティーク家具が簡素に配置されていて、毒々しい色も相まって生活感をまるで感じない。
重厚感のあるカーテンは閉ざされ、外の様子は伺えないようだ。
「見たところ問題なさそうだが、どこか痛むところは」
さっきまで誰もいなかったはずの空間から声がした。
低く落ち着いた声のする方に顔を向ける。
「あ、りません」
「言葉も通じるようだな」
不気味さをふっとばす程の端麗な容姿にびっくりして思わず言葉が閊えてしまった。
ファンタジーな漫画でたまに見る黒白目も目を引くが、何より右側の額から突き出ている動物の角のようなものが、より一層男を人ならざる者のようにみせている。
というか、たぶん、人間じゃない。
「人間、ですか…?」
「初めに聞くことがそれか。我は人ではない」
私の質問がおかしかったのか、少し笑いを含んだ答えが返ってきた。
やっぱりと思うと同時に、恐怖心が湧いてくる。
今はいつで、ここがどこで、私はどうされてしまうのか、悪い想像だけが頭の中を駆け巡る。
「ここはお前がいた地ではない。元いた地に帰りたければ、我らの用を果たしてもらう必要がある」
とても嫌な予感がする。
できれば聞きたくない。
夢ならば早く覚めてほしいのに、徐々に痛みだす頭や早まる鼓動が夢ではないと訴えてきているようで。
「用って……?」
「魔王様奪還に手を貸してもらいたい」
思えば今日は朝からついてなかった。
目覚まし時計が壊れて危うく遅刻しかけるし、スマフォは家に置き忘れたし、占いは11位だし、昨日のドラマは見れなかったからネタバレくらうし、苦手な世界史で当てられるし、とどめに失恋した。
今日一日にどんだけ不幸を詰め込めば気が済むのか。
どうか無事に家に帰してください……。
いるのかいないのかわからない神に祈るように天を仰いだ。
「聞きたいことがあれば聞くが」
「聞きたいことだらけだわ!」