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「好きです。付き合ってください」
夕映えに包まれた放課後の教室。
定番のシチュエーションにお決まりの台詞。
学年、性別問わず可愛いと評される彼女が、頬を薄らと桃色に染め恥ずかしそうに相手を見つめる。
いつもより可愛さが増した彼女の告白を断れる男がこの学校にいるだろうか。
「…ありがとう」
静かに、しかし声音に嬉しさを滲ませて、私の幼なじみはそう答えた。
最後まで聞くまでもない。
もう結末はハッピーエンドに決まったも同然だ。
私は逃げるように青春に支配されたその場を後にした。
タンタンタンッと、律動的に階段を下る。
少し足早になるのは私も彼女と同様に彼に好意を寄せていたから。
詰まるところ、失恋したのだ。
ぐうかわな彼女に協力してほしいと頼まれたのが数ヶ月前。
遠回しに断ってみたものの、何度も協力を仰ぐ彼女の熱意に押され結局仲を取り持つことになり、遂に告白を決心した彼女について来てほしいとこれまた頼まれ、先程の甘酸っぱいイベントを経て今に至る。
自縄自縛とわかっていても、少し目が潤んでしまう。
この『断れない』性格で何度後悔してきたことか。
幼い頃からの苦手分野は未だに克服できないでいた。
次の踊り場まであと数段といった時、ふいに視界がぶれる。
「いっ……!?」
突然のことに驚き、間抜けた声が辺りに反響した。
ちょっと恥ずかしい…。
焦りながらも視線を下に向けると、ちょうど私の体型が通るくらいの穴がぽっかりと開いている。
恐怖を感じたのも一瞬、重力に逆らうことなく私はその穴に吸い込まれていった。